忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

得意分野があると勉強が楽になる?

 勉強はどうやってやればいいですか?と時々聞かれるのですが、まあ好きにやりなよとしか言えないもどかしさがあります。私の勉強方法、記憶術はそこまで人に推奨できるものではないからです。ちょっと参考程度に記録しておきましょう。

個人的な記憶法と弊害

 記憶を定着させるには情報の関連付けが重要です。漢字を覚えるには「見る」「読む」「書く」のように複数の感覚器を使うと覚えやすいことと同様に、シナプスを太くするには複数ニューロンの結合を用いることが適切です。

 子供の頃から偉人の伝記や歴史が好きだった私は「歴史」の知識という記憶を一本持っています。よって何かを勉強して記憶する際にはその知識と関連付けることによって記憶を定着させることにしています。これは個人的な記憶術としてはまったく問題無いのですが、人に教える場合は大変な悪癖となります。

 例えば新人エンジニアの若者に熱力学を教える場合、ボイル・シャルルの法則の復習をしているうちにその間の時代にいたラヴォアジエの話が始まり、そこからフランス革命を解説するような脱線をします。頑張って話を元に戻そうとすると、今度はシャルルの熱気球の話からドイツのヒンデンブルグ号まで時代が飛びます。教科書を無視して自由度の高い授業をする社会の先生のような教え方です。自由度と言えばギブズの自由エネルギーとは・・・と急に熱力学に話を戻したりします。やりたい放題です。人に何かを教えるのは向いていないんでしょうね・・・

巨人の肩の上

 学問というのは先人の積み重ねてきた知識の集合体であり、どうしても過去のことを学ばなければなりません。そこで最近は発想を逆転して、教える分野の歴史を最初に学ばせてしまうというのも一つの手かもしれないと考えるようになりました。いや、まあ、歴史好きの私だからそれを楽しめるのであって他の人が同様では無いことは分かっているのですが、教育の効率的にも悪くないかなと・・・

 そういうわけで、参考例として金属材料について若手設計者に教えた時の記録を残してみましょう。

冶金の歴史(教育時に話した内容をそのまま)

 冶金(やきん)とは金属を製錬したり合金を作る技術全般です。人類史はこの冶金の歴史といっても過言ではありません。機械製品の多くは金属の塊ですので機械設計者は冶金技術と歴史を学ぶ必要があります。

 原始時代には長いこと石器がバズっていましたが、ある時原始人は鉱石を熱することでなんか硬くて便利な金属がゲットできることに気付きます。熱して純金属を取り出すことを製錬といいます。ちなみに不純物を取り除くのは精錬といいます、ややこしいね。

 この時に主流になったのは木炭や泥炭を用いた素焼きレベルの火力で作れる自然銅です。銅は金属の中でも融点が低く溶けやすいため、熱して形を整えやすかったのが使われた理由です。

 その後、銅と錫を混ぜると溶ける温度が低くなることに気付きます。銅と錫の合金、つまり青銅の発見です。銅の融点は1000℃以上ですが青銅の融点は800℃程度まで落ちます。これは凝固点降下という現象によるものです。凝固点降下は面白い現象で金属材料と深い関わりがあるため後で自学しておいてください。

 これによって柔らかい銅よりも固い青銅を、より低い温度で加工できるようになりました。発見したのはメソポタミア文明の人々です。現代でいうイラクの辺りです。青銅は銅に比べて圧倒的に硬くて強かったため、メソポタミア文明はそれで武器を作って地域最強の国家になりました。この辺りのシュメールやバビロニア、その後の中東史の話はとても面白いのですが脱線するので止めておきます。(脱線しなかった、偉い・・・偉くはない?)

 ちなみに錫を混ぜることや錫が掘れる場所は国家機密であり、外部に漏らそうとした人間は処刑されたらしいです。でもまあ当然隠しきれるはずも無く、その後世界中で青銅が作られるようになりました。この辺りの時代を青銅器時代と言います。その前は石器時代です。

 そこから1000年以上経って、人類は炉とふいごのような設備を考え出します。そうなると素焼きよりも高温を作れるようになり、もっと融点の高い鉱石も溶かせるようになりました。ここで出てくるのが現代でもバリバリに使われている素晴らしい金属、鉄です。鉄の融点は1500℃以上のため今までの技術では作れませんでしたが、ついに人類は鉄を作れるようになりました。

 銅合金よりもはるかに硬く、頑丈で、曲がらない鉄を最初に大量に作ったのは中国です。君の好きな漫画「キングダム」の時代あたりがちょうど青銅と鉄が切り替わっていた時代ですね。しかし始皇帝の時代はまだ青銅武器が主流だったので、恐らくあの時代の武器は残念ながら鉄製ではありません。青銅の剣は一般的に使い捨てでして漫画のようにあんなにぶつけ合うと多分折れるのですが、まあ漫画ですので気にしないことにしましょう。実際の強度は歴史の闇の中です。

 さらにその後、鉄に浸炭して鋼というもっと硬い鉄を作るようになったのがローマです。この金属はローマは地中海一帯を支配して帝国を築くのに大きな助けとなりました。ローマは同時に銅と亜鉛の合金である黄銅も発見、量産しています。武器には鉄、防具・装飾品・硬貨などには黄銅が使われていたようです。

 これ以降から現代までを鉄器時代といいます。鉄鉱石は世界中に分布しているメジャーな鉱石のため、世界中で鉄器が使われるようになりました。マインクラフトをやったことがある?OK、じゃあ鉄がどこにでもあることはイメージが沸きやすいよね。ちなみにマイナーな鉱石とは宝石とかウランとかプルトニウムとかのことです、争いの元ですね。

 その後しばらくは量産技術の発展が続きます。高炉や反射炉、たたらや水車、石炭の活用などです。

 物質的な転換点はラヴォアジエを起点とした科学の発展以降となります。科学の発展による物質の単離・分離技術、原子や分子、化合物の理解、分析技術などによってマンガンやニッケル、鉛やコバルトのような様々な金属が見つかりました。これらをこう、良い感じに混ぜると、なんか凄い金属ができちゃうな、っていう感じで色々とやっているのが現代です。だから金属材料には山ほど種類があるのです。

 次の講義ではこの辺りの現代的な金属材料について説明しましょう。その後は金属加工についてです。

結論

 書き起こして思いましたが、社会科の先生か!若手君の感想は「面白かったです」でした。うーん。

 とりあえず、得意分野として一本何かを持っていれば、それに関連付けることで別の分野の勉強が容易になると思うわけです。別にそれが歴史である必要は無いですが、先に述べたように学問は巨人の肩の上である以上、歴史を学んでおくと他の分野に繋げやすいのは間違いなさそうです。

余談

 歴史に関連しない記憶はまったく定着しないのが弱点です。一昨日の夕飯すら覚えていません。あれ、このことは前の記事でも書いたような・・・覚えていないです。