昨今、日本の製造業の衰退が語られる日々が続きます。グローバリズムでは労働力が安価な地域に製造拠点が集中する以上、最盛期に比べれば日本を拠点とする製造業が衰退することはやむを得ないものでありますが、製造業に勤める私としては少し悲しいやら寂しいやらの気持ちです。
今回はそんな日本の製造業について他国との比較を見ていきましょう。
GDP比と労働者人口
製造業について日本単独で語るのであれば経済産業省の『ものづくり白書』が適切ですが、国際比較を見るのであれば独立行政法人労働政策研究・研修機構が毎年発行している『データブック国際労働比較』が良いかと思います。
データブック国際労働比較|労働政策研究・研修機構(JILPT)
日本の製造業に関する数値の確認と分析
まずは各国の国内総生産における製造業の比率を見てみましょう。
比較対象の国の中で製造業の比率が高い順に並べると、中国が32.0%、韓国が27.9%、ドイツが20.8%、日本が20.6%、インドネシアが20.1%となっています。アメリカ(11.1%)、イギリス(9.7%)、フランス(10.0%)と比べると、前者の国は製造業が多くの比率を占めている工業国と言えるでしょう。
参考として、日本とドイツは産業構造がほぼ同じであり、この手の統計では良い比較対象となります。
次に、就業者の産業別構成比を見てみましょう。
製造業のGDP構成比を支えるためにどれだけの比率の人が就業しているか、これら2つの数値の比で製造業の生産性を判定してみます。
厳密に比較するのであれば絶対値で比率を出すべきですし、各国の人口構成なども考慮すべきではありますが、今回は単純な比較です。
また絶対値での比較はどうしても為替レートの影響を強く受けるため、各国の製造業の比率を支えている就業者の比率を単純に見ることで為替レートの影響を排除します。
『データブック国際労働比較』に具体的な数値データがある国で比較すると、日本は製造業の規模に対して少ない人数で支えていることが分かります。
例として、似たような産業構造であるドイツは製造業(GDP比20.8%)に就業する労働者の比率が19.9%ですが、日本の製造業(GDP比20.6%)に就業する労働者の比率は15.9%と少数です。
つまり、日本の製造業の労働生産性は決して低くありません。むしろ他国と比べれば高いとまで言えます。
そう考えると、日本の製造業に勤める人々は結構頑張っているのではないでしょうか?
余談1
比較参考として、日本よりも上位の国は韓国(GDP比27.9%、就業者比15.9%)とスウェーデン(GDP比13.9%、就業者比9.8%)です。これらの国は日本よりも製造業の規模を支える就業者比率が低く、それだけ製造業の生産性が高いと言えます。
余談2
『データブック国際労働比較2023』を見ていて思ったこと。
他国と比べて日本は「管理職」「専門職」「技師・准専門職」が少なく、「事務補助員」「サービス・販売従業者」が多いことが分かります。
産業構造が似ているドイツと比較すると、「専門職」「技師・准専門職」の合計が日本は18.8%であるのに対してドイツは41.7%、「事務補助員」は日本が20.7%であるのに対してドイツは13.3%、「サービス・販売従業者」は日本が26.6%であるのに対してドイツは13.3%と、かなりの比率で職業構成が異なります。
職業構成について善悪や良否を述べることはできませんが、日本はもう少し「専門職」「技師・准専門職」の比率を高める方向に進んだほうがいいのではないかと愚考します。
また、逆説的に日本の製造業では物凄く少ない「専門職」「技師・准専門職」が頑張って前線を支えている、と言えるかもしれません。