私「はい、もしもし」
若手「営業部の○○○です」
私「ほいさ」
若手「今度顧客に商品の説明をするのですが、その際に商品のサンプルがあったほうがいいと思ってるんです」
私「うん、あったほうがいいだろうね」
若手「はい」
私「・・・ん?」
若手「はい」
私「ええと、説明のために商品サンプルを作りたいという話かな?そうなると問い合わせ先は私じゃなくて製造部や生産管理部だと思うよ」
若手「あ、いえ、今から発注を掛けても当日には生産が間に合わないと思っています」
私「ネゴ次第だろうけど、そうかもね」
若手「はい」
私「・・・あ、ああ。聞きたいのは、顧客に説明する用の商品サンプルを私が何か持ってるかってこと?」
若手「はい、そうです。サンプルをお持ちですか?」
私「ええと、サンプルを貸して欲しいってこと?」
若手「はい」
私「まあ、いくつか持ってるから送るよ。どれを送ってほしい?」
若手「どれがありますか?」
私「目的や用途に応じて色々あるから、まずはどの商品のサンプルをどう使いたいかを教えてもらいたいな」
若手「ええと、紹介するのはこの辺りの製品群で、顧客の新入社員向けの研修で使えるやつが欲しいです」
私「じゃあアレとアレ、あとアレを送るよ」
若手「助かります」
もうちょっとコミュニケーションコストを下げられるんじゃなかろうか。
ビジネスコミュニケーションのメソッド
ビジネスにおけるコミュニケーションには基礎の『報連相』やマッキンゼーの『ソラ・アメ・カサ』、単純化された『報告は結論から』など、多種多様なメソッドが提唱されています。
それぞれは一長一短の特性を持っているため、状況や目的に応じて使い分けることが理想的です。日常的な事象であれば古典的ではありますが『報連相』がまだまだ有益ですし、提案型のコミュニケーションであれば『ソラ・アメ・カサ』は最適でしょう。緊急事態であれば悠長に前置きをせず『結論から』報告するのは義務的ですらあります。
そんな中でも、必要以上に時間を掛けずに何かを依頼したり判断を任せる時には『SBAR』の使い勝手が良いと、個人的には思っています。
SBAR
SBARは迅速なコミュニケーションを促進するために構築されたコミュニケーションメソッドです。軍隊で考案された後、航空業界や医療業界で広く採用されています。
SBARを発展させたISBARCなども現代にはありますが、詳細は専門書などから学ぶことを推奨します。今回は基礎部分であるSBARの簡潔な紹介に留めましょう。
SBARは4段階での報告の頭文字を組み合わせたものです。
- S: situation・・・現状把握
- B: background・・・背景
- A: assessment・・・評価
- R: recommendation・・・提案
現状把握は”現在”の情報を提供することです。今何が起こっているか、今どのような状態かを説明します。
背景は”過去”の情報を提供することです。現在との偏差によって何が変わったかを分かりやすくするために、過去に何が起こったか、以前はどのような状態だったかを説明します。
評価は”未来”の情報を提供することです。過去と現在の情報から、今がどのような状態か、未来にどのような変化が生じる可能性があるか、そういったことを評価して説明します。
提案は評価によって推測された未来図に対してどのような対応を行うべきかを意見具申することです。考えられる行動を用意し、それについて説明します。
SBARのメソッドに従って説明を行うことで、情報を受け取る側が意思決定を行うために必要な時系列情報と選択肢を全て含むことが可能です。
またSBARは必ずしも順番通りに行う必要は無く、入れ替えても問題ありません。
例示
SBARは例えば夜間に急変した患者を診た看護師や研修医が当直医に次のような流れで説明する際に用いることができます。
S:患者のある数値が高い
B:この患者はこのような理由で入院している、昨日までの数値は低かった
A:この数値から、このような状況が疑われる
R:こういった処置を行うべきだと思う(だから指示をくれ)
あるいは、冒頭のやり取りをSBARメソッドに落とし込んでみましょう。
S:顧客に商品▲▲▲の説明をする準備をしている
B:顧客の新入社員は商品▲▲▲を知らないため、説明をして販促したい
A:説明の際に商品サンプルがあると効果が高いと思われる
R:商品▲▲▲のサンプルを持っていれば貸して欲しい
この程度でいいので構造化してから説明すると、情報を受け取る側は迅速にYES/NOの判断、あるいは別の提案をすることができます。
結言
もちろんSBARのメソッドにただ従えば万事上手く運ぶわけではありません。
現状把握と評価のためには充分な分析能力と知見が不可欠ですし、背景を理解するためには適切な観測リソースが割かれていることが前提です。不明瞭な提案をしては逆に意思決定者の判断を阻害しかねません。
SBARは個人の能力不足を補うツールではなく、報告の体裁をテンプレート化して迅速性と正確性を高めるためのツールであることには留意が必要です。
また、SBARは時間に余裕があり熟慮が必要な案件には不適切です。さらには上意下達的性質を持つために互いの立場性が織り込まれていないところがあります。
ただ、SBARはコミュニケーションコストの削減効果が高いことから、何かを依頼したり判断を任せる時に使うことはとても有益です。
余談
戦場・飛行機・病院。
人為的なミスが即座に人命がかかわるこれら現場では、コミュニケーションの迅速性と正確性が極めて重要な要素であり、そのために様々な手法が研究・実践されています。
よって『SBAR』のようにヒューマンファクターに関わる技法、及びヒューマンエラーを避ける技法を学ぶのであれば、これらの業界から学ぶことが望ましいと考えます。