日本の投票率は低いとよく言われています。総務省のデータを見ると、国政選挙における投票率は過去には70%以上ありましたが現在では50%程度まで下がっています。現代の日本人は約半分しか投票行動をしていないということですので、主観的には投票率が低いという感想は妥当かと思います。
しかし"日本の"投票率と言う以上、他国と比較しなければ低いかどうかは分かりません。そこで今回は民主主義・選挙支援国際研究所(International IDEA)が世界各国から集めている投票率の統計データを見てみましょう。
主要な国の投票率グラフ
IDEAが2016年に発表した世界の投票参加傾向の調査結果では、日本は196か国中158位の投票率でした。
Voter Turnout Trends around the world | International IDEA
よって特に細かいデータを見たり議論をする余地無く、日本は下から数えたほうが早い程度に投票率が低い国であることは明確です。とはいえ、今現在低いだけなのか、昔から低いのかでは意味合いが違いますので、もう少し全体の傾向を見ていきましょう。
比較として、主要先進国のG7と、北ヨーロッパで投票率の高いスウェーデン、隣国である韓国のデータをそれぞれ参照して、議会選挙の投票率をグラフ化してみました。元のデータはこちらです。
Voter Turnout Database | International IDEA
IDEAの持つ日本のデータは少し古く2014年までしかありませんでしたが、総務省の発表する投票率では2017年もさほど大きな差はなく2014年と同等の50%強です。また備考としてイタリアだけは1992年の選挙まで投票義務がありましたが、その他は全て投票義務の無い自由投票の結果です。
グラフを見ると、各国それぞれ独自の傾向があるためなんとも言い難く、また投票行動自体は各国の特色が現れるため単純比較できるものではありませんが、少なくとも日本はフランスやアメリカと同じ下位のグループにいることが分かります。世界全体の傾向として投票率が低下の傾向にありますが、スウェーデンのように高投票率を維持している国、アメリカのように低投票率を維持している国、韓国のように近年は投票率が上がっている国と実際のところは様々です。
日本における投票率の低下
日本の投票率は明確に低下している傾向にあります。理由は政治学者の先生方による様々な分析がされています。1994年の公職選挙法改正による中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への変革を理由とするものや、ダウンズモデルによる政党間差異の縮小からくる期待効用差が微小になっていることを理由とする説明もあります。日本独自の説明として、自民党を支持しつつも自民党の圧勝を避けて与野党伯仲の政局になるような投票行動を取るバッファ・プレイヤー説というものもあります。他にも党員の動員力をモデル化したものや社会経済的な地位を理由とするコロンビア学派のモデルなど、投票行動を社会学的に分析しようとする試みは様々に行われています。
実際にどのモデルが適切に事象を説明できるかを決めるのは複合的なため困難でしょうが、個人的にはダウンズモデルが古いながらも分かりやすくて好みです。
投票率の低さに対する賛否と個人的な意見
時々議題となるのが投票率の低さに対する賛否です。投票率が低くても良いと考える人は棄権そのものを消極的な現与党への信任、一つの意思表示だと捉えています。投票率が低いことは問題だと考える人は投票率が低い分組織票の影響力が大きくなることを危惧しています。どちらも理屈に不足は無く正しいと言えるでしょう。
個人的な意見としてはある程度投票率は高いほうが「民意を反映している」と断定しやすくなるため、野党にもう少し頑張ってもらいたいと思う次第です。ダウンズモデルからすれば投票者が棄権をするのは与野党の期待効用差が無い場合、つまりどの政党が与党になろうが変わらないと考えている場合に発生します。
この場合に必要なのは、野党が与党とは明確に異なるヴィジョン・物語を作ることです。2009年の民主党による政権交代では内容や結果は賛否両論あるにせよ有権者へ提供する物語が明確であったことが勝因の一つといえるでしょう。「私たちはもっと素晴らしい国を創ることができる、我々の示すこの未来を一緒に目指そう」という物語こそが有権者の投票行動を促すわけです。「与党は駄目だ」よりも「この法案はこうすべきだ」「我々はこうしたいんだ」「だから我々に投票して権限を与えてくれ」という物語を示せなければどれだけ与党の支持率が下がったとしても野党の支持率は上昇しません、票は全て棄権に回ってしまうでしょう。
以上より、投票率を改善するためには強い野党が必要だと考えます。