忘れん坊の外部記憶域

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従業員エンゲージメントに関する雑感と日本が低い理由の考察

 数年前に一度話題となり、その後2021年の新しい調査結果が出たことで再度話題になった従業員エンゲージメントについて本日は取り上げたいと思います。以前に調べたことを簡単に整理してまとめます。

 

従業員エンゲージメントとは

 従業員エンゲージメントとは社員が会社に貢献したいと思っている姿勢を意味します。俗な表現をしてしまえば愛社精神のようなものです。アメリカのマーケティング会社であるギャラップが行っている従業員エンゲージメントの国際比較結果において、日本が他国に比べて圧倒的に低水準であったことから一時期話題となりました。

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(引用元)第2回 未来人材会議(METI/経済産業省)

 この図から分かるように、日本の従業員エンゲージメントは他国に比べてとても低い値となっています。

 愛社精神とも俗に言われるエンゲージメントにおいて、転職が盛んな米国では高く、逆にあまり転職をせず生涯一社で働くことの多い日本では低いという一見真逆の結果であったことから、メディアでは「日本には熱意のある社員が5%しかいない」というような煽るような見出しで話題としていたことを覚えています。

 まあ確かに日本人に仕事への熱意があるかと言われればそうではないというのが実感的な感覚ではあります。しかしアメリカ人は日本人よりも7倍熱意があるかと言われればそれも首を傾げるばかりです。

 その疑問を晴らすため、調査の内訳を見ていきましょう。

 

従業員エンゲージメントの測定方法

 ギャラップは独自に開発した「Q12(キュー・トゥエルブ)という方法で調査を行っています。これは12個の質問に対してどの程度当てはまるかどうかを5段階スコアで採点し、平均スコアによって評価する方法です。

Gallup's Q12 Employee Engagement Survey - Gallup

 12個の質問は次のようになります。

Q1.職場で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2.仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
Q3.職場で最も得意なことをする機会が毎日与えられている
Q4.この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
Q5.上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
Q6.職場の誰かが自分の成長を促してくれる
Q7.職場で自分の意見が尊重されるようだ
Q8.会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
Q9.職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
Q10.職場に親友がいる
Q11.この6ヵ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
Q12.この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった

 配点は5段階評価(リッカート尺度)で行われています。

完全に当てはまる(5点)
やや当てはまる(4点)
どちらともいえない(3点)
やや当てはまらない(2点)
完全に当てはまらない(1点)

 平均スコアが3.8以上であればエンゲージメントが高く、3.2以下であればエンゲージメントが低いと判定されます。

 

調査の目的

 12個の質問を見ると、従業員の直接的な熱意というよりは、どちらかというと職場が何を与えてくれているかについての質問が多いことが分かると思います。

 それもそのはずで、ギャラップのQ12が目的としているのは従業員のニーズを知ることでマネージャーが何をもっと努力すべきかを知ることにあるからです。

 つまりギャラップの調査結果に対して「日本人は仕事に対する熱意のある人が5%しかない、従業員の意識をもっとなんとかしなければ!」というようなメディアの取り上げ方はまったくもって間違いです。この調査結果は「日本人は仕事に対して5%しか満足していない、マネージャーはもっとなんとかしないといかん!」という意味です。

 一般的な日本人従業員の熱意が問題とされているのではなく、熱意を引き出せていない経営者や管理職が問題とされているのですが、何故かメディアによる報道では従業員の問題にすり替わってしまっています。なんとも不思議です。「従業員エンゲージメントを高めるために従業員の意識を改革せねば!」というようなメディアの取り上げ方はまったくもってズレた話です。

 

5段階評価とお国柄

 アンケートをリッカート尺度で測定すること自体は一般的ですし、分析のためにも評価段階を奇数にしたほうがいいのも分かるのですが、5段階評価における中立的尺度、つまりNeutral(どちらともいえない)がある分析結果は国民性が出るため注意が必要です。アメリカのようにYES/NOをハッキリしたほうがいい文化圏もあれば、日本のように曖昧とするほうが良いとされる文化圏もあるからです。

 アメリカでは鬱病の人とそうでない人では「毎日が楽しい」という調査への回答に相関が出ますが、日本では相関が出ずに鬱・非鬱どちらも「どちらともいえない」と答える人が多数になります。日本人はポジティブな回答に対して控えめなのです。平均スコアが3.8以上でなければ熱意が無いと判定される今回のギャラップの調査方法は正直なところ曖昧を良しとする文化圏とは相性が悪いとしか言いようがありません。

 

結言

 この調査結果に疑問を持つことで「日本人だって仕事に熱意がある」と言いたいわけではありません。エンゲージメントの低さは問題ですので改善は必要でしょう。

 ただ誤った解釈や統計的懸念があることも留意しておいたほうが良いと思う次第です。

 

 

余談1

 IMD世界人材ランキングを調べた時もそうでしたが、基本的にこの手のビジネス系ランキングで日本の順位を落とす要因になっているのは経営者・上級管理職の能力不足です。「兵隊は有能だが上層部は無能」と言われた戦前戦中から変わらない日本の宿痾なのでしょうね、残念なことに。

 

余談2

 個人的に好きなコピペ。

Q.日本人は物事を白黒つけるのが下手だと思いますか?

・思う 21%
・思わない 7%
・どちらともいえない 72%