今日は私の脱線力を試してみます。
脱線力は今適当に考えた言葉です。話の途中で話題を脱線させる力とでも言いましょうか。むしろ不要な技能です。
例えばそうですね、いつもは好きなことを主に書いていますので、今回は嫌いなこと・・・機雷なこと、よし、機雷について話してみましょう。
機雷
機雷は水中に設置する爆弾で、機械水雷の略、だそうです。戦争中に敷設された機雷は戦争が終わっても海中に漂い続けるため除去するのは極めて難しく、地雷と同様に迷惑で嫌われている兵器、のようです。
世界で初めて機雷を開発したのはイマヌエル・ノーベルという人で、ダイナマイトを作ったアルフレッド・ノーベルの父親だそうです。あ、この人たちなら知っています。アルフレッド・ノーベルはスウェーデン生まれですが、父親がサンクトペテルブルクで世界初の機雷製造に成功して富を得た後、サンクトペテルブルクへ引っ越しています。この辺りの経緯は何処かで読んだので知っています。
サンクトペテルブルク
サンクトペテルブルクと言えばやはりサンクトペテルブルクのパラドックスでしょう。これを簡単に説明してみます。
コインを投げてある面が連続で出た回数だけ倍々で賞金が貰えるというギャンブルがあったとします。例えば表面を○、裏面を●として、裏面を基準とすると、
〇・・・1円
●○・・・2円
●●〇・・・4円
●●●〇・・・8円
●●●●〇・・・16円
というように賞金額が変化します。このギャンブルへ参加するのに参加費が必要な場合、参加費を幾らまで払っても損は無いと言えるでしょうか?
合理的に考えるのであれば参加費が賞金の期待値よりも安ければそのギャンブルに参加する方がお得です。しかしこのギャンブルで賞金の期待値を計算すると、なんと無限大に発散してしまうのです。
よってこのギャンブルに参加する参加費はどれだけ払ってもいいという結論が出ます。何せ期待値は無限大、つまり無限大の賞金を手に入ることが期待できるのですから。
しかし実際は数回程度で反対の面が出るため、せいぜい数十円程度しか賞金はもらえません。よって何万円も払ってこのギャンブルに参加する人はただの愚か者であり、参加費をどれだけ払ってもいいというのは直感的に間違いだということが分かります。この数学的論理と直観のズレこそがパラドックスです。
サンクトペテルブルクのパラドックスはダニエル・ベルヌーイが効用(Utility)という概念を用いて数学的に解決しています。これは経済学でいう限界効用逓減の法則(ゴッセンの第1法則)と同様の考え方です。
ベルヌーイ
ダニエル・ベルヌーイと言えば何はともあれベルヌーイの定理です。ベルヌーイはオイラーやラグランジュと並んで流体力学の基礎を作り上げた偉人であり、ベルヌーイの定理は流体力学における基礎的な定理の一つです。もちろんナヴィエやストークスも流体力学において欠かすことのできない偉人ですが、話が逸れ過ぎるので触れるのは止めておきましょう。
ベルヌーイの定理を簡単に説明することはとても難しいのですが、要は流体の流れにおけるエネルギー保存則です。ある条件下では速度とか圧力とかのエネルギーの総和が一定に保たれますよという法則であり、流速が上がれば圧力が下がる、という例で説明されることが多いです。
詳細の説明は置いておくとして、ベルヌーイの定理自体はとても身近なものです。飛行機が飛ぶ理由である揚力を力学的に説明するための物理法則の一つですし、野球の変化球がなぜ曲がるかもベルヌーイの定理で説明できます。船のスクリューに発生するキャビテーションもベルヌーイの定理で説明が可能です。
キャビテーション
キャビテーションとは液体中で気泡が発生と消滅を起こす現象です。身近な例で言えばメガネなどを洗浄する超音波洗浄機で泡が発生する理由であったり、ホースの出口を絞ると水が白く濁るのもキャビテーションです。
これもベルヌーイの定理で説明が付きます。超音波で流体が動いたりホースの出口を絞られて断面積が小さくなると流体の速度が上がります。するとベルヌーイの定理に従って流体の圧力は下がります。圧力が下がって飽和蒸気圧を下回ると液体は気体に変化します。この気体が気泡の正体です。
超音波洗浄でメガネが綺麗になるのはこの気泡が発生と消滅を繰り返す際の衝撃波で汚れを飛ばしているからであり、絞ったホースから出る水が白く濁るのは流速が上がって水中に大量の気泡が発生するからです。また船舶の航跡が白くなるのも同様の理由です。スクリューが回ることによって周囲流体の速度が上がり、圧力が下がって気泡が発生しています。
意図的なキャビテーションは洗浄機のように有効活用することができますが、スクリューなどで発生する意図していないキャビテーションは構造物にダメージを与えるため出来る限り避けたい現象です。特にバブルパルスによるバブルジェットには注意が必要です。
バブルパルス
バブルパルスとは水中で発生した気泡が膨張と収縮を繰り返す現象です。キャビテーションで発生する程度の小さな気泡はエネルギーが小さく、発生してもすぐに消滅します。しかし大きなエネルギーから発生した気泡は容易に崩壊しません。内圧によって膨張していき、ある程度まで大きくなると水圧に負けて収縮する、収縮するとまた内圧が上がるので膨張を始める、と脈動(パルス)するように膨張と収縮を繰り返す気泡をバブルパルスと言います。
容易に崩壊しないということは大きなエネルギーを持っているということであり、バブルパルスが崩壊する時の衝撃波はキャビテーションによる衝撃波を超えます。またバブルパルスが構造物に当たって崩壊する場合、反射波によって構造物へ向かう水流(バブルジェット)が発生するため、構造物へ加わる衝撃は通常のキャビテーションの比ではありません。
昨今の魚雷や機雷はこの原理を利用して、爆弾の爆風そのもので攻撃するのではなく、爆弾を利用してバブルパルスを生成し、バブルジェットによる衝撃で対象物を破壊することを狙っているそうです。
機雷
というわけで機雷の話でした。本当に機雷の話でした?いや、だって機雷のこととかよく知らないですし・・・なんでも知ってる訳じゃないし・・・
結語
もう少し脱線して遠回りをしたかったのですが、ちょっと脱線先が理工系、というよりも流体力学に偏り過ぎました、反省。脱線は得意分野なのですが機雷のことは正直さっぱり知らないので、あまり脱線しすぎると話題が帰って来れるか自信が無かったのです。もう即座に趣味と専門の話に逃げました。なんで機雷なんてワードを選んでしまったんだか・・・
余談
「嫌い」の誤変換で「機雷」が出てきたのでそのまま勢いで書き始めました。「機雷なんて嫌い!」というジョークで〆られるかな、という程度の出来心でした。知らないことを思い付きで書き始めるべきではないことがよく分かったので、次はもう少しマシなテーマを選んで上手く脱線してみせます。