「なぜなぜ分析」とは問題や課題に対して「なぜ?」を何度も繰り返して根本原因を掘り下げていく手法です。
この「なぜなぜ分析」の作成例を書籍やインターネットで探すと、多くの場合で次のような図を用いて解説されています。
しかしながら、このように分岐するものは「なぜなぜ分析」ではないと考えます。
「なぜなぜ分析」は様々な方が解説しているメジャーな手法であり、異論を唱えるのは正直恐縮するのですが、そう考える理由について説明していきます。
(なぜなぜ分析に関する過去記事)
なぜなぜ分析の目的と言葉の整理
まずは言葉の整理をします。
問題とは起こってしまった望ましくない事象そのものであり、その問題を引き起こす様々な要素が要因(factor)です。
要因は無数にありますが、必ずしも全ての要因が同時に問題を引き起こすわけではなく、問題はどれかしらの要因によって引き起こされます。実際に問題を引き起こした要因を原因(cause)と呼びます。
しかしその原因に対策を打ったとしても、他の要因が次の原因になる可能性が残ります。様々な要因を生み出しているもっと根源的な部分の原因を根本原因(root cause)と呼びます。
例として、渋滞で会社に遅刻した場合は、
問題:会社に遅刻した
要因:目覚ましの設定忘れ、夜更かし、交通渋滞、etc.
原因:交通渋滞
根本原因:時間管理能力の未熟
といったようになります。
重要なことは問題が起こる度に弥縫策で原因に対処するモグラ叩きとならないよう根本原因を見つけて対処することであり、その根本原因まで深堀りして分析することが「なぜなぜ分析」の目的です。
正規の事例と分岐の有無
「なぜなぜ分析」はトヨタの大野耐一さんがまとめたものです。
大野さんの著書での事例を図にすると、次のような手順になっています。
この事例は根本原因まで辿り着いていないのであまり適切ではないのですが、それはさておき、事例から分かるように「なぜなぜ分析」は一本道です。最初に挙げた例のように分岐していません。
一本道ではなく分岐をしていく「なぜなぜ分析」は全て誤りだと言っても過言ではないと考えます。
「なぜなぜ分析」が分岐しない理由
問題を引き起こす要因は様々あれど原因は一つに特定可能であり、分析は一本道で進みます。そうならずに分岐してしまうのは、問題の設定を間違えているか、付随事象を誤解しているか、事実ではなく推測を交えているか、のどれかです。
例として、ある製品の生産において「異なる部品を組み付けてしまった」ことを問題としましょう。
不適切な「なぜなぜ分析」でよく見かける分岐は次のようなものです。
確かに一見すると、勘違いして使ったこと(動作)と見落としたこと(監視)は両方が原因に思えます。
しかし問題をよく見れば分かるように、監視の失敗は付随的な事象であり、見落とそうが見落としまいが異なる部品を組み付けた事実は変わらず、見落としたことは異なる部品を組み付けた直接原因ではありません。
よってこのように分岐することは誤りです。
監視の失敗を問題視するのであれば、分岐するのではなく「監視に失敗して不具合品が後工程に流出した」こと自体を問題として別に設定する必要があります。
また、最初に挙げた事例のように問題を起こし得る要因を列挙するような分岐もよく見かけます。
しかし「なぜなぜ分析」は実際に起こった問題を分析するために用いるツールであり、用いてよいのは現場・現物・現実に基づいた事実のみであることから、”今回分析している問題”に関わらないその他の要因を列挙することは不要です。
分岐する図は何と呼ぶのか
「なぜなぜ分析」は一つの根本原因に辿り着くため一本道で分析を進めていく手法であり、事実ではなく推測を含むものや網羅的に全ての要因を記述して分岐されたものは「なぜなぜ分析」ではありません。
それは特性要因図を系統図法で書いたもの、すなわち「ロジックツリー」です。
世の中で「なぜなぜ分析」として紹介されているものの多くはロジックツリーの紹介になってしまっています。
もちろん問題事象を分析するためにロジックツリーを作成することはとても有益であり意味のあることではありますが、「なぜなぜ分析」とは異なるものであり、混同すべきではないと考えます。
「なぜなぜ分析」と「ロジックツリー」の使い分け
なぜなぜ分析とロジックツリーは似て非なるものであり、使い道が異なります。
問題を引き起こす要因を網羅的に抽出し、個別に対策を検討するために用いるのがロジックツリーです。
対して「なぜなぜ分析」は根本原因を追究していくことに用います。
ベストプラクティスとして、ロジックツリーで分析した原因に対して「なぜなぜ分析」を用いて根本原因を探ることが理想的です。
また例を挙げてみましょう。
冒頭で例示したように、ある加工工程で寸法不良が発生したとします。
ロジックツリーは次のように網羅的に記述して分析をします。
このように要因を網羅的に列挙することは、分析の抜け漏れを防ぎ、また予防的措置を取ることにも資する有益な行為です。
ロジックツリーと現場調査によって「作業者のミスによる混入」、つまりポカミスが原因であると特定できた後は、次に根本原因を探るため「なぜなぜ分析」を用います。
ここで重要なのは、ロジックツリーとは別の方向に向かうことです。
今回の例であれば、「なぜなぜ分析」の問題として設定すべきは「なぜポカヨケのない工程があるのか」です。
「なぜポカヨケの無い工程があるのか」を「なぜなぜ分析」によって深掘りすると、次のような形になります。
なぜなぜ分析の結果より、寸法不良の根本原因は規定の不備であることが分かります。ルールが適切に定められてポカヨケが設置されていれば「作業者のミスによる混入」以外のポカミスや他の要因も防ぐことが可能です。
「なぜポカミスが起きたか」を追っていってもこのような根本原因には辿り着けません。「なぜなぜ分析」で重要なのは深掘りを進める方向性です。
結言
なぜなぜ分析は分岐しません。要因を分岐させて網羅的に分析するのはロジックツリーです。
なぜなぜ分析とロジックツリーは適切に用いればどちらも役立つツールですので、これらを混同せず双方を上手く使い分けることが問題解決に有益だと考えます。