不安や緊張は溺れるのに似ている気がする

　物事を何かに例えるとその輪郭を捕らえやすくなる、と考える癖が私にはあります。当ブログで「つまり」や「例えば」という言葉が頻出するのはそういうことです。

　不適切な例え話は物事の本質を見失いかねない危険があることは承知していますが、全体像を把握したり捕まえやすくするために例え話というのは有効であり、本質を想像したり想定する前にまずはとにかくペタペタ触ってみて形を確認した方が効率的ではないか、と、そういう感覚で例え話を多用している次第です。

　今回はそんな例え話として、不安や緊張は溺れるのに似ていると思っている話をしましょう。不安や緊張に曝されると交感神経が優位になり、呼吸が浅くなったり上手く呼吸が出来なくなったりします。呼吸に影響が出るという実際的な感覚がありますので、例えとしては掴みやすいでしょう。

　不安や緊張に対する方法も溺れた時の考えを流用できるかもしれません。

溺れた時の対処法

　溺れた場合に絶対やってはいけないことは暴れたり無理に泳ぐことです。運が良ければ足の着くところまで辿り着くことが出来るかもしれませんが、多くの場合は体力を消耗して浮いていることも出来なくなってしまいます。また大きく手を振ったり大声で助けを求めるのも望ましくありません。肺から空気が失われて全身が沈んでしまい、呼吸が出来なくなってしまいます。

　人の体の比重は0.98のため、体の2%は水面から出すことが出来ます。逆に言えば2%以上は出すことが出来ないため、手を上げて水面に出してしまうと顔を水の中から出すことが出来ません。溺れそうになった時は落ち着いて水中で手足を伸ばし、大の字になって上を向き、顔だけを水面から出るようにします。

　顔だけを水面に出して上を向いて浮くことを背浮きといいます。東日本大震災においても背浮きによって助かった命があり、それ以降メディアや関係各所によって「浮いて待て」の合言葉と共に布教されています。

　溺れている人を救助するには浮力があるものを渡すことです。ペットボトルや浮き輪、クーラーボックスなど浮き上がるものを渡すことが推奨されています。

不安や緊張への対処法

　不安や緊張に対しても同様かもしれません。焦って動き回ったとしてもそれらから逃れることは出来ず、余計に息が出来なくなって苦しくなるばかりです。大声で助けを求めようにも、不安や緊張というのは見知らぬ人がその場でさっと取り除けるものでもないため、徒労に終わってしまうことのほうが多いです。まずは一度大きく空気を吸い、これ以上心が沈まないようにする必要があります。

　この時に下(ネガティブ)を向いてはいけません、呼吸をするには落ち着いて上(ポジティブ)を向くべきです。

　悲観的観測による適度な不安や緊張は物事に相対する前の十分な事前準備に繋がるというように、ネガティブ思考が有効に働く局面というものは間違いなくあります。但しそれは相対する前段階、事前段階の状況においてです。ネガティブな思考が必ずしも悪いというわけではありませんが、いざ実際に不安と緊張が襲い掛かってきている時に使うものではないのです。

　そして溺れている時に助かる方法と同様に、浮き上がるものを用意しておくのが確実でしょう。災害に備えて防災キットを用意しておくのと同様、自分の心が浮き上がる趣味や娯楽を持っておいたほうが良いのです。ブラックな労働環境で時間が無い人や仕事一辺倒の人よりもプライベートが充実している人の方が不安や緊張に強いということですね。

　但し、そうやって浮き上がったとしてもストレッサーが無くなるわけではないのですから、これは対処療法に過ぎません。理想的には専門家の救助に頼ることです。「浮いて待て」の合言葉は救助出来る専門家が見つけるためのものです。沈んでしまっては専門家でも見つけることが出来ません。不安や緊張に対しても同様で、とにかく沈むことを回避した後は専門家に任せるべきだと考えます。自力で泳ぎ切ろうなんて運に任せるのは危ないです。