忘れん坊の外部記憶域

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物事の変革に関して:「人にデスクを片付けさせる」を例として

 物事を変えるにはどうすればいいか。それには様々な方法が議論されていますが、今回は人のデスクを片付けさせることを一例として説明してみましょう。

 デスクの片付けなんてとても小さなテーマではありますが、人にデスクを片付けさせるのは意外と難しいものです。これが出来るのであれば他のことだって同様に変えることが出来るかもしれません。

 

状況設定

 仕事ができる社会人はデスクが綺麗、という俗説があります。

 もちろん世の中にはデスクがとっ散らかっていても仕事ができる人もいれば、綺麗にデスクを片付けていても仕事ができない人だっています。とはいえ傾向としてデスクが汚い人は仕事ができないという場合が多く、そもそもデスクが汚いことは同僚へ不快感を与えて周囲の効率を落としかねません。デスクは綺麗であるに越したことはないでしょう。

 今回はデスクが汚いヨゴレさんと、デスクを片付けさせたいキレイさんに登場してもらいます。ヨゴレさんはデスクが汚い状態のほうが心地よく、意地でも片付けたくありません。しかしキレイさんは隣の同僚が不満を漏らしていることを聞いているため、職場環境を改善するためになんとかデスクを片付けさせたいと思っています。

 キレイさんがヨゴレさんにデスクを片付けさせるにはどうすればいいか、考えてみましょう。

 

頼み続ける

キレイ「ヨゴレさん、たまにはデスクを片付けたらどうだい?それじゃどこに何があるか分からないだろ?効率化にもなるんだから片付けた方がいいよ」

ヨゴレ「ちゃんとどこに何があるかくらい把握してるよ。まあ、気が向いたらやるさ」

次の週

キレイ「なんだ、やるって言ったのに全然片付いてないじゃないか。隣に座っているリンジンさんからも苦情が来てるんだからちゃんと片付けろよ」

ヨゴレ「ああ、分かったよ、後でやっておくから」

次の週

キレイ「おい、先週と何も変わってねえじゃねえか。片付けろって言ったろ!?」

ヨゴレ「ちゃんとリンジンとの境界線にあるやつはこっちに寄せたじゃねえか、いちいちうるせえな!」

 デスクを片付けない人は何度言っても片付けないものです。なぜならばその状態が彼にとっては最適であり、それを崩すことに対するインセンティブを感じていないからです。片付けることによって得られる利得と片付けないことによって得られる利得のどちらを上位とするかは人それぞれの価値観によるものであり、それらが対立することは一般的に良くあることでしょう。

 このように利害が衝突している場合、互いの主張を押し付け合っていてはこちらの望むように物事を変革することは叶いません。

 

強制的に片付けてしまう

キレイ「ヨゴレの奴、何度言ってもデスクを片付けやがらねえ。もういい加減堪忍袋の緒が切れた。全部捨ててやる!」

ヨゴレ「おい、何やってんだ!ふざけんな!」

後日

キレイ「なあ、例の案件についての書類ってどこに行った?」

ヨゴレ「知るか、てめえが捨てちまったからもうねえよ」

 たとえこちらが望む通りの行動をできたとしても、物事を一方的に押し付けて変革した場合は抵抗勢力が持っていた利点やその勢力からの協力といったものも失ってしまい、想定していたよりも不便であったり利得が少なくなるかもしれません。もはや分断を解消して元の関係性に戻ることは難しいでしょう。

 これは目的と手段が逆転している状態とも考えられます。目的は職場環境を良くすることであるはずなのに、いつの間にか手段であるデスクを片付けることが目的になってしまっているわけです。結果、たとえ手段が上手くいっても目的を達成できるとは限らなくなってしまいます。

 

一緒に片付ける

キレイ「ヨゴレさん、デスクを片付けると効率的になるし、リンジンさんも困ってるようだから片付けないか?」

ヨゴレ「ちゃんとどこに何があるかくらい把握してるよ。まあ、気が向いたらやるさ」

キレイ「じゃあ今から一緒に片付けよう」

ヨゴレ「おい、やめろ、勘弁してくれよ」

キレイ「これはいらないよな、あれもいらないし、それもいらない。これはいらないかな?」

ヨゴレ「待ってくれ、これは後で使う重要な資料だから捨てないでくれ」

キレイ「そうか、じゃあ分かりやすいところに仕舞っておこう。お、この資料は?」

ヨゴレ「ああ、手間が掛かる仕事があったからそれを楽にするために作ったやつだ」

キレイ「なんだ、便利なものを持ってるじゃないか。これはぜひ皆に教えて仕事を楽にしよう」

後日

キレイ「いやあ、君のデスクが片付いたからこれでリンジンさんからのクレームも止みそうだし、目的達成だ」

ヨゴレ「綺麗になったせいでちょっと落ち着かねえけど、まあこれで文句が減るなら仕方ない。探し物がやりやすくなったのは事実だしな。あの資料を展開できたおかげで回りからも感謝されたし、そう悪くはない気はするよ」

 変革に必要なのは、一方的にやらせるのではなく、一方的にやってしまうのでもなく、巻き込んで一緒にやることです。一緒に行動することは連帯感を生みますので、こちらが先行して動きつつ巻き込んでしまえば相手は強く抵抗する必要がなくなります。悪い言い方をすると「相手のせいで仕事が増える」ような話ではありますが、しかし、これが一番確実に変革を進めることができます。

 どこまでを変えていいか相手の意見を聞き取りながら進めるのもコツの一つです。相手にとって譲れない所というのは必ずあり、それは聞き入れてあげなければいけません。そこを一緒くたに棄ててしまおうとしては相手も強固に反発せざるを得ないのであり、逆に言えばその譲れない所だけを残せば後は変えても問題ないのです。

 また、物事を変革することには必ず将来や変化への不安が付き物であり、それは抵抗への原動力となってしまいます。よってそのような抵抗を緩和するためにも相手の意見を受け入れる丁寧で穏便な姿勢が不可欠であり、対話をしながら作業を進めるという行為が必要です。相手に蔑ろにされないという安心感を構築する努力は絶対に必要なのです。

 

結言

 もちろん状況によってはドラスティックかつ破壊的な変革が必要な場合もあります。とはいえ日常的に物事を変革していくには抵抗勢力を生み出さないよう寛容によって実現することが長期的目線で見ると望ましいでしょう。

 平等・多様性・寛容がリベラルの指針であり、寛容による穏健な変革こそが本来的なリベラルの強みであるのですから、私を含め、物事を変えたいリベラルな人は寛容の力を発揮するのが望ましいと、そう考えます。