忘れん坊の外部記憶域

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デモクラシーを弱体化させるメディアの致命的な錯誤

 時代を問わず、民主主義国家においてポピュリズム的な人気を取り強権的な施策を掲げる政治家が登場するのが常です。

 ある政治家をどう思うかは人それぞれ異なりますので絶対的な事例を挙げることは難しいですが、近年でそのような強権的な政治家がいると話題になったのは日本やインド、フランスやハンガリーなどが挙げられるでしょう。

 一番分かりやすい所では、アメリカのトランプが直近の記憶に残る代表的な事例と言えそうです。

 

彼・彼女が原因か?

 多くのメディアではこのような政治家に対して”ある定型的な批判”を行います。

 それは「あいつのせいで社会が分断された」「あいつが悪い」と言った類のもの、政治家個人に対する批判です。

 実のところ、これは大きな錯誤を生み出してしまうと考えます。この手の政治家が台頭したことによって社会が分断される訳では無いからです。

 

 民主主義国家におけるポピュリストはその和訳の一つである大衆迎合主義者という言葉が示す通り、人々の意思を汲んでそれに迎合する形で支持を獲得します。

 つまり、その人物は確かに分断を象徴する存在かもしれませんが、分断の根本原因ではありませんそのような人物がいるから分断が起きるのではなく、分断が起きているからそのような人物が権力を獲得するのです

 彼・彼女は原因ではなく、結果に過ぎません。

 

 もちろんそのような人物にまったく責任が無いとは言いませんが、そのような人物はただの扇動者であり、ポピュリストであり、分断を生み出すような力は持っていません。

 よって、たとえその扇動者を打ち倒したとしても分断が解消されることはありません。その人自身が後々復権したり、もしくは同じようなことを言う同じような人が新たに台頭してくるだけです。

 これは先に提示したアメリカの事例が分かりやすいでしょう。2020年にトランプが大統領選挙で敗北した結果、トランプを支持していたコンサバの層がリベラルに寄っていき分断が解消されたかと言えばそうはならず、アメリカ社会は今なお分断されたままです。トランプや後継者は2024大統領選挙に向けて元気に活動していますし、バイデンが2022年9月に行った演説でもトランプとその支持者を攻撃したように、分断の構図は変わらず残っています。

 

メディアが取り上げるべきポイント

 つまるところ、メディアが定型的に用いる「あいつのせいで社会が分断された」「あいつが悪い」といった個人に原因を集約する言説は、分断の解消に有益どころか着目すべき点を錯誤させてしまう害悪でしかないと考えます。

 

 「あいつが悪い」「あいつを倒せばきっと良くなる」というような象徴的な悪を打ち倒す単純明快な物語は確かに分かりやすく、ナラティブに惹かれて購読者数や視聴率の向上に資することでしょう。

 しかし前述したように「悪いあいつ」を倒して排除したとしても、分断が解消されて万事解決、世は事も無し、とはならないわけです。

 それこそ単純にトランプ個人が悪いのであれば、バイデン大統領の登場で分断が解消されたはずです。しかしアメリカでは今なお分断が継続されています。それは、アメリカの分断において象徴的な個人は実際的な原因ではなく、移民・人種・宗教・経済格差といった様々な複合要因が原因であり、それらを解決しないことには決して分断が解消されないからです。

 

(余談)

分断を解消して一致団結するための特効薬としては戦争があり、それは歴史上幾度も処方されてきました。まあ、クソみたいな話ですけど。

 

 日本も同様で、過去に様々な「悪いあいつ」とされる政治家がメディアに叩かれて退場していきましたが、その後に問題が消されたかと言えば、そうなってはいないのです。同じ派閥や似たような政治家が結局は台頭するだけであり、それはそういった存在が台頭し得る土壌が変わっていないからだと言えます。

 

 重要なのは根本原因を解消することです。

 よってメディアが取り上げるべきは「悪いあいつ」という矮小化した課題ではなく、その「悪いあいつ」を生み出した土壌、民衆の不満の元であり分断の根源となる格差や差別や因習、そういったものであって欲しいです。