忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

考え続けるには頭の体力が必要~思考体力

「先輩方はなんでもすぐに答えますけど、いつ考えてるんですか?」と若手技術者の後輩に聞かれて、何と答えればいいのか分からなかったことがあります。すでに後輩の発言に矛盾が生じたという面白い状況はさておき、考えることについて考えてみましょう。

 

漫画のシーンに対する違和感の氷解

 泰三子先生の「ハコヅメ」という漫画が好きです、その中でも1巻4話での女性警察官同士の会話がほどほどに印象的だったため記憶に残っています。

[牧高]

男の同僚に「男性の考えてることがわからない」って相談したら、回答が全員「何も考えてない」か「食べることとエロいこと」の2つだけで。

[藤]

あー・・・

 うーん、まあそう聞かれたら私もそう答えるかなー、というくらいのちょっとしたギャグシーンだと思っていました。しかし絹田村子先生の「数字であそぼ」を先日読んだ時に、微妙にあった違和感の理由が氷解し、後輩の疑問に対する答えが見つかりました。3巻14話での主人公の横辺君と友達の会話です。

[横辺]

さあ白状してもらおうか猫田

数学の素早く便利で特別な勉強方法を!!

[猫田]

はい?

(場面転換)

[北方]

だから、いつでもどこでも何をしていても常に頭のどこかで考えておくんだよ

[猫田]

そうでもしないとこなせないじゃん

[平坂]

1日は24時間しかあらへんもんね

[夏目]

そう、だから勉強法なんてない

[横辺]

皆はずっと

スロットをやりながら

親の手伝いをしながら

眠りながら

考えていた―――?

それなのに俺ときたら

食べる時には食べ物のことを

犬の散歩の時は犬のことを

風呂の時は風呂のことしか考えていなかった・・・

 私は「何も考えていない」という回答は「昨日テスト勉強した?」「全然やってねぇ」というくらいの感覚でした。しかし後輩の「いつ考えてるんですか?」の意味が「ハコヅメ」と「数字であそぼ」の2シーンを通してようやく分かりました。つまり、考え事をするというのはどんと座って頭を抱え込んでやるような感覚なのですね。私としては「数字であそぼ」の北方君達のような考えだったためその感覚が分かっていませんでした。考えることに”いつ”って、それはどういう意味だろうと思っていたのです。考えることは体を使うわけではないので、いつでも出来るのですから。

 

思考体力という概念

 そこで思い出したのが東大の西成教授の提唱する思考体力という概念です。自己駆動力、多段思考力、疑い力、大局力、場合分け力、ジャンプ力、微分思考力の7つを総じて思考体力と呼んでおり、賢くなるにはこれらを鍛える必要があるという見解です。思考について実によく整理されており、付け足すものも除くものもない見事な概念だと思っています。

 7つの力の個別詳細は私が説明するのも烏滸がましいので西成教授の著作をお読みいただくほうが良いのですが、このうち多段思考力がそのまま今回の疑問の答えになります。これは思考の階段を上り続ける力のことで、どれだけ長く深く思考し続けることが出来るかという、まさに思考体力を代表するような力です。

 理工系、とは限らないとは思いますが、理工系の人間であれば教授や先輩からこの思考方法について教わったと思います。考え事は頭の片隅に置いておいて常に考え続けろと。ひらめきというのはそうやって生まれるものだと。何をしている時でも考えていろと。私自身も大学時代に教授からそう教わったためそのような考え方に慣れ親しんでいます。あまりにも当たり前として馴染んでおり「よし考えるぞ」と身構えて考え事をすることは滅多に無いため、そうしないという考え方を忘れてしまっていたくらいです。

 なんにせよ、後輩の疑問の答えこそが思考体力という概念です。考えるというのは短距離走ではなく目が覚めている間にずっと行う長距離走なのです。後輩には"いつ"考えるなんてこと言わないで"いつも"考えればいいんだよと教えることにします。

 技術者というのは体を動かすのではなく考えることが仕事でありそれでお給料をもらっているのですから、思考体力をみっちり鍛えてもらわなければなりません。スポーツ選手が肉体を鍛えるのと同じです。思考体力を付けるためにはスパルタ教育もやむなしです、うん、脳筋になりそう。

 

余談

 西成教授曰く、「これら7つを全て鍛えられるのが数学だ、だから数学やろうぜ」ということですが、その言葉を思い出したのが数学科青春コメディの「数字であそぼ」を読んでいた時というのはなんとも数奇なものを感じます。

「数字であそぼ」は間違いなくガッツリ理系で生きてきた人がブレーンや取材対象に居ますね。少女漫画でそんな理系ネタを扱うというのはなかなか挑戦的な気もしますが、「動物のお医者さん」と並んで男性にもお薦めできる漫画だと思っています。個人的に刺さったので一押しです。

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余談2

 そういえば「数字であそぼ」と同じような光景を職場でも見たことがありました。

若手「改善案が浮かばないんです、皆さんはいつ考えているんですか?」

出来る先輩A「会社の門を通ってから、椅子に座るまでの間」

出来る先輩B「風呂」

出来る先輩C「ごめん、悩んだことない」

 嫌味な先輩ばかりだぁ。