ニュースメールで「経産省の試算により、太陽光発電が最安に」という情報が流れてきたためYahooニュースを見に行ったところ、こんな記事が並んでいました。
・・・・・・いや、どっちやねーん。最安になったのか、割高になったのか。
仕方がないので経産省の発表資料を見てみましょう。
有識者会議の資料
資料は経済産業省資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会における会合のものです。
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第48回会合)|資源エネルギー庁
まず基本として、試算の前提を変えれば結果も変わるということです。これは当たり前のことではありますが、どのような前提条件にするかを決めるのは実際のところかなり難しいため本調査会でも苦心しているのが分かります。
試算の大前提として、2030年エネルギーミックスが達成された状態からさらに各電源を追加する際に生じるコストが計算されています。つまり現時点よりも再生可能エネルギーの発電量が上がり、その他が減っている条件での計算です。
今回発表された試算は大きく分けると「系統制約等を考慮しない機械的な試算」と「系統制約等を考慮した試算」の2つがあります。前者は周辺状況を考慮せずに資本費や維持費、燃料費等を積み上げた試算値で、後者は立地や調整電源等が考慮されています。具体的に見ていきましょう。
系統制約等を考慮しない機械的な試算
「系統制約等を考慮しない機械的な試算」は次の費用を機械的に積み上げた試算です。
- 資本費
- 運転維持費
- 燃料費
- 社会的費用(CO2対策費)
- 政策経費
今回の試算では土地造成費が含まれていません。土地造成費は山地や森林を造成する際のコストであり、主に太陽光や風力で必要になるものです。
代表的な電源の試算値は次の通りです。
土地造成費が含まれていない分太陽光や風力には有利な計算にはなっていますが、事業用太陽光発電の発電コストが最も安いことが分かります。よって共同通信の記事見出しにおける「太陽光が最安に」は正しい表現でした。
系統制約等を考慮した試算
次に系統制約等を考慮した試算結果です。これは前述のコストに合わせて統合コストの一部が追加された計算になります。
今回の試算では次の統合コストが追加されています。
- 他の調整電源(火力等)の設備利用率の低下や発電効率の低下
- 需要超過分の発電量を蓄電・放電することによる減少分や再エネの出力抑制
- 追加した電源自身の設備利用率の変化
これらの条件で不利になるのは太陽光・風力・原子力等です。火力発電は調整が容易なため追加コストはほとんどありませんが、太陽光・風力・原子力は出力の調整が自然任せであったり調整自体が困難であることから、これらの統合コストの全てがコスト増要因となります。
試算結果は次の通りです。
一転して事業用太陽光発電の発電コストが最高値になりました。石炭火力やLNG火力はほぼ発電コストが変わっていません。よって時事通信の記事見出しにおける「太陽光 一転割高に」も正しい表現となります。
なお、今回の試算で考慮されていない統合コストは次の通りです。
- 電力需給の予測誤差を埋める費用
- 発電設備容量の維持に掛かる費用
- デマンド・レスポンスの効果
- 基幹送電網につなぐ費用
- 基幹送電網の整備費用
これらの統合コストは出力の不安定な再生可能エネルギーにとって不利になる条件がほとんどです。デマンド・レスポンスについてはまだ評価自体が不足しているため除外されていますが、その他は全て再生可能エネルギーにとってのコスト増要因です。これらが試算に追加された場合、太陽光や風力はさらに発電コストが上昇することになります。
結論
有識者会議の資料を見たところ、制約の無い前提であれば太陽光発電が一番安価な試算結果でしたが現実的な試算をすると太陽光発電が一番高価となった、という内容でした。共同通信と時事通信はどちらも正しいことを伝えていますが、それぞれ別の試算結果だったため正反対の表現となったようです。
この試算結果を見る限り太陽光発電の発電コストをこれ以上下げるのは難しいように感じます。系統制約等の無い条件、つまり資本費や運転費などでは太陽光発電が一番安価になっていることから下げ幅があまり残っていない可能性が高いです。今回の試算結果を参照すると、太陽光発電の資本費をタダ、つまり無から作れるようになったとしてもガス火力のほうが発電コストが安価になるような試算結果です。そして統合コストを下げるのは原理上難しくあることから、製造上の技術革新程度では既存電源の発電コストには追い付けそうにありません。
今後の試算精度向上によるコスト変化は注視する必要がありそうです。