忘れん坊の外部記憶域

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十七条憲法をざっくばらんに訳してみる

 十七条憲法とは西暦604年、聖徳太子が作って施行したとされる日本初の憲法です。創作説もありますが、まあこれほど古い時代の話ですと残存する資料も少ないでしょうから真贋の立証は難しいと思います。

 学校の社会科で誰もが学んだことがある十七条憲法ですが、私は第一条の「和をもって尊しとなせ、さからうことなきを宗とせよ」が子どもの頃から好みでした。大雑把に言えば「仲良くしろよ、喧嘩はすんなよ」という、小学校の月間目標かと見まがうばかりのストレートな内容が幼い心に刺さったのです。

 

温故知新

 第一条の「喧嘩すんなよ」とか第二条の「仏教敬おうぜ」とかは授業でやったので覚えているのですが、よく考えれば十七条全てを説明出来るかと言えば出来ないことに気付きました。私のモットーは温故知新であり知らない古いものがあればそれを学ぶべきだという意識があることから、唐突ですが十七条憲法を読むことにします。

 十七条憲法はWikipediaにも原文や訳文が載っていますし、十七条憲法を紹介しているサイトもあります。

 正直これらのサイトに充分な説明があるので紹介するだけでもいいのですが、あえて、あえて自分なりに口語訳してみたいと思います。なぜそんなことをするかと言えば、学んだことを自分の言葉で説明できるようになれば理解したと言える、という信念があるからです。つまり趣味です。

 出来る限り噛み砕いたざっくばらんな説明を出来るよう努力してみます。

 一点注意事項として、十七条憲法は"憲法"と銘打たれてはいますが、国民と国家の関係性を述べる近代憲法と違って君主と官僚・貴族との関係性を主に述べています。つまり民法のようなものではなく、行政法のほうが近い概念の憲法です。

 

十七条憲法

一曰、以和爲貴、無忤爲宗。人皆有黨。亦少達者。以是、或不順君父。乍違于隣里。然上和下睦、諧於論事、則事理自通。何事不成。

一条

仲良くして、喧嘩とかすんなよ。そういう気持ちを大事にしろ。人ってのは集まりたがるもんだけど、集まることが争いの元になるってことをちゃんと理解してる奴は案外少ないもんだ。だからせっかく集まっても揉めちまう。なんにせよ、上の奴は優しく、下の奴も親しくして、なんかあったらちゃんと話し合うんだぞ。そうすりゃ物事ってのは良い感じに落としどころが見つかるってなもんだ。

二曰、篤敬三寶。々々者佛法僧也。則四生之終歸、萬國之極宗。何世何人、非貴是法。人鮮尤惡。能敎従之。其不歸三寶、何以直枉。

二条

マジで三宝をしっかりと敬えよ、三宝ってのは仏法僧のことだ。仏教ってのは生物にとって最高の宗教だからな。どんな時代のどんな人間だって仏教はすげえって思うくらいだ。どうにもならんような極悪人ってのは世の中にはめったに居ないもんで、仏教を教えてやれば誰だってちゃんと真っ当になるもんだ。むしろ曲がった心の持ち主を直すには仏教以外に思いつかんぞ。

三曰、承詔必謹。君則天之。臣則地之。天覆臣載。四時順行、萬気得通。地欲天覆、則至懐耳。是以、君言臣承。上行下靡。故承詔必愼。不謹自敗。

三条

君主の命令は絶対に守れよ。君主が天、臣下が大地だ。天が覆って大地に載ってる状態が正しいんだ、そうすりゃ四季はちゃんと巡るし物事は上手く回るというもんだ。もし大地が天を覆うようなこと、つまり反乱とか謀反をするようなことがあれば上手く回らなくなっちまう。君主が命令したらちゃんと従って、上が言ったことに下はちゃんと従うように。そうしないと滅亡しちゃうからな?

四曰、群卿百寮、以禮爲本。其治民之本、要在禮乎、上不禮、而下非齊。下無禮、以必有罪。是以、群臣禮有、位次不亂。百姓有禮、國家自治。

四条

臣下や役人の連中はちゃんと礼儀正しくしろよ。民を治めるには何もおいてもまずは礼が重要だ。上の連中が礼儀正しくしてないと下も真似しちゃうし、そうなると犯罪者だって出てきちまう。臣下のお前らが礼儀正しくしてれば秩序は保たれるし、民が礼儀正しければ国ってのは自然と治まるもんだ。

五曰、絶饗棄欲、明辨訴訟。其百姓之訟、一百千事。一日尚爾、況乎累歳。頃治訟者、得利爲常、見賄廳讞。便有財之訟、如右投水。乏者之訴、似水投石。是以貧民、則不知所由。臣道亦於焉闕。

五条

賄賂や接待はやめろ、受け取んな、公明正大に訴訟を処理しろ。今や民の訴えは1日1000件、いやもっとどんどん増えてきているんだぞ。そんな状況だってのに訴訟を担当している役人は賄賂をもらうのが当たり前になってやがる。そんなことしたら貧乏人が困るだろうが。やめろやめろ。

六曰、懲惡勸善、古之良典。是以无匿人善、見-悪必匡。其諂詐者、則爲覆二國家之利器、爲絶人民之鋒劔。亦佞媚者、對上則好説下過、逢下則誹謗上失。其如此人、皆无忠於君、无仁於民。是大亂之本也。

