忘れん坊の外部記憶域

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100均の製品は品質が良い:品質(クオリティ)と性能(パフォーマンス)の違い

 品質(Quality)の概念は意外と奥深く難しいものです。

 そのためか、世間、それどころか品質を深く考えなければならない製造業やサービス業においてすら品質に関する誤解が広く蔓延っているような気がしています。

 過去にも取り上げたことのある話題ではありますが、再度、品質について整理していきます。

 

品質の定義と意味

 品質(Quality)の意味は日本産業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)で明確に定義されています。多少表現に違いはありますが根底部分は同じです。

 

JIS Q 9000:2015

対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度

 

ISO 8402:1994

The totality of features and characteristics of a product or service that bear on its ability to satisfy stated or implied needs.

製品またはサービスの特徴及び特性の集合で、明示又は暗示されるニーズを満たす能力に関連するもの

 品質とは言葉の通り、物(サービス)の性です。この"性質"とはJISの「本来備わっている特性」やISOの「製品またはサービスの特徴及び特性」を意味しています。

 

 つまり、本来的に言えば品質に高低はありません

 例えば郵便ポストは赤いですが、"赤いという特性"それ自体には良いも悪いも高いも低いも無いのです。

 厳密に言えば、その品物が持つ品質特性がユーザーの要求やニーズを満たせている度合いによって品質の高低が決まります。

 

 とはいえ、細かく区分していくとややこしい話になりますので、

品質が高い:ユーザーの要求を満たしている

品質が低い:ユーザーの要求を満たしていない

といったように、品質と品質特性を混同して考えてもさほど問題はないです。

 

品質特性の一例

 品物(サービス)の性質が品質で、品質を評価するのが品質特性。

 これだけでは分かり難いので、大まかなイメージを掴むためソフトウェアを例に品質特性を挙げてみましょう。

 ISO25010ではソフトウェアの品質特性を以下の8つに分類しています。

 

ISO/IEC 25010: 2011

 ■機能性(Functionality)
 ■性能(Performance)
 ■互換性(Compatibility)
 ■有用性(Usability)
 ■信頼性(Reliability)
 ■安全性(Security)
 ■保全性(Maintainability)
 ■可搬性(Portability)

 必要な機能はあるか、性能は充分か、互換性があるか、使い勝手はどうか、その他にも信頼性や安全性、保全性や可搬性は考慮されているか、そのような判断基準でソフトウェアの品質は評価されます。

 また、ISO25010では記述されていませんが、顧客要求には価格(Cost)や可用性(Availability)といったものも暗示的に含まれます。どれだけその他の品質特性が良くてもユーザーが購入できない価格では顧客満足を満たせず、どれだけ価格が安くても手に入らなければ同様です。

 

 もちろん効率性や正確性など品物(サービス)によって評価対象となる品質特性は異なりますので、これは一例です。

 

品質(Quality)と性能(Performance)の違い

 以上より、品質と一口に言ってもその評価軸は多数存在しています。よって品質の高低を判定するのは難しいことです。

 しかしながら一部の製造業やサービス業では品質特性を安易に簡略化して混同し、品質=性能と考える傾向が見られるように感じます。

 すなわち「機能を増やす」「高性能にする」「高度なサービスを行う」ことによって性能を高めることがイコール品質を高めることだとする考え方です。

 

 これは大変な誤解です

 性能(Performance)が高いことは品質(Quality)の評価軸の一つに過ぎません。そのような性能を高める活動をした結果、顧客が望まないほど値段が上がってしまったり、入手性が下がってしまったり、保全性が悪化してしまっては本末転倒です。

 繰り返しとなりますが、品質の高低はユーザーの要求やニーズを満たしている度合いによって決まるのであって、その他の品質特性が低下している場合、どれだけ高性能であってもその品物(サービス)は低品質と評価されます

 

 今は衰えてしまった一部の日本企業はこの過ちを犯していた、いえ、今なお過っているところもあります。

 中国製なんて安かろう悪かろうであり価格が高くとも高性能な製品こそが良いのだと一生懸命に性能を高めたとしても、それが顧客の要求に合致するとは限りません。実際、更なる性能ではなくもっと安価で手軽なものを入手することが顧客のニーズであった事例は多々ありました。

 つまり、一部の日本企業は開発力や技術力が低いために競争に負けたのではなく、品質が落ちたから競合他社に負けたのです。

 

100均の製品は品質が良い

 この品質≠性能の誤解は100円均一ショップの製品をモデルにすれば理解しやすくなります。

 100均の製品は確かに低性能(ローパフォーマンス)です。すぐに壊れますし、すぐに摩耗する使い捨てのものばかりです。
 しかしその性能は100円であれば充分に見合ったものであり、この価格と性能のバランスは顧客の要求を充分に満足しています。

 つまり100均の製品は低性能(ローパフォーマンス)ではありますが、高品質(ハイクオリティ)な製品だということです。


 100均の製品がハイクオリティだと認識すると、品質のイメージが掴みやすくなるでしょう。

 

結言

 俗な意味としての品質は性能と同じ意味を持ちますが、品質に関わる仕事に携わるのであれば品質≠性能であることを重々留意する必要があります。