忘れん坊の外部記憶域

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擬人化に関する考察~文化・地理・宗教を軸として

 日本人論について書こうと思ったのですが、その前の下地として、日本と他国を比較する題材に擬人化を用いてみます。

擬人化とは

 擬人化とは人間以外のものを人間のような形質や特徴を与える手法です。動植物や事物、自然や現象などを人のフォーマットを用いて特徴付ける、キャラクタライズすることで新しい特徴(キャラクター)を持たせることができます。つまりユーモアを持たせたり、説明や伝達を容易にしたり、表現を拡大することが可能になります。

 擬人化自体はそれこそ人類史の初期からあります。古代ギリシャでは修辞技法(レトリック)の1つに擬人法というものがありましたし、ギリシャの神々は人間と同じような形態や個性を持っています。子供向けの童話・寓話では三匹の子豚やブレーメンの音楽隊など多くの擬人化されたキャラクターが登場します。

 日本でも著名なものとしては平安時代の鳥獣戯画がありますが、そもそも日本昔話ではイヌやサルやキジが喋ってキビ団子を食べたり鶴が女性に変化したりと、当たり前のように擬人化が使われています。

日本における擬人化

 擬人化によるキャラクタライズは世界共通の手法だということがわかりますが、しかしながらどうやら海外から見ると日本は他国に比べて擬人化が好きなようです。ネットミームの1つにJapanizing beamというのがありますが、これは何でもかんでも擬人化してしまうというジョークです。

 確かに日本では神々や自然は言うに及ばず、医術車輪書、融通念仏縁起絵巻や疫病神の詫証文のように疫病すらも擬人化して捉えられてきました。浮世絵には擬人化された動物が山のように登場し、現代でもあちらこちらに擬人化されたキャラクターが溢れかえっています。

 さらにキャラクタービジネスの世界であれば上位は日本勢が多くを占めています。2020年に米金融機関が発表した世界エンタメランキングにおいてトップ10の半分は日本製です。

 トップ10は順に、ポケモン、ハローキティ、くまのプーさん、ミッキーマウス、スターウォーズ、アンパンマン、ディズニープリンセス、マリオ、少年ジャンプ、ハリーポッターです。上位の半分が擬人化されたキャラクターコンテンツであり、さらにその多くが日本から産み出されたものですので、他国の人が日本は擬人化好きと考えるのも致し方ないでしょう。 

なぜ日本は擬人化が好きなのか 

 なぜ日本人は擬人化が好きなのでしょうか。他国と比較するのであればやはり切り口としては社会構造や文化、歴史などから見るのが適切でしょう。

 まず大陸国家と日本の宗教観の成り立ちから考えてみましょう。大陸では遠方に行けば資源や土地が潤沢に手に入りやすいことから移住の敷居が低くなっています。よって異民族との接触や交流も頻繁に行われることになり、大陸国家は他民族国家となる傾向があります。他民族国家は国家としてのまとまりを強くするため、それぞれの民族における神話や伝統を統合・整理する必要に駆られます。悪く言えば征服した民族の伝統を消す、良く言えば吸収して同化する必要があったためです。統合・整理が続いていくうちに最終的には一つの絶対的な神へと収斂していきます。そのため大陸国家の多くは一神教が強くなります。

 対して日本では土地は狭く遠方に行っても資源が豊富なわけでもない上、農耕が主流だったために移住の敷居が極めて高かったことから定住が主流となり、異文化との接触や交流機会は減ることになりました。そうなると神話や伝統の関心の多くは自然現象に向けられます。異文化の神よりも雨や河、山や風のほうが農耕生活には重要だからです。このように異文化との接触機会が少ない文化圏(島国や南米、アフリカやネイティブアメリカンなど)は精霊信仰を軸とした多神教が強くなります。

 一神教の神には人間としてのキャラクターは不要です。何せ絶対的なものであり、全知全能であるゆえに人間的な弱点を持ち合わせていてはいけないからです。

 多神教の神は反対にとても強いキャラクターを持ちます。ギリシャ神話やローマ神話、日本神話を見ても分かるように恋をしたり浮気をしたり失敗をしたりとまったく完全な存在ではありません。数多居る神々を識別分類するためにキャラクター性は必須だからです。また一神教の絶対神とは異なり多神教の神々は身近な自然現象を元としているため、交渉の余地を作るためにも人間性が必要でした。雨乞いのように、貢物をあげるから雨を降らせてください、というのは相手方にキャラクターが無いとできないことです。 

 ここでさらに島国における定住が拍車を掛けます。移住可能な地域が多い大陸ではやらかしたり何かが気に食わなければ遠くに出ていけばいいのですが、島国ではそれが容易ではありません。よって神々との関係性(relationship)よりも人々との関係性が重視されるようになります。一神教やネイティブアメリカンのような「偉大なる神」が見ていることよりも「近所の人」に見られていることのほうが重要になるのです。つまり相手方の人間性を的確に把握してやらかさないこと、空気を読むことを求められるため、強制的にキャラクターを認知する能力が高まることになります。それは神々に対しても同じです。

 まとめ

 日本の擬人化好きはこのような島国かつ定住する農耕単一民族であることが理由の1つとできるでしょう。他にも様々な切り口はあると思いますので考えてみると楽しいかもしれません。

 ちなみにキャラクタービジネスのトップ10を見れば分かるように、全部日本かアメリカ製です。日本が強い理由はシンプルに数打ちゃ当たるからです。とにかく日本はキャラクターをひたすら作り続けているのはゆるキャラグランプリとかを見れば分かるかと思います。アメリカが強いのはもう単純にマーケットと広報が優れているからです。当たった奴を育てるのに長けているということですね。その証拠として日本が当てる擬人化コンテンツは比較的新しいものが多いですし入れ替わっていきますが、欧米のキャラクターは昔ながらの古いキャラがずっと人気という状況です。

余談

 ここまでの考察からすると中国は侮れない国家と考えられます。文化大革命のせいで古くからの文化や風習・伝統や宗教は壊滅状態ではありますが、元々は大陸国家のくせに多神教という強力なコンテンツを生むベースがありました。それは西遊記や封神演義など古典小説を見れば分かると思います。妖怪1つ取っても孫悟空や九尾の狐、果ては石の妖怪や琵琶の妖怪だっています。中国が古くからの文化を取り戻すことができれば現在のエンタメ業界の勢力図は大きく塗り替えられることになるでしょう。