忘れん坊の外部記憶域

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日本で栄養不足になっているのは誰か:FAO HUNGER MAP

 国際連合食糧農業機関(FAO)が毎年発表しているハンガーマップにおいて、日本が色付きになっていることが一部で話題になっていたので紹介します。

 

HUNGER MAPとは

 ハンガーマップ(HUNGER MAP)とは文字通り飢餓の度合いを示した地図です。具体的には各国・各国際機関が調査した「全国民における栄養不足の割合」を各国毎に図示しています。

The State of Food Security and Nutrition in the World 2022 | FAO | Food and Agriculture Organization of the United Nations

 各国の栄養不足の割合は色によって表されています。白に近いほど栄養不足に陥っている人が少なく、橙色、茶色と色が濃くなっていくにつれて栄養不足の割合が深刻であることを意味しています。

https://www.fao.org/fileadmin/templates/SOFI/2022/docs/map-pou-print.pdf

 日本が色付きになったということは、日本において栄養不足の割合が高まっていることを意味します。具体的には2.5%以下だった割合が2021年には3.2%まで上昇しました。

 

なぜ栄養不足の割合が高まっているか

 日本の栄養不足の割合が高まっていることに対して「日本は食糧も買えない貧乏な国になったのだ」「いや、若い女性がダイエットをし過ぎているんだ」というような論調で語られていたのですが、データを読み解くのは意外と難しいものだと感じます。

 まず第一に日本で食糧を買えなくなったわけではありません。ハンガーマップの公開と同時にフードインセキュリティマップ(食糧不安マップ)というものも発表されており、こちらの指標では日本はまったく問題ない判定です。具体的な数値としても、食糧不安の割合自体は若干上昇しているものの世界的に見れば上位です。むしろ食糧自給率を考えればかなり高い位置にいます。

 具体的に、中・重・深刻な食糧不安の割合は

  • 日本:4.7%
  • アメリカ:8.9%
  • イギリス:4.6%
  • フランス:6.9%
  • ドイツ:4.6%
  • スイス:2.7%以下
  • オーストラリア:15.5%
  • 韓国:6.0%

というように、日本が突出して高いわけではありません。食糧が手に入らないから栄養不足になっているという認識は誤りということです。

 次に、ダイエットのやり過ぎというわけでもありません。これも簡単な話で、日本の肥満率は上がってきているからです。子どもの肥満率も成人の肥満率もこの10年で高まっていますし、女性の貧血割合も下がってきています。栄養不足による子どもの発育阻害の割合も低下しており、世の中は全体的に健康へと向かっている方向です。

 あ、いえ、肥満の比率が増えるのはちょっと違うかもしれませんが。まあ、とはいえ栄養不足よりはましです。

 もちろん食生活の変化でもありません。それであれば数年程度で高い伸び率を示すことはないでしょう。

 

 そんな現状の日本においてなぜ栄養不足の割合が高まっているのか。

 理由は二つ考えられます。

 一つは厚生労働省の国民健康調査から読み解けます。調査結果より、日本において低栄養傾向があるのは高齢者だと分かっています。

 もう一つは栄養不足の割合が伸びた年です。2019年以前は東日本大震災の年を除いて日本の割合は2.5%以下でした。それが2020年と2021年に高まっています。

 すなわち、日本において栄養不足の割合が上がっている理由は、日本が貧乏になったからでも若者がダイエットをしているからでもなく、コロナ禍によって高齢者の栄養不足が深刻化したためでしょう。

 

 これについては名古屋大学の教授が以下のサイトで報告しています。

新型コロナウイルス禍と高齢者の栄養 | 健康長寿ネット

 コロナ禍によって運動量が減った結果、元々食べる高齢者は食事量が増えて肥満となり、元々食べない高齢者は食事量が減って栄養不足が深刻化する二極化の傾向が見られるという報告です。

 特に独り暮らしの高齢者は外出自粛によって生鮮食品を取る機会が大きく失われて、栄養の少ない保存食に頼りがちとなることがあります。

 この食事量の減少と低栄養こそが日本の栄養不足の割合を高めている最大の要因だと考えます。

 つまり、「日本が貧乏になったからだ、もっと食糧自給率を高めないと」とか「ダイエットのし過ぎだ、もっと若者に飯を食わせないと」というようなピントのズレた対策では意味が無く、やるべき対策は『おじいちゃんおばあちゃんに運動や栄養のある食事をしていただき、健康に生きてもらう』ことです。

 

結言

 高齢者の低栄養傾向は元々問題とはなっていましたが、コロナ禍によってそれが顕著に見える化されたのが今回のハンガーマップだと言えます。これを機に高齢者の栄養バランスの見直しや栄養補助食品の活用などといった改善が進むことを期待します。