忘れん坊の外部記憶域

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両論併記における誤った等価関係への反論

 客観的な事実や科学的な証拠よりも感情や個人的な信条によって表されたものの方が重視されて影響力を持ってしまう状況をポスト・トゥルース(post-truth)と言います。代表例としては2016年に起きたイギリスのBrexitやアメリカのトランプ大統領当選がよく挙げられています。

 個人的にはこの2つの事例は、投票によって民意が反映されたポピュリズム寄りの妥当な民主主義的結果だと考えているのですが、どちらかというと反知性主義的な認知をされることが多そうです。

誤った等価関係とは 

 なぜ事実や証拠よりも感情や信条が優先されるポスト・トゥルースが起きるのか、その原因の一つが「誤った等価関係」であるとされています。

 誤った等価関係とは、完全に対立する二つの議論について実際にはそうではないのに両者が論理的に等価であるかのように扱うこととされており論理的誤謬の一種です。

 例えばNASAの月面着陸について、着陸したという見解とアポロ計画陰謀論を並べて両論併記してしまうと、まるでどちらも説得力のある意見のように見えてしまい読者が誤解する危険がある、というのが誤った等価関係です。(個人的にはアポロ計画陰謀論も面白いとは思います、信じるかどうかは別として。)

両論併記への反対意見 

 誤った等価関係を避けるために両論併記は辞めるべきだという意見がいくつかありますので見てみましょう。

【最終回】もはやメディアの「両論併記」型は、百害あって一利なし!|俗流フクシマ論批判|開沼博|cakes(ケイクス)

「何でもかんでも両論併記」は言論空間をダメにする | メディア万華鏡 | 山田道子 | 毎日新聞「経済プレミア」

委員長談話 沖縄の苦悩に「両論併記」はありえない | 民放労連

 以下の過去記事にもあるように私は両論併記を是とすべきだと考えていますので、少し反対意見を述べてみます。

 前述の意見は2つに整理できそうです。

 1つは「メディアが正しい情報を伝達する努力をせずに両論を並べてお茶を濁している」というメディア側への批判です。

 もう1つは穿った嫌味な言い方になりますが「民衆には正誤の判断をする能力が無いので識者が正しい情報を教えてあげなければいけない」という傲慢さです。

両論併記を推奨する理由

 メディア側への批判について、これは正しいでしょう。ジャーナリズムとは事実の伝達の他にもその解説や論評を含む行為です。「報道の公平性・中立性を保つために両論を並べたのでこれでいいじゃないか」というのはジャーナリズムの放棄に他なりません。しかしだからといってメディアが正しいと判断した情報のみを選別して報道するのは過去記事でも述べたように独裁や専制となんら変わりなく、民主主義を破壊する行為です。

 メディアの方々には大変だと思いますが、両論を併記した上でメディアとしての見解を述べることが望ましいでしょう。「こちらにはこんな意見があります」「あちらにはあんな意見があります」「我々はこちらの意見を支持します」と、自らの責任を持って解説・論評をしていただくことで、ジャーナリズムの責務を果たしつつ民衆にも全ての情報を伝達することができます。

 

 物事の価値は相対的なものです。良い悪い、正しい間違っているの判断は比較をして初めてすることができます。悪いものや誤ったものを隠すのはそれがどれだけ善意や責任感からくるものであろうと不適切です。

 悪いものや誤ったものを隠すというのは、ものすごく雑に言ってしまえば世界征服を企む悪の組織を出さないヒーローモノを放送するようなものです。どれだけヒーローを善良かつ正義であると描きたいとしても、比較対象となる悪行と不義が存在しなければそれは視聴者に伝わらないでしょう。なにせ悪役がいなければヒーローは戦うことなくただ日常を過ごすだけであり、その日常から視聴者が正義を理解するのは無理です。

 

 また悪しきもの、誤ったものの一部は陰謀論や懐疑論と呼ばれるものです。陰謀論とは主流な学説や事実に対して何らかの陰謀や謀略が背景にあると考えるものです。先に述べたアポロ計画陰謀論の他にもユダヤやワクチン、温暖化や同時多発テロなど多くの物事で主流に対する陰謀論・懐疑論が存在しています。

 両論併記はこの陰謀論を助長してしまうと言われることがありますが、個人的には逆の考えです。国家やメディアが主流の説だけを伝え、反対側の説を伝えなかった場合に陰謀論者はどう思うでしょう?

 「我々の意見が闇の勢力に封殺されている!」

 「政府やメディアは情報を隠している!」

となってさらに陰謀論にのめり込むのは必定です。さらには隠されていた情報を見つけた人は「世の中の真実を理解した」と誤解してしまうことにも繋がりますので大変に危険です。

 怪しい意見や陰謀論なんてものは隠したり封じ込めたりなんてしようとせず、全部並べて白日の下に晒して主流な意見と比較すればいいんです。メディアが説を並べて分かりやすく解説・論評をすれば民衆だってどちらが正しい意見か判断することができます。それをせずに片方の意見だけを取り上げるのは印象操作と言われても仕方がありません。

 さらに言えば主流な説はそのような反証を受けることが必須です。実は並べてみたら主流な説だって根拠が乏しいかもしれません。正しく、科学的で主流な説でありたいのであれば、喜んで反証を受け入れるべきでしょう。