忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

心の形と断面二次モーメント〜工学屋の要らぬ思索

 心が折れるという表現があります。心そのものがポッキリ折れるようなイメージを語感から持っていたのですが、よくよく考えてみると折れるという言葉は『棒や板が曲がって切れる』という意味です。つまり折れることができるということは、心の形が棒状や板状であることを意味しているのではないでしょうか?これは凄い発見かもしれません!

 しかしどうにもなんともしっくり来ません。なんとなく心はハート型なり球なり扁球なりの丸っこい形状であって欲しい気持ちです。でも丸っこいものは折れようがありません。このジレンマ、私は何か前提条件を間違えているのでしょうか。それともこんなことを考えていること自体が間違えているのでしょうか。

 まあ心の形が多面体であってもそれはそれでカッコいいのですが、それだと安定感が高すぎるので、やっぱり心の形は転がってしまうような丸っこい形のほうが私としては納得感があります。

 

 というわけで調べてみたところ、心が折れるとは辞書的に言えば『心の支えを失い、意欲がなくなる』ことのようです。つまり心そのものが折れるのではなくて心を支えている何らかが折れるというイメージのほうが正しいということですね。心は丸っこいイメージのままでも問題なさそうです、良かった良かった。

 では心の支えはどんなイメージかというと、折れることがあるくらいですからこれはもうつっかえ棒のような棒状であることに間違いないでしょう。台座的なものやクッション的なものの上に心が鎮座しているような状態ではないはずです。

(個人的なイメージの結論、絵心は無い)

 

曲げ剛性を高めるには

 ゴミのような絵はさておき、本当はかがり火のように何本もの棒で球体を捧げ持っている絵を描きたいのですがそれは諦めるとして。

 この支えが折れて損なわれることが心が折れるということであれば、心が折れないようにするには心そのものを頑強にするのではなく心の支えを強くすればいいということかもしれません。

 棒状のもの、材料力学や構造力学で言うなればですが、梁を強くするには曲げ剛性を高めるべきです。曲がりにくければ折れにくいというのは道理というものでしょう。細かい話をすればただ硬ければいいというわけでもなく弾性限度を考えるべきだとか硬度と靭性のバランスがどうだとか色々ありますが、とりあえず分かりやすいところで曲げ剛性だけ考えましょう。

 曲げ剛性はヤング率(縦弾性係数)断面二次モーメントによって決まります。難しそうな言葉ですが理屈は単純で、要は材質固有の曲げやすさ(ヤング率)と梁の形(断面二次モーメント)によって決まるというだけです。

 ヤング率は材質に固有の特性値です。ゴムと鉄では曲げにくさが違うよね、という違いの度合いを数値化したものであり、実験的に求められた値が専門書や材料屋さんのところで公開されています。

 断面二次モーメントは形状による曲げにくさを表す値です。例えば長方形の棒が2本あり、片方は太く、片方は細いとします。

 両側を持って上下に曲げたとして、曲げやすいのはどう考えても細い方です。また太い方でも縦長の断面をしているので上下より前後に曲げた方が曲げやすそうだというのが感覚的に分かると思います。この曲げやすさを決めているのが断面の形状であり、曲げにくさを数値的に計算したものが断面二次モーメントと呼ばれます。

 よく建築現場などで下のようなH形の鋼材を見かけると思います。

 このようなH形は軽量で安く、その上曲がりにくい断面になっており、特に建設業界で多用されている形状です。なぜ曲がりにくいかは断面二次モーメントを知っていると説明できたりします。

 ちなみにこのH形、どちらの向きが強いか、つまり[H]と[エ]のどちらの向きが曲げに強いかを断面二次モーメントを用いてちゃんと説明できるかどうかが材料力学をちゃんと履修してきたかどうかの境目になると個人的には考えます。建築系の人はまず間違えないのですが、機械系の人は稀に間違える人が居たり居なかったり・・・

 

支えの強度を確認しよう

 とんでもなく逸れてしまいましたが話を戻しましょう。つまるところ、心が折れないためには心そのものではなく心の支えが重要だということです。

 自分の心の支えはどんなものがあり、どれだけの本数があり、どのくらいの頑強さがあるのか。どうすれば折れないよう支えを強化できるか、支えのバランスは適切か、どこかに負荷が集中していないか。そういったことを考えて補強をしたほうが、心そのものを叩いて鍛えるよりも心の安定に役立つことでしょう。

 

余談

 心の話から断面二次モーメントに話が進む不思議。