忘れん坊の外部記憶域

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台湾有事の可能性に関する余計な思索:政治ではなく経済的動機に関して

 素人による余計な思索ですので、価値のある情報は特にありません。

 

台湾有事が話題になっておりますが

 2023年1月、アメリカのシンクタンクであるCSIS(戦略国際問題研究所)が台湾有事に関するシミュレーションの報告書を出して以降、各種メディアや有識者によって台湾有事の可能性に関する様々な言論が活発に行われています。

 ただ、色々読んでみると多くは軍事的・政治的な視点での言説ばかりで、経済的視点における台湾有事の可能性について語られたものがあまり無いように感じます。

 

 そんなわけで、台湾有事に関して私が考えている余計な思索を整理してみます。

 この手の話題は素人や門外漢ではなく専門家の発信を見るべきですので、この記事は素人の戯言としてご笑覧ください。

 

いつ起こるかと何故起こるかの分割

 台湾有事が有り得ると述べる言説の多くは中国政府の政治的動機を論拠としています。曰く、政治的正当性や権力闘争、建国以来の重要目標、そのような理由付けです。

 対して台湾有事の発生を否定する言説は経済的な理由を論拠としています。グローバル化の進んだ現代において戦争を起こすことは経済的ではないとした理由です。

 

 私は台湾有事の発生自体は起こり得るものと考えます。

 ただしそれがいつ起こるかは分かりません。これは国際関係論の専門家でも予想し得ないものであり、それこそ他国の軍事情報を偵察している軍事機関でなければ正しく予測することはできません。

 戦争が何故起こるかは推測余地がありますが、戦争がいつ起こるかは双方の戦力配置次第だからです。

 よって今回はいつ起こるかではなく何故起こるかを検討していきます。

 

経済的合理性の二側面

 台湾有事の可能性を否定する言説は経済的合理性、すなわち商業的平和論に依拠しています。

 しかし商業的平和論は戦争の低減には繋がるものの戦争の完全阻止にまでは至らないものです。

 たとえ経済的合理性が無くとも国家は時に戦争を起こします

 直近のウクライナ侵攻が分かりやすい事例であり、これは第一次世界大戦から続いてきた歴史的事実でもあります。日本もかつての大戦では山ほどの借金をしながらも戦争をしました。

 とても残念なことに、目先の損があったとしても、戦争目的を達成できる見込みがあれば、もしくは見込みがあると誤認すれば、国家は戦争を起こし得ます。

 

 ただし、経済的合理性を無視して政治的動機に引き摺られて戦争をするほど中国は愚かな国ではないと考えます。もちろん中国が台湾を統一することへの政治的な動機はありますが、それだけではないでしょう。

 ソ連崩壊を契機として陸上戦力の削減が可能になった1990年代から中国は海軍力の拡充と第一列島線・第二列島線を代表とする海洋権益の獲得計画を策定しており、現状の台湾海峡での軍事的過熱は中国が当初から進めている国防計画通りのものです。

 よって単純な政治的動機、例えば国家主席の権力維持や共産党の正当性などだけでは説明が付かないものと考えます。

 

 つまるところ、中国が台湾を統一することには政治的動機以外の理由、すなわち経済的動機と合理性が存在しているものと思います。

 それは前述したように海洋権益です。

 要するに中国は大陸国家から海洋国家への移行を余儀なくされているのだと考えます。

 

中国が海洋権益を求める理由の推論

 改革開放による市場経済への移行により中国経済は大きく発展してきました。それに伴い輸入品目の変化も起こっています。

 特に大きな変化はエネルギーと食料です。国民が豊かになるにつれて自国内では賄いきれなくなり、中国はエネルギーと食料の輸入量が年々増加しています。

 しかし中国経済はまだ発展途上であり、国民の多くはまだ先進国水準の所得を得ていません。よって中国政府としては国民の負託に応えるため、今まで以上にエネルギーと食料を入手する必要があります。

 海洋進出、海洋国家への変貌はそのためにも不可欠です。オランダやスペイン、イギリスやアメリカの前例があるように、世界中の資源をかき集めるためには海洋への進出が地政論上の必須要件であり、中国政府はそれが分かっているからこそ30年前から海軍力の拡充に資金を投じています。

 

 そしてどのような国においても、国民からすれば「俺たちの役に立たない政府なんて必要ない」のですから、たとえ独裁的・専制的な国家であっても権力者が権力を維持するためには国民に生活向上の機会を与えなければなりません。

 よって一部の専門家は中華思想や政治的動機によって中国の膨張を説明しますが、私はそういった「何らかの邪悪な野望」によるものではなく、ただ単純に自国民の生活向上のため、すなわち経済的動機を満足するために膨張が不可欠だから行っているに過ぎないと考えます。

 第一列島線を見れば分かるように、台湾・南西諸島・フィリピン・ボルネオ島は中国が外海へ進出するための防壁になっています。

 だからこそ中国は台湾を統一することで外洋へ出る必要があると考えており、これは政治的動機よりもむしろ経済的動機が強いものである、そう推論します。

 

結言

 もし経済的動機が強く、海洋権益の獲得が叶うのであれば台湾有事は中国にとって必須ではないとも言えます。

 ただ、海洋権益の獲得とはすなわちシーレーンの分断による周辺国家の支配や周辺国家の資源を奪っていくことと同義であり、それは周辺国家からすれば戦争と同様に承服しかねる事態である以上、軍事的緊張が高まるのはやむを得ない話です。

 

 よって、中国の事情を勘案したとしても、武力による現状変更を許す理由にはなりません。周辺国が反発するのは当然のことです。

 願わくば、軍事的バランスが崩壊して有事になることなく、技術的革新によって中国の資源問題が解消して中国が外洋へ出る必要性が無くなるなど、戦争には至らない道へ進むことを望みます。

 

 

余談

 CSISのシミュレーション結果、中国海警の歴史的経緯、輸出入の統計、第一列島線について、中国の具体的な海軍戦力、大陸国家と海洋国家の違い、その他色々と説明やデータを省略し過ぎたため、とても余計な思索記事となりました。