幸福感を高めるアプローチは大まかに分けると二種類あると考えています。幸福と感じる閾値まで頑張って到達するか、その閾値を変えるかです。閾値に届かせるアプローチはどちらかというと物質的・西洋的価値観と言えます。対して閾値を変えて現在に満足するのは精神的・東洋的価値観と言ってよいでしょう。
この考え方自体は新しいわけでもなくむしろ一般的ではありますが、意識的に捉え直してみることで発見があるかもしれません。
幸福は主観的
幸福は究極のところ完全に主観的で自己満足のものです。使い切れないほどの金銭を持ち衣食住どころかありとあらゆることを満たせる状態でも幸福を感じない人もいます。金銭や物品は不足していない程度であっても充分な幸福を感じる人もいます。多少例外的ではありますが金銭がまったく無くても幸福な人もいるでしょう。
人と比べると幸不幸を感じることがあるから幸福とは相対的なものだ、と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、「人と比べて私は不幸だ」と考えること自体が主観的な気持ちの持ちようです。何故ならば誰もがそう考えるわけではなく自身でそう考えていらっしゃるのですから。
幸福は物質量に依存しない
同様の状況下においても幸福感に差が出るのはそれが物質的な充足度に起因するものではなく、個人の主観に依存するものだからです。確かに人は物質的な充足を得られた時に喜びを得ますが、手に入れた物質量と幸福量に相関が無いことは誰もが理解していることです。
これは教育によるものでもなく生物の生来的なものです。子どもだって去年に10000円のお年玉をもらって今年は5000円だったとしたら、お年玉をもらったとしても満足度や幸福感は得にくいでしょう。去年の半額だから幸福感も半分とはならず、落胆によってむしろ不幸を感じるかもしれません。動物だって毎日高級なペットフードを食べていたところから急に安物に変えたら食事が出来ることへの幸福感を感じず機嫌を損ねることでしょう。
脳の効率化
これらの理由は簡単で、生物の脳は効率化のため過去の経験を形式化するからです。都度全ての情報を新規に処理するのでは脳に負荷が掛かるため、生物は一度見たものや状況を記憶し、二度目以降は脳にある過去の情報を用いて処理を簡略化しています。人は一度見たものを二度と見ない、二度目以降は脳が再生しているだけと言われるほどです。有名な事例で言えばアハ体験でよく用いられる画像の変化でしょうか。画像が徐々に変化していったりするものを認知するのが難しいのはまさに脳が今現在の知覚に頼らず過去の情報を転用しているからです。
効率化の弱点
過去の情報を使用すること自体は効率化のため必要なことですが、これには弱点があります。認知バイアスが働いてしまうことです。過去に得られたものよりも現在得られたものが少ないと人は認知バイアスにより幸福を感じにくくなります。そして脳は意識せず自動的に過去と比較をしてしまうのです。
これを避けるには意識的に再認知する必要があります。脳の自動性に頼らず、自ら積極的に現在へ向き合うのです。これはまさしく今現在に集中すること、マインドフルネスの考え方と言えるでしょう。
幸福を掴み取るか、幸福だと信じるか
過去よりも現在得られたものが多ければ人は幸福を感じます。それはとても前向きな価値観であり、人が成長したり、より良い生活を送るためには必要な原動力です。しかしそれだけでは幸福を感じる閾値が無尽蔵に高くなり、いずれ幸福感を得ることが難しくなってしまいます。
その際は一度現在を見つめ直し、再度認知し、幸福の閾値を変えることが必要です。今現在が本当に不幸なのか、不足している状態とは本当に不幸なのかを見つめ直す必要があります。
もちろん幸福の閾値を変えて今現在に満足するだけでは人は前に進むことができません。主観的には幸福かもしれませんが、それだけではより多くのものを手に入れることができないでしょう。
人は自分に何かを与えた時よりも他人に何かを与えた時のほうが幸福を感じるという研究結果があります。より多く持っている人のほうがより多くの人を幸福にし、自らも多くの幸福を得る機会があるのです。他者を幸福にするためには、前に進み、他者に与えられるほどより多くを得る必要があります。
幸福を掴み取りに前へ進むこと、今立っているところが幸福だと信じること、それは優劣上下があるものではなく、人が幸福に生きていくうえでどちらも必要な両輪なのです。どちらに軸を置くかは人それぞれの価値観ですが、両輪があることは覚えておいたほうが良いかと思います。
余談:幸福感を得る方法
イギリスのNHS(国民保険サービス)は精神的な幸福感を高める方法として5 steps to mental wellbeingという方法を紹介しています。
5 steps to mental wellbeing - NHS
抄訳すると次のような方法です。
- 他人と接触すること、家族や地域と良好な人間関係を築くこと
- 身体的な活動を行うこと
- 興味がある新しいスキルを学ぶこと
- ボランティアやちょっとした親切など、他の人に与えること
- 今現在の瞬間に注意を払うこと、マインドフルネス
この5つは物質的・精神的のどちらの価値観も含んだ包括的な方法であり、大変現実的で良いと思います。