格差を表す言葉として、一時期騒がれていて最近また聞くようになったものに「上位1%の人が世界の富の4割を保有している」があります。
今回はこの言葉を軸に、富の偏在に関してどのような感覚的理解を持つ必要があるか述べていきます。
(富の偏在に関する過去記事)
上位1%とそれ以外、ではない
個人的にですが、この手の表現は少し不誠実だと考えています。
決して嘘を付いているわけではありませんし、悪意があるわけでもありませんが、明らかに説明不足です。
いくつかの集合があるうちの1つだけを取り上げると、私たちの思考の構造上、物事を単純化して受け取ってしまうバイアスが働きます。
「上位1%の人が世界の富の4割を保有している」はその典型例に近く、私たちの思考はこの言葉から次のような集団を連想してしまいがちなものです。
- 上位1%が4割
- それ以外の99%が6割
- 極めて少数の人が世界の富を独占的に保有している
しかし実際の世の中は上位1%とそれ以外で分類できるほど単純ではありません。現実にはもっと段階的な富の分布をもっています。よって資産の保有量を2つの集団で分類してしまうのは認知バイアスに他なりません。
クレディ・スイスが毎年公開しているグローバル・ウェルス・レポートの最新版(2022年)から、具体的な富の分布を見てみましょう。
100万米ドル以上保有しているミリオネアは成人人口の1.2%で、その合計資産は富の総額における47.8%です。つまり「上位1%の人が世界の富の4割を保有している」は確かに正しい表現です。
しかし彼らミリオネアだけが世界の富を独占的に保有しているわけではありません。何故ならば10万米ドル~100万米ドルの金持ちが世界には11.8%存在しており、その合計資産は38.1%と、ミリオネアの合計資産に匹敵するほどだからです。
確かにずば抜けた少数の金持ちは存在します。しかしミリオネアに及ばずともそこそこの金持ちはたくさんおり、それらの資産を合わせれば少数のミリオネアに匹敵するほどの額です。よって少数の人が世界の富を独占的に保有していると考えるのは実態に反しています。
さらに言えば、10万米ドル~100万米ドルと1万米ドル~10万米ドルの層まで合わせれば、人口の合計は45.6%、資産の合計は51.1%です。
つまり抜き取る部分を変えて表現するのであれば、「世界の半数の人が世界の富の半分を保有している」と、まるで世界が充分に平等であるかのような表現すらできてしまいます。
あるいは、別の視点で抜き取れば「世界の下位53.2%の人の富を合計しても1.1%にしかならない」と、過酷な格差を意味する表現も可能です。
結言
つまるところ、私たちの思考はバイアスによって「受け取った情報A」「A以外」と単純化して物事を捉える癖があるため、情報を受け取る際にはその情報が全体のどの程度を表しているのか注意が必要です。
世界の富は確かに偏在しています。上位の一部の人が多くの資産を持っていることも間違いありません。下位半数以上の人の資産を合わせても1.1%にしかならないことも事実です。
しかしそれが全てかと言えばそうでもなく、中間層の資産を合わせれば富裕層と同等程度であり、極めて少数の人が世界の富を支配的かつ独占的に保有していると受け取るのは誤認に近いものです。
余談
%や歩合といった割合で表現されている情報を受け取る時は特段の注意が必要です。
例えば、上位1.2%と聞くと物凄く一握りの少人数をイメージしてしまいがちなものですが、世界の成人人口における1.2%は6250万人です。一握りどころかイギリスやフランスの総人口くらいの人数であり、どこかに集まって秘密会議をしているような、世界を牛耳る悪の支配者的なものではないことが分かります。
割合は全体像をしっかりと把握できている時に有効なものであり、そうでない場合はバイアスによって勘違いや誤認を生じる原因になってしまいます。
『割合が小さいこと』と『実数が小さいこと』には認識の乖離があることを、常に留意する必要があるでしょう。