忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

数年ぶりにヤツが来た

 

仕事ができるやつが好き

 俺は仕事ができる奴が好きだ。

 別に仕事ができない奴が嫌いってわけじゃあない。それは別にマイナス評価をするようなことじゃない。

 そりゃあまあ、俺にだって物事に対する好悪の感情くらいはある。けど、誰にだって個性ってもんがあるだろ?それにいちいちマイナスを付けてたら、世の中マイナスな奴で半分くらい溢れかえっちまうってなもんだ。

 世の中には嫌な奴がたくさん居るってわけじゃなく、『嫌な奴』と自分でラベルを貼った奴がそこらを闊歩している、ただそれだけの話だと俺は思うぜ。

 

 嫌な奴に囲まれて生きるってのはそりゃあ辛いもんだ。そんな時間と精神の浪費をするくらいなら、俺は俺が好きな部分を持ってる奴にプラスだけを付けて生きたいもんだね。そうすりゃ世の中の半分は普通の奴、残り半分は好きな奴、ほら、なんとも居心地の良い世の中になるじゃないか。つまり、俺は加点主義者ってやつさ。

 まあ俺の加点範囲はそこそこ広いから半分じゃ済まないけどな。あいつはちゃんと挨拶ができる、あいつはよく笑ってる、あいつは運動神経が良い、あいつは慎重で冷静な奴だ、あいつはユーモアがある、あいつは頭が良い、あいつは飯を食うのが早い、あいつは親切だ、とりあえず良さそうなところを持ってる奴にはペタペタ『良い奴』のラベルを貼り付けちまう。いちいち峻別するのが面倒くせえっていう横着な気持ちもあるけどな。まあその方が気楽だ。仕事が出来る奴っていうのも、そのラベルの一つってだけさ。俺に言わせてもらえば、世の中ってのは良い奴ばっかりだぜ。

 

侵略が嫌い

 そんな俺だが、嫌いなものだって当然ある。渋滞や行列で待たされるっていうのが最たるもんだが、あとは正直に言って虫が嫌いだ。

 厳密に言えば虫そのものがどうこうっていう話じゃない、俺も男だからな、虫そのものは慣れたもんだ。山や森で出会う虫なんかむしろ好きなほうだぜ。

 ただ、あいつらは家の中にも入ってきやがる。そこがとにかく気に食わねえ。家は俺にとって究極のパーソナルスペースだ、そこに黙って侵略してくるヤツはあんまり好きになれねえんだ。

 別に虫に限った話じゃないんだ、虫でも、鳥でも、掃除が得意なおっさんでも、役に立つかどうかとか害があるかどうかとかは関係なく、俺の許可なしに俺のスペースを侵略してくるヤツは好きじゃねえ、ただそれだけの話だ。

 つまりは自然免疫機構と同じようなもんだと思ってくれ。有益だろうが無益だろうが許可なく侵入してきたヤツは排除する、そういったシステムに近い感情だな。どれだけ綺麗に部屋を掃除できるとしても、家の中に知らないおっさんが居座ってたら警察を呼ぶだろ?そういうことさ。

 

ヤツが来た

 まあそれはともかく、先日の夜の話をしよう。

 さあ寝ようと思って椅子から立ち上がったところ、季節外れの黒いアイツが突如として出現しやがった。高速で地を這うのが得意なアイツだ。名前も出したくないアイツだ。アイツが床の上に我が物顔で居やがった。会いたくもないアイツと数年ぶりの相対だ。

 どっかから迷い込んで来やがったんだろう、なにせうちにはアイツの食糧になるようなモノは無い。というか俺の食糧すらロクに無い。ついでに言えば床に置くほどモノを持ってもいない意図せぬミニマリストの我が家だ、基本的にアイツらが居座り繁殖するような環境じゃない。言っちゃなんだが人間が居座る環境でもないかもしれない。

 さらに言えばアパートには事前防御型のコロニー破壊アイテムが各所に設置されている。よって経験則的に、アイツは迷走して迷子の招かれざる迷惑な客人ということだ。

 

 一瞬、空間が殺気と緊張感で満たされる。刹那の見斬り。先に動いたほうが負ける、そう確信できる。しかし動かなければ戦いは終わらない。

 俺は素手でアイツと戦うことを即座に諦め、武装することを決断した。侍が間合いを図りながら円を描くように、アイツと相対しつつ迂回して武器庫へと向かう。

 だがそれは無様な敗北へと続く道だった。アイツは持ち前の速度を活かし、氷結系武装を確保した俺を嘲るように大型家具の裏に忍び込んだ。

 なんて判断力だ、すげえよお前は。そんなところに逃げられちゃあ直接攻撃のしようがない。武器庫から持ち出したものの無用の短物と化した缶を片手に、俺はしばしの間途方に暮れた。

 だがヤツがそこに存在することを知ってはおちおち寝てもいられない。俺は武器庫に再び赴き、新たな武器を手に取る。人類の叡智、古代より活用されてきた狩猟の友、そう、だ。俺は慣れない手つきでアイツらが好む匂いを放ち粘着性を主兵装とする箱型の罠を2つ組み立てて家具の左右に設置した。逃げ道など与えない完全封鎖が目論見だ。

 即効性は無いがやむを得ない。いい加減深夜だ。本当は後顧の憂いなく就寝したいが、明日の仕事に響かないよう眠らなければならない。

 俺は床につき、なんとか浅い眠りについた。

 

 血圧の問題で俺の朝は忙しい、寝ぼけた頭で急ぎ身支度を整えて家を飛び出す。罠の成果確認は帰宅後だ。

 アイツは無事捕獲できているだろうか、ソワソワして仕事に身が入らない。気にしたって仕方がないことではあるが、捕獲できていなかった場合は仕事で疲れた心身に鞭打ち再びの戦闘に身を投じなければならない、そんな心労は勘弁だ。

 俺はさっさと仕事を片付けて、急ぎ帰宅した。

 さあ罠よ、お前は俺と同じように仕事をこなしただろうか。お前がこの世に存在する理由を果たせただろうか。

 そっと左の罠を覗き込む。アイツは居ない、空っぽだ。落胆しつつもまだチャンスはある。右の罠に手を伸ばし、静かに傾けて中の様子を伺う。

 ・・・素晴らしい、罠よ、お前はやっぱり優秀だ。実に見事な、完璧な仕事をした。なんて『良い奴』なんだ。

 さあ、ゴミ出しの時間だ。

 

結言

 俺は仕事が出来る奴が好きだ。

 だから、○○○○ホイホイのことも好きだ。良い仕事をするからな。

 

 

余談

 (しょうもない)戦いの余韻が残っているため、言葉遣いがワイルドな風になりました。裏腹にテンションは物凄く低いですが・・・ホイホイは優秀なのですが、あれの戦果確認って覗き込まないとできないじゃないですか、あの瞬間が物凄いイヤなのです。