六条

勧善懲悪は良いよな。昔の人は立派なルールをこしらえたもんだ。だから良い事は大っぴらにして、悪い事は正せ。あと嘘をついたり媚び諂うなよ、そういう奴は下の奴の過失を上に密告することを好むし、上の奴の過失を下に言って馬鹿にするような奴だ。君主に対して忠誠心も無いし、民に対する仁愛だって持ち合わせちゃいない。そんな役人がいたら国が荒れる原因になっちまう。

七曰、人各有任。掌宜-不濫。其賢哲任官、頌音則起。姧者有官、禍亂則繁。世少生知。剋念作聖。事無大少、得人必治。時無急緩。遇賢自寛。因此國家永久、社禝勿危。故古聖王、爲官以求人、爲人不求官。

七条

仕事はちゃんとやれよ。そんで権力は乱用すんなよ。世の中には生まれながらの賢者なんてめったにいない、賢者ってのは努力してなるもんだ。そんな賢者を適材適所に配置すれば国は勝手に栄える。だからしっかり努力して仕事に励むように。お前のために役職があるんじゃない、見合った努力をした奴に相応の役職を与えるんだからな。

八曰、群卿百寮、早朝晏退。公事靡盬。終日難盡。是以、遲朝不逮于急。早退必事不盡。

八条

役人は朝早く出勤して、夜遅く退勤しろ。公務ってのはおろそかにできないし、めちゃくちゃ多いんだから、早朝出勤深夜労働でもしないと終わらんのだ。

九曰、信是義本。毎事有信。其善悪成敗、要在于信。群臣共信、何事不成。群臣无信、萬事悉敗。

九条

信義を大切にしろよ。信頼が無いと何事も上手くいかないんだからな。臣下が互いに信頼していればなんだって出来るさ。

十曰、絶忿棄瞋、不怒人違。人皆有心。々各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理、詎能可定。相共賢愚、如鐶无端。是以、彼人雖瞋、還恐我失。我獨雖得、從衆同擧。

十条

怒りとか恨みとかは捨てて、人と考えが違っても怒るなよ。誰だって各々のこだわりってもんがあるんだ、相手がよくてもこっちがよくないこともあれば、その反対だってある。自分が絶対優れているわけでもなければ、相手が必ず愚かだってこともない。どっちも凡人であって、誰だって賢さと愚かさを兼ね備えているんだから考えの是非を決める優越は無いんだ。相手が怒ったとしても、自分に間違いが無いかを振り返ってみろよ。それと自分の考えがあったとしても、周りの奴の意見もちゃんと聞くこと。

十一曰、明察功過、賞罰必當。日者賞不在功。罰不在罪。執事群卿、宜明賞罰。

十一条

信賞必罰が重要だ。近頃はそれが守られてないから、もっとしっかりと信賞必罰にするからな。

十二曰、國司國造、勿収斂百姓。國非二君。民無兩主。率土兆民、以王爲主。所任官司、皆是王臣。何敢與公、賦斂百姓。

十二条

地方役人は勝手に税金取んな。君主は一人だぞ。なに勝手に君主に並んで好き勝手税金取ってんだ。

十三曰、諸任官者、同知職掌。或病或使、有闕於事。然得知之日、和如曾識。其以非與聞。勿防公務。

十三条

役人の連中はちゃんと仕事を把握しろよ。病気や別件で仕事が出来ない時があっても、復帰したらすぐに働けるようにすること。休んでた間の状況を聞いてなかったので仕事が出来ません、とか許さんからな。

十四曰、群臣百寮、無有嫉妬。我既嫉人、々亦嫉我。嫉妬之患、不知其極。所以、智勝於己則不悦。才優於己則嫉妬。是以、五百之乃今遇賢。千載以難待一聖。其不得賢聖。何以治國。

十四条

嫉妬はやめろ。お前が嫉妬をすると、他の誰かもお前に嫉妬するようになっちまう。嫉妬ってのは際限が無いもんだ。賢い奴に嫉妬するようになったら賢い奴は来なくなっちまう。そんな状況で国家が治まるわけないだろ。

十五曰、背私向公、是臣之道矣。凡人有私必有恨。有憾必非同、非同則以私妨公。憾起則違制害法。故初章云、上下和諧、其亦是情歟。

十五条

私心を捨てて公益に努めろ、それが臣下ってもんだ。私心があると怨恨が生じたり人を妨害したり制度に違反したり法律を侵害するようになっちまう。だから俺は一番最初に和の精神を説いたんだ。

十六曰、使民以時、古之良典。故冬月有間、以可使民。從春至秋、農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何服。

十六条

民を公共事業に使うのはいいけど、冬の暇な時だけにしろ。春から秋にかけては農業と養蚕で忙しいから駄目だ。そんな時期に労役を課したら食うものも着るものも足りなくなっちまうからな。

十七曰、夫事不可獨斷。必與衆宜論。少事是輕。不可必衆。唯逮論大事、若疑有失。故與衆相辮、辭則得理。

十七条

独断で行動すんなよ、ちゃんと皆で議論してから決めろ。もちろん些細なことならそこまでしなくてもいいけど、重大事については間違いが無いよう慎重に議論して決めないといけないぞ。ちゃんと皆で議論すれば自然と道理に叶う方法が見つかるんだからな。

 

まとめ

 少しざっくばらん過ぎた気はします、ちょっと反省。

 全体的に儒教・仏教色が強いです。上下の関係やブラック労働、宗教観など現代では適用できないこともありますが、それでも今だこの中には役立つ考えもあると考えます。

 それにしても、よく話し合って決めましょうということが何度も出てきたことに驚きです。こんな昔から日本人は会議好きだったのですね。