忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

政治的公平を掲げるならば、安易に権力の監視を謳うべきではない

 今回は言論やメディアと権力の距離感、及び「権力の監視」に関する思索です。

 本来的に[権力]と[政府]はイコールではなく、ジャーナリズムが距離を置くべきは[政府]に限らず[政府を含めた全ての権力]ではありますが、今回は話を単純化するため[権力=政府]で話を進めていきます。

 

 権力の監視(ウォッチドッグ)については過去にも取り扱っています。

 

ジャーナリストの独立性に関して

 ジャーナリストにとって権力と距離を置き独立性を保つことは重要です。

 国際ジャーナリスト連盟(IFJ)が発信する「ジャーナリストのための国際倫理憲章(Global Charter of Ethics for Journalists)」においてもジャーナリストの独立性が重要であると言及されています。

Global Charter of Ethics for Journalists - IFJ

 

 とはいえ、どの程度の距離を取るかは問題となります。ジャーナリストの独立とは必ずしも権力の真逆に立つことを意味しているわけではないためです。

 権力との距離感を大雑把に分類すると、3段階あると考えます。

 

【親権力】

 権力者の言う通りに情報を発信し、権力者にとって都合の悪い情報は発信しない、言ってしまえば権力の犬になり下がった状態です。

 独裁政治や専制政治では権力者がジャーナリズムを管理支配していますので親権力の報道機関しか存在できませんが、それは自由主義や民主主義の国にとっては望ましい状態ではありません。

 

【権力からの独立】

 権力からの弾圧や支配を拒絶し、権力者の都合を忖度せずに情報を発信できる状態です。忖度しないとは、権力者にとって良い情報も悪い情報も関係なく発信されることを意味します。

 もちろんスポンサーの意向や読者の好みなど全ての忖度を排除することは現実的ではありませんが、可能な限り外部の影響を受けず独立性を保つことが良いとされます。

 

【反権力】

 権力者とは真逆の位置に立ち、権力者に都合の良い情報は隠蔽し、権力者に都合の悪い情報だけを発信することで権力者の権威を失墜させることが目的化した状態です。

 

「政治的公平」に求められること

 上述した3状態のうち、【権力からの独立】のみが真に政治的公平を保っていると言えます。

 【親権力】【反権力】ともに権力者の都合に配慮し、考慮し、忖度して「良い情報」「悪い情報」を選択的に発信する状態です。

 これらは権力者の側かその反対側かの立ち位置の違いだけで、ジャーナリズムにとって不適切な行いをしていることには変わりありません。ベクトルが異なるだけで本質は同一です。

 

 政治的公平を保った報道を行うためには、正負ともに色を付けず権力に対して忖度をしないこと、権力と同じ位置や反対の位置に立つのではなく、権力であろうが無かろうが関係ない独立した状態でなければなりません。

 

権力の監視と政治的公平の相性の悪さ

 権力は必ず腐敗します。これは歴史的な必然だと言えるでしょう。

 よって内外ともに批判的な目を持って権力を監視する必要がありますし、権力は監視されなければなりません。

 情報の専門家であるジャーナリストは外部からの批判役に最も適している存在です。だからこそジャーナリストが権力の監視を行うこと自体に問題はまったくありません。

 

 ただ、これは政治的公平との両立が難しい道です。

 権力を常に批判的な目で見る行為は【反権力】の行動と近似するものであり、それは前述したように政治的公平とは言えないからです。

 過去の記事でも述べたように、ジャーナリズムによる権力の監視は本業や目的ではなく、機能や手段です。「権力の監視」が目的化してしまうと、明白に独立性と政治的公平性を損ねることになります。

 少なくともジャーナリズムの倫理規範に従い政治的公平を掲げるのであれば、そして自らをジャーナリストと定義するのであれば、【権力からの独立】を保てるよう「権力の監視」を慎重に取り扱う必要があるでしょう。

 

結言

 今回提示した「ジャーナリストのための国際倫理憲章」が述べる16個の規範においても、権力を監視することはジャーナリストの義務としては求められていません。求められているのは権力に対して色眼鏡を掛けず独立した位置を保つことのみです。

 

 もちろんジャーナリズムによる「権力の監視」は民主主義に必要な機能・手段であり、これを否定するわけではありません。

 しかし「権力の監視」を目的化して【反権力】まで陥ってしまうことも、それは報道内容が権力の都合に縛られているという点で【親権力】と同様に独立性と政治的公平性を失っているものだと考えます。

 

 ジャーナリストの方々には【権力からの独立】を維持して、事実の発信と公衆の権利を尊重していただけると幸甚です。

 

1. Respect for the facts and for the right of the public to truth is the first duty of the journalist.

事実を尊重し、真実に対する公衆の権利を尊重することは、ジャーナリストの第一の義務である。

 

 

余談

 情報を入手するため政治家に近づく【親権力】のジャーナリストもいらっしゃいますが、国際倫理憲章からするとあまり望ましくない行動です。

 もちろん情報を入手するために必要なことだとは理解しますが、取り込まれて御用聞きに陥るリスクも多々ありますので。

14. The journalist will not undertake any activity or engagement likely to put his/her independence in danger.

ジャーナリストは、その独立性を危険にさらす可能性のある活動や業務に従事しない。