忘れん坊の外部記憶域

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経済戦争とは正しく戦争である

 

 経済戦争と聞くと、”戦争”を比喩的に捉えてしまう人がいるかもしれません。

 しかし、経済戦争とはれっきとした戦争の形態の一つです。具体的に軍事力が動かずとも、直接的に血が流れずとも、安全保障上の方策を駆使せねばならない明確な戦争だと言えます。

 

古代からあり、近代に拡大し、未来にも行われる

 戦争と聞くとどうしても軍事力による武力衝突を私たちは想定してしまいがちなものですが、戦争とはもう少し広い概念の言葉です。たしかに狭義のイメージとしてはそれでも問題ないものの、価格戦争や麻薬戦争のように支配権・影響力などを争う行為も含めた全般が戦争であり、戦争を定義する上で軍事力は必須要件ではありません。

 近現代の総力戦が生起して以降は明確ですが、それ以前でも戦争の攻撃対象は軍隊とは限りません。資源を獲得するために民間から接収することもあれば、物流を止めるために陸路回路を封鎖することもあります。国家や組織が行う作戦の目的からして、これらは軍事力を必須としません軍隊を動かすこと自体は戦争の目的ではないためです。

 要するに簡単な話で、軍隊は目的ではなく手段です。戦争には必ず何かしらの目的があり、その達成に役立つ場合にのみ軍隊が動きます。異なる手段で戦争目的を達せるのであれば軍事力の行使は必須ではなく、孫子が述べたように外交的手法やその他の経済的手法が有効な場合はそれらを行使することが上策と判断されます。

 

 経済と戦争に関する簡単な事例を挙げてみましょう。

 経済への攻撃、経済を用いた戦争と言えば、日本人にとっては豊臣秀吉の中国攻めにおける鳥取城が顕著な事例となるでしょう。

 これは日本史における代表的な兵糧攻めの事例です。

 鳥取城を包囲する前に商人に依頼をして米や麦を買い占めて価格高騰を図り、それによって事前に地域の穀物備蓄を吐き出させてから包囲戦を仕掛けることで籠城時の兵糧を不足させた結果、秀吉は圧倒的な勝利とえげつない結果を得ました。

 これは典型的な経済戦争の事例だと言えるでしょう。

 あるいは後知恵的ですが、大航海時代以降の植民地に対するモノカルチャー化も経済的な打撃を与えている点で一種の経済戦争と言えます。

 もっと直接的なパターンとしては経済制裁も同様です。他国へ害をなすことを前提として行われる以上、たとえ軍事力を行使していなくてもこれは戦争の一形態です。

 これらのような事例から、戦争の目的や戦略の面から見れば経済が戦争指導者にとって攻撃対象になり得ることが容易に理解できるかと思います。

 また、経済戦争が文字通りまさに戦争の一環、一形態であることも認識しやすくなるでしょう。

 

中国による経済戦争への防衛策

 近年、中国による過剰生産が世界的な問題となっています。

 これは単純に中国経済の失速による購買力低下から引き起こった物余りが一因ではありますが、それでも中国は各国との貿易摩擦を生みつつも大量に生産をして輸出をしています。

 これもまた一種の経済戦争だと認識する必要があります

 

 まず前提として、中国製品は今でも日欧米のような先進諸国が生産する物よりも半値に近い製品を量産しています。中国の人件費安を理由にコスト差を説明する言説がかつては多かったですが、しかし現在の中国は都心部であれば充分に賃金が上昇しています。そして工業製品の人件費率を考えれば製品の価格が半額になるほどの差が出ることはそうそうありません。

 中国製品が安い理由は人件費だけでなく設備投資です。特定の業種や企業に対して減税措置や補助金を中国政府が提供することで中国企業は他国の企業とは比較にならないレベルで設備投資を行うことができるため、安価で大量に物を生産することができます。通常の企業が必要とする融資の返済や内部留保を懸念しなくても良いというのは相当なアドバンテージです。

 

 このように国家が自国企業に対して、減税措置や補助金を行うことの何が問題なのかと思う人がいるかもしれません。

 ただ、これは経済論や法律論ではなく、もう少し闘争的な概念で問題となります。

 要するに経済戦争です。国家の補助によって市場の自由競争を歪める行為は他国の生産基盤への間接的な攻撃だと認識されます。中国における過剰生産とダンピングに相当する輸出攻勢は他国への攻撃行動に相当するものであり、比喩的な意味ではない”戦争”です。経済の論理で問題なくとも、軍事の論理で問題となります。

 なお、これは国家の悪意の有無は問われません。たとえ中国政府がそれを意図していなくても関係がありません。実際に損失を被りかねない他国からすれば、悪意の有無に関係なく安全保障上の対策が不可欠になることは変わらないためです。

 これは過去に起こった日米貿易摩擦の事例を考えれば分かりやすいでしょう。日本からすればなにもアメリカをどうこうしたいといった総体的な意志があったわけではありませんが、経済へ打撃を受けていたアメリカからすれば日本の意図は一切関係なく、産業の防衛が必要になったために反撃へと出ました。

 現在の中国による過剰生産が各国で問題になっているのはまさに同様の状況だと言えます。

 

結言

 政治、経済、軍事は不可分の関係です。それぞれが孤立して動作することはほとんどなく、常に連動します。

 よって物事を認識する上ではこれらの全側面で見る必要があります。