極端は避けたほうがいい。
真逆の見解
気候変動は現代社会の大きなテーマとなっています。
このブログでも度々取り上げてきましたが、私の大まかなスタンスは以下の通りです。
科学に従いましょう。IPCCのデータや分析が言っていないこと、例えば「気温は上がっていない」とか「人類は滅亡する」とか、そういった過激で極端な見解、過度な楽観論による問題の無視や、過剰な悲観論による終末論的な言説は控えて、政治や教義ではなく科学に集中しましょう。
◆地球温暖化のシミュレーションに疑問を抱いてしまう - 忘れん坊の外部記憶域
◆科学の話で「信じる」「信じない」という言葉が出るのは変だと思うんだ - 忘れん坊の外部記憶域
◆終末論的な言論が漸進的な解決を阻害する - 忘れん坊の外部記憶域
◆科学的コンセンサスと懐疑論の取り扱い方 - 忘れん坊の外部記憶域
さて、COP30が近付く今日この頃、気候変動に対して対立的な見解がちょうど公開されていたので見てみましょう。
こちらはアントニオ・グテーレス国連事務総長へのインタビュー記事で、人類がパリ協定の目標を超過し、世界に「壊滅的な結果」をもたらすことは今や「避けられない」と回答されました。
こちらはビル・ゲイツのブログで、「気候変動は深刻な問題だが、それが文明の終焉をもたらすことはない」としたコメントを発表しました。
どちらが科学的かと言えば、ビル・ゲイツのコメントです。
国連事務総長が危惧する転換点(ティッピングポイント)は科学的コンセンサスがまだ得られていない仮説であり、それによる破滅を懸念するのは現時点では過剰な反応であるのに対して、人類社会が持続的な成長をすることは論文が多数出ており、ビル・ゲイツのコメントは科学に則っていると言えます。
報道の説明不足
科学的なコンセンサスに基づかない終末論的言説が幅を利かせがちな理由の一つとして、個人的には報道に問題があると思っています。
特に未来予測や変化についての報道は不正確とは言わないまでも不明瞭です。
例えば、気候変動によるマクロ経済への被害を再考した結果、過去に想定されていたよりも深刻であることが分かったと報告する論文が2025年に発表されて話題となったことがあります。
Reconsidering the macroeconomic damage of severe warming
◆Reconsidering the macroeconomic damage of severe warming - IOPscience
この研究に対する報道見出しは、以下のような表現でした。
・UNSWの新研究、4℃温暖化ではGDP損失が劇的に増加することを明らかに
・新たな研究によると、地球が4℃温暖化すると平均的な人の所得は40%減少する
・気候変動により2100年までに世界の所得が40%減少する可能性
これは誤解を招きかねない表現です。
世界の所得が40%減少するなんて、まるで未来の人々が今よりも貧しくなるように思えてしまいます。
私たちは未来の所得や豊かさをぴったりと予測することはできません。
そのため、所得や豊かさに対して気候変動がもたらす影響を評価する研究では次のような手法を取ります。
1.ベースラインとして「気候変動がない、或いは小さい未来予測」を設定
2.ベースラインに対して「気候変動が大きい場合の未来予測」を出力
3.比較して気候変動の影響を分析する
つまり、この研究結果は「世界の所得が(現在に比べて)40%減少する」のではなく、2つのシナリオの差異として「世界の所得伸び率が40%鈍化する」ことを示しています。例えるならば、100伸びるはずだったところが60までしか伸びなくなるといった結論です。
それ自体はもちろん望ましくない未来図ではありますが、少なくとも壊滅的で末期的な未来とは言えないでしょう。
このような研究結果を"世界の所得が40%減少する"と表現するのは、間違いではないものの人々の誤解を招きかねないと思います。せめて「所得の増加幅が最大40%縮小する可能性」や「気候変動がなければ得られたはずの経済成長の一部が失われる」と表現すべきです。
これは一例に過ぎません。
見出しに過激な表現を用いれば読者を集めるのに役立つことは分かりますが、このように報道が誤解を招きかねない表現を用いると人々が終末論的な誤解をしかねないと考えます。
結言
もちろん研究対象として「終末シナリオ」の確度や時期を分析することは必要です。
ただ、少なくとも現在の気候科学では成長が鈍化することは分かっているものの『気候変動によって破滅的な未来が訪れることの科学的コンセンサス』は得られていませんので、対策は当然必要で、しかし過剰反応をする必要は無いでしょう。むしろ過剰反応はビル・ゲイツがブログで述べるように社会リソース分配の不均衡を招いて救える命を救えなくなることすら起こりかねません。
余談
このブログではいくつかのテーマにおいて「理想論を振り回すよりは地に足を付けて変革を進めるべきだ」と乱雑に書き連ねてきました。
同様の見解として、ビル・ゲイツがブログで用いていた表現が奇麗にまとまっていて好みです。
限られた資源で最大の利益を生み出すためには、トレードオフをしなければなりません。このような状況下では、人類の福祉に最大の利益をもたらす方法を特定する、データに基づく分析に基づいて選択を行うべきです。