忘れん坊の外部記憶域

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三菱電機の品質不適切事案調査報告書はとても良いケーススタディだと思う

 5月25日、三菱電機が品質不正調査の第3報を発表しました。報告書は今回も250ページ以上の大作で、1~3報全ての報告書を合わせると約750ページです。あと1,2回は報告書が出ると思われますので、合計で1000ページを超えることでしょう。超大作ですね。

品質不適切事案へのお詫びと対応について | 三菱電機

 今回は同じ製造業に勤める技術屋の目線で、三菱電機の不正や調査報告書に関する所見を述べてみます。

 

三菱電機の姿勢に関して

 メディアやSNSでは三菱電機が途中経過の調査報告書を発表する度に「さらに不正が発覚!」「三菱は駄目だ!」「日本の製造業の信頼が!」と話題になるのですが、ひとまず落ち着いてもらいたいです。

 確かにまあ検査を省いたり成績書に適当な数字を書いたりという個別の不正内容は控えめに言って有り得ないレベルのロクでもない話ですし、それをミドルマネジメントが見ていなかったりあまつさえ許容していたのは論外な話であり、さらにはそれを実施せざるを得ないような組織風土を構築していた経営陣の責任は重大です。不正そのものにはフォローの余地など皆無です

 ただ、いくつかの論調に指摘を入れますと、例えば不正が続々発覚しているのは全社規模で調査をしているからというだけです。三菱電機は並の企業よりも大きな規模を持つ生産拠点を20以上持つような巨大企業であり、時間が掛かるのは仕方がないことです。溝浚いの途中で「こんなに次々と汚泥が!」と騒いでもあまり意味がありません。とりあえず量の話は全部終わってからでいいでしょう。

 また、小生意気なことを言いますが、不正そのものを叩くのは当然の流れとはいえ今回の三菱電機はかなりしっかりと調査しているので、その姿勢を叩くのはちょっと可哀そうだと思いました。

 社会問題レベルの大規模な不正をやらかした企業は第三者機関や調査委員会によって内部調査を行い調査報告書を発表します。三菱電機が今回発表している一連の調査報告書群は他社の報告書に比べれば調査と分析の質がかなり高いです。

 一般的な調査報告書は「社員がこんな不正をやってました、監視できるようこんな対策をします」というレベルで終わります。それに対して三菱電機の報告書では「どんな不正がなぜ起きたか」「どう対策を取るか」という原因追及と対策に留まらず、その真因である組織風土、そしてそのような組織風土を醸成してきた経営陣の不作為について強く糾弾する内容となっています。

 そう、どれだけ現場に手を入れて監視の仕組みを作ったとしても、根っこが腐っていればそれらの仕組みは立ち枯れてしまうものです。この手の不正へ真に対策を打つのであればそれは経営陣を改革するしかありません。

 調査報告書では調査委員会の提言が最後にありますが、それを見るとよく問題を理解していることが分かります。

(提言の最後を意訳)

第1報:経営陣は絶えることなく様々な措置や工夫を行い続けろ

第2報:経営陣は「ものが言えない風土」を本気で是正しろ

第3報:品質教育が必要なのは現場だけじゃなくて経営陣もだ

 今回の調査委員会は外部の有識者が主体のため、経営陣への指摘が厳しくなっています。今回が4回目の全社調査ということもあり、今まで出し切れなかった膿をいよいよ出し切る覚悟なのだと感じます。

 ちなみに、報告書全体を通して調査委員会が言いたいことは、率直に言えば「組織風土がクソだからなんとかしろ」だと私は理解しました。スルガ銀行の第三者委員会調査報告書を思い出しますね、あっちは「組織風土が劣化し過ぎていて自力での改善は不可能」というもっと厳しいどころか匙を投げるような内容でしたが。

 

報告書に対して思うところ

 調査報告書は1~3報まで合わせて750ページという大作ではありますが、製造業に勤める人、特に研究開発職や品質保証部門の人全員に読んでもらいたいような内容となっています。

 なにせモノづくりの過程においてどこでどんな不正を起こし得るかという実例実に様々なパターンで網羅されています。開発段階での試験の虚偽の付き方、生産段階での工程の省き方、検査や監査の誤魔化し方、なんとも多種多様と言えるでしょう。ちょっとした失敗事例集、ケーススタディの資料として、変な教材を使うよりもこの報告書から持ってきたほうがリアルで楽なくらいです。

 真似をしろという意味ではありませんよ?「ああ、この方法はわが社でもやろうと思えばやれてしまうな。事前に検出できるような仕組みを考えておこう」「この不正をやられたら後工程では気付けないな、検査する工程を作ろう」というように、同様のことが起きないようにするには適切な資料だということです。

 人は失敗経験から様々なことを学び取ることができます。失敗経験を開示してくれていると考えて、これを他山の石として自社の管理体制や脆弱性をチェックするのにちょうどいいと思います。

 

 

余談

 不正そのものを擁護する気はさらさらないですけど、他所に比べれば今回の対応はかなりマシだと思うんですよね。同じ電機系で見比べても、他所の方の報告書は・・・まあ、腐すのは止めておきましょう。

 あとパワハラ問題や労災問題を見てもわかるように、三菱電機の組織風土がアカンのは明らかな事実だと思います。