忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

社会人は自主的に勉強すべきか、という論点に対する個人的な理解

「社会人は自己啓発によって仕事の能力を高める必要があり、自主的に学びを行うべきである」

「仕事に必要な知識や技能は勤務時間中に教育すべきであり、勤務時間外に学びをする必要は無い」

 これら相反する意見の論点を大雑把な言葉でまとめると、「社会人は自主的に勉強すべきか」というところでしょうか。

 

 この論点については時々ネット上で議論が紛糾していますし、様々な意見が各所で表明されています。今更そのような状況に追加できる立派な意見があるわけではないのですが、この論点に関する個人的な理解について説明いたします。

 一応私の立ち位置を先に述べておくと、私は「私は自主的に勉強すべき」だと考えています。この「私は」というところが重要だ、というのが私の意見です。

 

論点の前提

 詳細を説明する前に論点の前提として、勉強には幅があります。

  • 学ばなければ業務を遂行できない勉強
  • 直接的に自らの業務に関連する勉強
  • 間接的ではあるものの業務効率を向上させ得る勉強
  • 業務とは関係しない勉強

 労働基準法では「業務命令で行う研修や教育訓練」は労働時間に該当するとされており、さらには「教育をしなければ実際の業務に就くことができない場合」も労働時間に該当します。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 

リーフレット『労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い』

 

 よって勉強すべきかどうかの議論の的になるのは「それを学ばなくても業務は遂行できる」範囲に限ります。

 例として営業マンであれば、契約に関する法知識や自社製品の販促に必要な知識を学ぶことは明確に労働時間に含まれるものであり、勤務時間外での勉強を強制するのは違反です。

 それに対して、より顧客の興味を惹くためのプレゼン手法や顧客の業界研究、事務処理効率化、というようなものの勉強は労働時間には含まれないものとされます。もちろん企業としてはこれらを学んで欲しいがために業務命令を出すこともあり、そうであれば労働時間に含まれます。

 今回の論点となるのはこの後者のような類の学びを自主的にすべきかどうか、です。

 

契約次第というつまらない結論

 身も蓋もない話ですが、これについて意見が割れるのはやむを得ないのです。人には思想信条の自由がありどう考えるかは人それぞれである、なんて話ではなく、もっと具体的な差異として、人それぞれで労働に関する契約が異なるからです。

 「勤務地にて所定の時間労働に従事すること」という契約をしている人もいれば、「自らの能力を向上させ、可能な限り効率的に職務を遂行すること」という就業規則に従う必要がある人もいますし、「期日までに要求仕様を満たした完成品を納品すること」という業務委託で契約している人もいます。

 時間を基準にしている人、例えばパートやアルバイト、一般職の人々からすれば勤務時間外に勉強するのは論外だと考えるでしょう。自主的な学びによる能率向上は報酬や待遇に直接繋がりにくいものであり、そもそもそれは契約に含まれないものです。極論、たとえどれだけ非能率的であろうとそのような労働契約を結んでいるのであればまったく問題ではありません。

 雇用契約上「能率的な職務遂行」が求められる人、医者や弁護士、エンジニアのような専門職や総合職の人々からすれば自主的な学びはある程度の範囲で否応なしに必要なものです。それが契約の範囲である以上、非能率的な業務をしていては解雇理由になり得ますし、職務の遂行能力が査定や評価に反映されることから自ら学ぶことにはインセンティブが存在しています。

 労働時間ではなく成果物が求められる人、業務委託やフリーランス、自営業の人々からすれば自主的な学びは不可欠でしょう。短時間で処理できる能力があればその分休暇を増やしたり収入を増やしたりという選択肢に繋がりますし、まず前提として成果物を納期内に納めるという能力を自ら磨かなければならないため、自主的な学びは必須です。学ばなければ時に仕事を失ってしまいます。

 

 私は自社の就業規則より積極的な自己啓発と能率的な職務遂行が求められている総合職のエンジニアとして雇用されているため、自然な発想として「自主的な勉強が必要である」と考えていますが、これが万人に共通して同意できる考えだとはまったく思いません。

 冒頭で述べた、私は「私は自主的に勉強すべき」だと考えているというのはこのような意味です。この論点で意見が割れるのは思想や考え方の違いに見えるかもしれませんが、そもそも人それぞれに環境や契約が異なるのですから絶対に正しい意見というものは存在しないのです。だからこそ、「向上心がうんたら」「社畜がうんたら」と思想や考え方の部分で論争するのはあまり意味が無いと考えます。

 

ジョブ型雇用が増加する未来に考えるべきこと

 海外では休日も勉強する人が多いというデータがあります。近年話題になったのは経産省が令和4年5月に公表した未来人材ビジョンがまとめたデータです。

https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf

 

 これは当然の話で、海外ではジョブ型雇用が主流だからです。

 ジョブ型雇用はジョブディスクリプションに基づきその業務内容がこなせる人を雇うのであり、それ以上のことは求められない代わりにそれが出来ない人はそもそも雇われません。よってジョブ型雇用で採用されるためにはその前に自発的な勉強なり前職なりで学んで出来るようになっていなければなりません。また自主的に勉強しない人は異なるジョブに就くことができませんので待遇も一生変わりません。

 だから海外では休日も勉強する人が多いというわけです。

 

 まあ上記資料の元となったデータは日本と海外で母集団の取り方が異なるので必ずしも正しい比較とは思えませんが、それでも海外のほうが自主的な勉強が活発であるという傾向があることは間違いないかと考えます。

 今後日本でも海外のようなジョブ型雇用が増加していく可能性があります。そうなると自主的な勉強は就職や待遇向上のためにやって当然になるという時代になるかもしれません。その良し悪しはそれこそ人それぞれ違うでしょうが・・・