忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

日本の『学問の自由』を阻害しているのは誰だ?

 専門家の分析が欲しいところ。

 

学問の自由

 学問の自由とは、辞書的に言えば『真理探究のためにいかなることを研究し、発表し、教授しても、政治的・経済的・宗教的な諸権威による侵害を受けないこと』です。

 学問の自由は日本国憲法23条によって保障することが規定されています。

 今回は、具体的に日本には学問の自由がどの程度あるのか、見ていきたいと思います。

 

 各国の学問の自由を評価する代表的な指標に学問の自由度指数(Academic Freedom Index:AFI)があります。これはFAU(ドイツの大学)とV-dem(スウェーデンの独立研究所)による専門家の分析とオープンソースのデータから算出されており、毎年更新されています。

 AFIは各種指標を計算して0-1の範囲によって表されています。

 

 本指標によれば、日本の学問の自由は先進国の中では群を抜いて低い値です。多くの国がスコア0.7を上回る中、日本のスコアは0.58となっており、下位30~40%(Bottom30-40%)のグループに位置しています。

 また、このスコアは近年急激に変化があった等もなく、戦前から現在までずっと低いことも特徴的です。

 具体的に指標の中身を見ていくことで、なぜ日本の学問の自由は低スコアなのか、誰が日本の学問の自由を阻害しているかを推察していきます。

 

スコアの内訳

 AFIは以下の5つの指標によって算出されており、各指標は0-4の範囲で採点されます。

 

研究・教育の自由(Freedom to research and teach)

 研究課題や教育カリキュラムを決定する時に制限や干渉を受けるかどうか。自由に研究・教育を展開・追求できるかどうか。制限者は学問以外の行為者や大学当局、自己検閲、公的な圧力も含む。

0:完全に制限されている

1:厳しく制限される

2:中程度の制限を受ける

3:ほとんど自由

4:完全に自由

 

学術交流・普及の自由(Freedom of academic exchange and dissemination)

 どの程度自由に研究アイデアを交換し、伝達することができるか。学術会議への参加や出版物、メディア出演などに制限はあるか。

0:完全に制限されている

1:厳しく制限される

2:中程度の制限を受ける

3:ほとんど自由

4:完全に自由

 

組織の自治(Institutional autonomy)

 大学はどの程度自治を行使しているか。

0:まったく自治がない

1:最小限の自治

2:中程度の自治

3:実質的な自治

4:完全な自治

 

キャンパスの完全性(Campus integrity)

 キャンパスで政治的な動機による監視や警備が行われていないか。学生民兵の存在や第三者による暴力的な攻撃が対象で、非政治的なものは含まれない。

0:完全に制限されている

1:厳しく制限される

2:中程度の制限を受ける

3:ほとんど自由

4:完全に自由

 

学術的・文化的表現の自由(Freedom of Academic and cultural expression)

 政治的な問題に関する学問の自由や文化的な表現の自由はあるか。

0:公権力によって尊重されていない

1:公権力によって弱く尊重されている

2:公権力によってある程度尊重されている

3:公権力によってほとんど尊重されている

4:公権力によって十分に尊重されている

 

 日本の各指標におけるスコアは以下の通りです。

 0-4のレンジを考慮すれば、次のように評することができます。

  • 公権力による学問への制約はほとんどない(3.25)
  • 研究課題や教育カリキュラムの設定、学術的交流や普及、キャンパスの完全性は中程度に制限されている(2.42)(2.69)(2.54)
  • 大学の自治は最小限しか行使されていない(1.73)

 

 以上から分かることは、適切な自治を行わず、研究や交流、キャンパスの完全性を阻害し、日本の学問の自由を阻害しているのは大学や学者そのものです。

 私たちは学問の自由を阻害するのは政府や国家だと思いがちですが、先に提示したグラフからもそれが誤解であることが分かります。

 確かに戦前や戦中には学術的・文化的表現の自由(Academic and Cultural Expression)が著しく低下しており、これは公権力による抑圧があったことの証明です。

 しかし戦後は一貫して公権力からの圧力はほとんど存在していません。2020年にこのスコアが若干低下しているのは日本学術会議会員の任命問題が生じたからだと推測できますが、それもAFIのスコアには大きな影響を与えていません。

 日本の学問の自由を阻害しているのは戦前から変わらない自治レベル(Institutional Autonomy)の低さとそれに伴う研究や交流への自主規制です。

 

結言

 もちろん大学や学者が適切な自治を行使せず研究や交流に自主規制を加えている背景には日本の文化的背景やタブー意識なども存在することでしょう。

 しかし大学や学者こそが最も学問の自由を尊ぶべき立場であり、各種背景を慮って自主的に制限を掛けるような行いは決して望ましいものではないと考えます。

 

 

余談

 参考として、世界で一番AFIが高いチェコのスコアを。

 どの項目もほぼ満点に近い値です。