政治家も人間ですのでポンコツな発言や失言をしてしまうことはあるでしょう。
しかしポンコツな主張をする場合は注意が必要です。
それは主張の影響を管理するブレーンが居ないことを意味していますので。
誰も求めていない
一応このブログでは政治的な話題や軍事的な話題を取り扱うこともある都合上、せっかくなので新首相が主張する『アジア版NATO』についてもツッコミを入れてみようかと思っていたのですが、すでに日本語圏でも英語圏でも各所の専門家から徹底的に批判され尽くされているようなので、あまり具体的に批判するのは止めて個人的な雑感を提示する程度に留めておきます。
まあ実際問題、アジア版NATOなんてASEANからすればぜんぜん魅力がありませんし、インドからすれば迷惑ですらありますし、アメリカからすれば困惑ですし、中国からすれば激怒案件ですし、日本の保守層からすればここ10年の外交成果を吹き飛ばしかねない迂闊な発言ですし、革新層からすれば自衛隊の海外戦力投射能力を高める必要が出ることからまったく望ましくない提案ですし、もうどこの誰に向けた発言なのかさっぱり分かりません。
そもそも、ASEANはインドネシアやマレーシアを筆頭にイスラム教徒が多い国、つまり中東でドンパチが続いているためにここ一年で急激に反イスラエル・反欧米感情が高まっている地域であり、そのため現在は反米感情から中国寄りです。
そんな情勢下で「一緒に中国包囲網(アジア版NATO)をやろうぜ」なんて、今まさに言うべきではない提言に他ならないわけで、そりゃあASEANからすれば話にもなりません。
インドは対中国のためにロシアと親しくしている影響でここ数年はアメリカとギクシャクしていますし、そもそも直接的に中国と対立する発言は上手いこと避けてきた国です。そんな国に「一緒に中国包囲網(アジア版NATO)をやろうぜ」なんて、歓迎されるわけがありません。
アメリカは言わずもがな、台湾有事を筆頭に戦略的曖昧で対応しているのだから同意するわけもなく、中国からすれば「喧嘩売ってんのか!」と思うのも止む無し。
ちなみに、シンガポールのニュースチャンネルCNAの解説記事タイトルが直球で面白かったです。
Commentary: No one wants an Asian NATO, except Japan’s new PM Ishiba - CNA
論評:日本の新首相石破氏以外、アジア版NATOを望んでいる者はいない
ホント、世界の空気を読んで欲しいものです。
経済は遅効性だが外交は即効性
アメリカの話題ではありましたが、過去にも三権分立と外交について述べた記事を書いたことがあります。
三権分立の基本として、大雑把に言えば国家の方向性を定めるのが立法府、それをどうやってやるかを定めるのが行政府です。法治国家は当然ながら法に基づいて物事が動きます。政府は法に基づいて行政権を行使するのみであり、政府の意向は法を上回りません。
(略)
ただ、外交に関しては行政府の権限が強いため、外交に関してであれば大統領に着目したほうがよいでしょう。
日本も同様に、外交は行政府のお仕事です。
内政の失敗は遅効性で国家を一撃で滅ぼすことはありませんが、外交の失敗は即効性で国家を一撃の下に葬り去ることすらあります。
よって政府の人間は外交を熟知していなければなりません。政治家当人が外交音痴であったり外交畑でなかったりしたとしても、それを支えて適切に外交を行うためのブレーン・参謀が行政府には不可欠です。
今回のように”失言”ではなく”主張”として外交感覚の無い言葉が世界へ発信されてしまう状況は、正直なところかなり宜しくないシグナルだと私は捉えています。
結言
今回は少し辛辣な話となりました。
まあ短命政権であることは諸外国から見ても明白であり、そのおかげでまだ許容範囲だと認識されているとは思いますが、政府の発信はとてもとても重要であり、これが世界へ発信されたこと自体への危機感は必要な気がします。