先日、一週間程度の短期ですが初めてアメリカへ行きました。
そこで見た日米の社会の違いについて、技術屋目線での感想を少し述べていきます。
日米の社会の違い
日米それぞれの社会における最大の違いは「問題に対する捉え方」だと感じました。結論から言えば、日本社会はスタビリティ(安定性)を重視するのに対して、アメリカ社会はレジリエンス(回復力)を重視していると考えます。
アメリカに居た間、日本では想像もしないような問題を多く見ました。
ホテルのエレベータのボタンが壊れておりフロントへ直行できない。
大きな施設ではエスカレータが毎日のように故障する。
街を走る車はフロントバンパーが外れたままでも平気で走っている。
予約は店の都合によって平気でキャンセルされる。
電車は驚くほど揺れるし、エアコンは爆音でうるさい。
缶のプルタブは質が低く上手く開けにくい。
お土産屋に並べられている同じ人形のクオリティにも明らかに差がある。
日本であれば滅多に見かけない状況や光景ばかりです。
ただ、何よりも違うのはそれに対する人々の反応です。
日本では問題が生じることは例外的な事態であり、時に文句を言う人もいますが多くの人は寛容で対応することと思います。それに対してアメリカでは問題が生じること自体を受容していました。
例として、エスカレータに乗っていた際に故障して止まった場合を想定してみます。
日本であればほとんどの人は黙ってエスカレータを歩いて昇っていくことでしょう。
アメリカでは「おお、止まっちまったぜ、仕方がねえ、皆歩こうぜ!」と声が上がり、ぞろぞろと昇っていきます。実際にそんな光景を目にしました。おまけに「お、あっちに階段があるぞ、あっちから行こう!」と声かけする光景も見ました。
ここには問題に対して「故障は悪いことだけども仕方がないことだ」とする寛容と、「故障は当然起こることだから仕方がないことだ」とする受容の違いがあります。
これを異なる表現で言えば、スタビリティ(安定性)とレジリエンス(回復力)の違いだと私は捉えます。
日本社会では物事や製品、そしてシステムは故障させないものであり、事前に対処をすることで安定的に動かすことが求められています。スタビリティを重視し、「問題は起こさないもの」とする思想です。
対してアメリカ社会では何事も故障することが前提にあり、故障しても代替なり別案なり修理なりをして事後的に動かす回復力が求められています。レジリエンスを重視し、「問題は起こって当然のもの」とする思想です。
これはミクロな一製品からマクロな社会全体でも同様の傾向があると思われます。
入口で防ぐか、内部を管理するか
もう一つの事例として、アメリカでは日本よりも多くの警備員を建物内部で見かけました。これは単純に治安の問題もあるでしょうが、管理思想そのものの違いも感じます。
つまり、日本では入口で検疫・防護することによりシステムの内部に問題の種を入れされない管理を前提としています。
対してアメリカでは入口は多少ラフに通すものの、内部で問題が起きないよう対処する、もしくは問題が起きた後に対処する管理が想定されています。
コロナ禍での管理の違いなどはまさにこの差異を表していると言えるでしょう。日本は感染しないように管理をし、アメリカでは感染を前提とした管理をしています。
良いとこ取りのハイブリットが望ましい
スタビリティとレジリエンスのどちらが優れているかは時と場合によりけりです。毎日使うものがポコポコ壊れては不便で仕方がありませんし、大きなシステムがちょっと問題が生じただけで麻痺してしまっても困ります。どちらを重視すべきかは個別に考える必要があるでしょう。
ただ、何もミクロとマクロで同様の傾向を持つ必要はありません。それこそ時と場合によるものなのですから、適宜必要なだけのスタビリティとレジリエンスを求めればいい話です。
よって私の個人的な意見ですが、ミクロなものは日本的にスタビリティを重視し、マクロなものはアメリカ的にレジリエンスを重視すれば良いと考えています。
日常的に使うものや製品は不便を感じないようスタビリティが高いほうが良いでしょう。しかし組織や管理、システムといったマクロな複雑系では問題を生じさせないことは現実的に不可能です。それでも現実を無視して問題が生じること自体を罰しては、行きつく先は問題の隠蔽に他なりません。よってマクロな複雑系ではアメリカ的にレジリエンスを優先すべきだと考えます。
ミクロとマクロを分けて考える良いとこ取りのハイブリットは難しいとは思いますが、そんな社会のほうが望ましいと私は思います。
余談
マニアックな話になりますが、太平洋戦争における空母、大鳳とエンタープライズの差がまさに日米の思想を表していると思っています。
大鳳は魚雷や航空機の攻撃を受けても沈まないよう、各所に強固な装甲を施されていました。しかし雷撃による燃料への引火によって一度の攻撃で沈んでしまいました。
対してエンタープライズはそこまで強固な空母ではないものの、大小15回の損傷を受けながらも高いダメージコントロール技術によって沈むことなく大戦を乗り越えました。
大鳳はスタビリティを重視して大きなダメージを受けないよう設計されたのに対して、エンタープライズは大きなダメージを受けてもなんとか回復させるレジリエンスが重視されていた、そんなとても分かりやすい事例です。どちらが優れているということではありませんが、空母のような複雑系ではレジリエンスのほうが重要だったということでしょう。