忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

ルンド大学の講師は世界最低の指導者なんて言っていない

 あまり人様を悪く言うようなことを書きたくはないのですが、さすがに酷いと思ったので記事にします。物事を批判するのは個人の自由ですが、他人の見解を紹介するのであればそれを捻じ曲げてはいけません。

 2021年6月24日にヤフーニュースで見た記事に関する見解です。

  紹介元のUPI通信の記事と比較してみます。著者はルンド大学のPaul O'Shea上級講師です。スウェーデンの大学の仕組みについてはあまり知識が無くて申し訳ありませんが、イギリスと同様であるならば上級講師は助教授に該当する地位の方です。

UPI通信の記事との比較

 飯塚さんの記事では菅首相がオリンピックを強行開催することを外信が批判しているように紹介していますが、そもそも紹介元の記事タイトルは「Japan may not be able to cancel Olympics, even if it wants to」です。ざっと訳すと「日本はオリンピックを止めたくても止められないのかもしれない」となります。

 記事の中でPaulさんは以下のように書いています。

In the region fraught with geopolitical tension and rivalry, this kind of international prestige matters, at least to the leadership.

 地政学的な緊張と対立に満ちたこの地域(東アジア)では、少なくとも指導者にとってはこのような国際的な威信が重要である。

  しかしながら、飯塚さんの記事では引用されていませんが次の段落ではこのように書かれています。

Right to cancel

So far, I have outlined the politics and prestige from a Japanese perspective, as if the decision were solely Tokyo's to make. Legally, however, the Olympics are not Tokyo's to cancel. The IOC owns the games, and Japan is contractually obliged to host them.

中止の権利

ここまでは日本の視点から政治と威信について説明して、あたかも東京だけが決定権を持っているかのように説明してきました。しかし法的にはオリンピックは東京が中止できるものではありません。オリンピックはIOCが所有しており、日本は契約上開催する義務があります。

  Paulさんは菅首相が強行開催することを非難するというよりもオリンピックの開催決定権はIOCにあることを述べており、だからこそ記事タイトルを「日本はオリンピックを止めたくても止められないのかもしれない」にしています。

 この記事を紹介して、まるで東京がオリンピックを強行開催しようとしていることを海外が批判しているというように持っていくのは不公正です。というよりも、もっと直接的に日本を批判している外信が普通にある中、わざわざこのような中立的な記事を持ってきて日本批判をするのは悪意があると思われても仕方がありません。

 また、世界最低の指導者と言っているのは飯塚さんだけです。

菅首相は世界から見ると日本国の指導者である。つまり、日本国の指導者である菅首相は、“世界最低の指導者”とみなされることになるわけだ。

If the games fail, it won't be a bronze medal Suga will receive on his way out the door. Maybe a wooden spoon instead.

 Paulさんはスポーツ文化になぞらえて、もし大会に失敗したら菅首相は銅メダルではなく参加賞のWooden Spoon(木のスプーン)をもらうことになるだろう、と言っているだけです。確かに厳しい表現ではありますが世界最低の指導者のような表現はしていません。

Paul上級講師について

 Paulさんの過去の記事も読んでみましたが、日本に厳しい表現が多いのは事実です。しかし適切なことは褒めて不十分なところには厳しく指摘する、というような内容であり、日本嫌いというよりもむしろ日本好きなんじゃなかろうか、内情に詳しすぎるぞ、というような印象です。まあ印象は人それぞれですが、紹介記事である以上言っていないことを曲げて紹介するのはさすがに宜しくありません。

余談

 一点だけPaulさんの元記事で気になったところがあるので記録しておきます。

Japan has an extremely low voter turnout. Combined with the peculiarities of the electoral system, this means that the LDP does not have to win anything close to a majority of eligible voters in order to retain power. At the last general election, while only 25% percent of eligible voters chose the LDP, this gave them 60% of the seats in parliament .

  最後の文、ざっと訳すと「前回の総選挙では有権者の25%しか自民党を選んでいなかったにもかかわらず、60%の議席を獲得している。」とあります。これは単純な割り算・割合の勘違いです。有権者数で割るのであれば野党だって有権者の約25%しか選ばれていません。残りの約50%は棄権ですので、60%という「議席数の割合」と比較するのであれば有権者数ではなく有効投票数で割らないと意味がありません。有効投票数で割った得票率が約50%なのに議席数は60%になるのは日本の選挙制度がおかしい、であれば分かります。投票率が85%を超えるスウェーデンに住んでいるからこそこのような誤解をしたのだとは思いますが…