忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

技術屋から見た工場の仕事と人々

 私は工場の隅っこの事務所で働くしがない技術屋です。ふと、もっと現場の具体的なことも書いてみようと思い至ったため、技術屋から見た工場について語ってみます。

 工場と言っても作るものや規模によって中身は千差万別、まったく異なるものです。そのため同じ製造業内でも認識は異なりますし他業種の人からしたらさっぱりかもしれませんが、まあちょっとした例ということで。また、私のところは機械・電子系のため、医療や建築、化学や食品などでは様相が異なるかと思います。

工場ってそもそも何?

 工場の目的は工業製品を作ることです。基本機能は【仕入れ】【生産】【検査】【出荷】、つまり原材料を何処かしらから買ってきて、加工や組み立てをして製品を作り、品質に問題無い事を確認して、顧客に提供するという流れになります。仕入れて売るというのは商売の基本ですが、その間で加工によって付加価値を付けていることが物流や小売りとのちょっとした違いです。

 これらの機能によって目的を達するため、工場にはいくつかの仕事があります。今回は簡単な説明と一技術屋の所感を順に述べていきます。ただ言及するのは間接部門に限定します。直接の製造部署はまた中身が幅広く、それだけで相当な文章量になってしまいますので。

技術

 大きな企業では基礎研究・応用研究・製品開発・量産設計・生産技術など様々に分割されていますが、小さい工場では研究開発や開発設計など兼業となっている場合もあります。大企業では研究部門を工場外に持っていることが一般的です。工場で生産する製品そのものやそのための元となる技術、また量産のための設備を作るのが技術系の人間です。

 専門性が高く必要な知識量が多いため基本的には理工系の大学で勉強してきた大卒以上が配属されます。稀に製造現場で働いている才気煥発な高卒の若者が異動してくることもありますが、そういう子は下手な大卒よりもよっぽど優秀でみるみる育っていきます。大切に育てましょう。可愛がりましょう。(悪くない意味で)

 技術屋には論理性と原理原則を重視する頑固で大人しい人が多く、他所からすると少しとっつき難い人種に思われがちなところがあります。しかし実態としては根が真面目な勉強屋が多く、理屈や道理に則っていれば協力を得やすい人々です。ただし稀にどこかぶっ飛んだ(私のような)変人が生息しているので注意が必要です。

生産管理

 生産管理は計画や調達、資材といった分類で分けられることもあります。また調達系は別部署として分離されている場合もあります。生産管理は工場で使用する原材料や仕入れの管理、それらを用いてどのように生産するかの計画を立てる仕事です。基本的には工場の生産における【検査】以外全てを管轄する工場の頭脳です。また営業部門と製造部門の間を取り持つ橋渡しの役割をも担っています。

 生産管理は担当する製品に対して深い知識が必要であり、少し特異な専門性を求められます。汎用的な専門性では無いため一度配属された後は異動が少ない部署になりやすく、担当になった製品とは長く付き合うことになります。

 技術屋からすると、生産管理をやっている人は凄いなと思います。小学生並みの感想です。橋渡し役と言えば聞こえはいいですが、顧客や営業は無理な納期で発注してくる、現場からはそんな日程でモノが作れるかと叱責され、サプライヤーからは納期や価格に文句を言われ、予定通りに原材料は入ってこない。少しでも生産にトラブルがあれば現場と営業と協力会社からの板挟みにあうのが生産管理屋です。なんとも、本当に大変な仕事です。

 生産管理の専門教育を受けた学生は希少でほとんど居ないことから、生産管理に配属される人はまだ生産管理に詳しくないことが多いです。また多種多様なところからの異動者によって構成される場合もあります。そのために生産管理屋は工場の中でも癖が強い人種です、本当に様々な人が居ます。ゴリゴリの体育会系の隣でバリバリの理数系が座っているなどまったく異なる畑を歩んできた人が一緒に働いていることもあります。板挟みに合い過ぎてメンタル面で吹っ切れている人が多い部署でもあるため優しく接してあげましょう。生産管理が居なければ工場は回らないのです。

品質保証

 大きい工場であれば品質保証部として分離していることが一般的ですが、中小企業では品質管理課として製造部の中や隣接部署とされていることもあります。基本的には製造部署の上位、少なくとも同等の部署です。

 品質保証は他部署が適切に品質を管理していることを監査し、改善することが仕事です。製造に対してはちゃんと検査をしたり工程を守っているかの製造品質、技術に対してはルール通りに試験をしたり図面を書いているかの設計品質、生産管理に対しては無理の無い計画や正しいものを買っているかの計画・調達品質を監視しています。

 名前から誤解を受けることが多いのですが、ここは品質を保証する部署であり品質を管理する部署ではありません。品質管理は実際に動いているそれぞれの人々が行うものであり、品質管理が適切に行われているかどうかを保証するのが彼らの役割です。つまり工場では唯一製品の品質管理を直接的に行わない特殊な部署です。だから不良品が出ても彼らを責めてはいけません。いけないのですが・・・何故か不良品が出ると品質保証部が改善活動をしたり、顧客に謝罪をしに行くことになります。他人がこさえた不良品で顧客に怒られるため、営業と品質保証は本当に大変な仕事です。

 品質保証は仕事上他の全ての仕事内容を把握している必要があります。そうでなければ牽制部署としての役割を果たすことができません。よって一般的には他部署を長く経験したベテランが異動配属されることが多いです。工場のメイン盾として顧客に怒られる機会が一番多い仕事のため怒られ慣れた歴戦の人々が多くいらっしゃり、時に背中からは哀愁が漂っている場合もあります。若手が品質保証部に配属されている場合はまず間違いなくベテラン不足を意味しますので、全力で優しくしてあげてください。

技術屋から見た技術

 私は気ままな製品設計屋ですが、他所様の仕事と比較すると技術系の仕事は結構楽だと思っています。専門性が高いので知らない相手なら煙に巻くこともできますし、基本的に他所から怒られることが少ない仕事です。設計が間違えているとか開発が遅延しているとか、こちらに落ち度が無い限りは他所の不興を買うことはありません。

 顧客と打ち合わせるにしても品質保証のように相手がブチ切れ臨戦態勢を取っていることは少なく、概ね穏和に話が進みます。トラックが横転して生産が止まったせいで営業に謝罪する生産管理屋や、明らかに使い方を間違えている顧客に怒鳴られる品質保証屋を隣で見ていると、もはや「大変そうだな」という感想しか出てこないです。

 技術力さえあれば比較的気楽な仕事、それが技術です。え、思っていた測定結果が出ない?開発納期が無茶振り?設計不良で大量の仕損?設備が壊れて徹夜?んー、聞こえないですね。