忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

国際関係における中立の意味と、日本の非中立性

 

 中立を判定するのは自国ではなく他国である。

 

台湾有事に関する私のポジション

 面白いことに、不定期かつ頻繁にネット上では『台湾有事』が話題となります。

 分かりやすいテーマなのでこのブログでも何度か取り上げてきたことがありますが、私のポジションはシンプルです。

  • 台湾有事の確率は非常に低い、しかし可能性はあるので備えない理由はない。
  • 在日米軍を排除しなければ中国は侵攻は成り立たないため、開戦したら在日米軍が攻撃される。
  • 日本の土地が攻撃されるため、どう考えても武力攻撃事態、すなわち日本の有事となる。政治的な理由は関係なく軍事的な理由でそうなる。
  • 起こったら困るから地域全体で抑止の合意をちゃんと取っていくべき。

台湾有事の可能性に関する余計な思索:政治ではなく経済的動機に関して - 忘れん坊の外部記憶域

「台湾有事は日本有事」とされる軍事的な理由 - 忘れん坊の外部記憶域

経済関係の深化は戦争を完全に防げるわけではないことを日本人は知っているはず - 忘れん坊の外部記憶域

権威主義国家の動機を推論しても意味が無い - 忘れん坊の外部記憶域

中国の国防費に関するニュースを見ての雑感 - 忘れん坊の外部記憶域

台湾有事に関して意見を整理してみる - 忘れん坊の外部記憶域

 

 もちろん人それぞれ同意や反対の意見を持つことでしょう。それ自体を否定するつもりもありませんし、むしろ意見の多様性は良いことです。

 ただ、「日本はよその国の戦争に口や手を出さず中立であるべきだ」とした意見だけは、その中立は可能かと考えると、少し難しいのではないかと思っています。

 

Neutralの厳密さ

 中立(Neutral)や中立国(Neutral country)にはそもそも戦時中立と永世中立の違いがありますが、とりあえず戦時中立の話をします。

 戦時中立を宣言する国家は当然ながら国際法上の中立を守る必要があります。今回はOxford Public International Law(OPIL)から、中立性に関する概念や一般規則を見てみましょう。

 ここでは中立国の一般的な権利と義務が第30~46段落で語られていますので抄訳してみます。かなり要約しますが、重要な所には強調を入れます。

 

30. 中立国の領域は不可侵である。中立国の領域においていかなる敵対行為も行うことは禁止されている。特に交戦国の軍隊が中立国の領域に入ることは許されない

31. 中立領域の不可侵性は、敵対行為の副次的影響によって中立国が被害を受けることも許されないことを意味する。

32. 中立国は、必要に応じて武力をもって自国の中立性への侵害を排除する義務を負う。中立性を守るための軍事力の使用は、武力攻撃に対する正当な自衛である場合に限り許容される。

33. 中立国の領域が交戦国の軍事作戦の拠点として利用されることを防止する義務は、中立国が紛争の影響を受けない権利の裏返しである。したがって中立国は、交戦国が侵入や通過などの手段で自国領域を軍事作戦に利用しようとする試みを、あらゆる手段を用いて阻止しなければならない。ただし、この義務は中立国が状況下で実行可能な防衛に限られる。中立国が自滅する義務を負うことはない。

34. 中立国が軍事的努力を行う義務があるかどうか、またその程度については議論がある。しかし、中立国が自国領域への侵害に対して何らの対応を取らない場合、その国は交戦国からもはや中立とは見なされなくなる危険がある

35. 中立国が中立性を防衛する場合、国際法が軍事的暴力に課す制限を尊重しなければならない。国連憲章第51条は、中立国が合法的に行使できる反撃の限界を常に示すものである。言い換えれば、国連憲章は反撃の権利を認めており、中立法は状況によってこの権利の行使を義務づけることがある。

36. 中立国は交戦国のいずれかを支援してはならない。この規則は不関与の原則の中核である。中立国は、紛争の結果に影響を与える可能性のある行為を控えなければならない。

37. いかなる軍需物資の供給も禁止されている。ただし、この規則は、国連安全保障理事会が平和維持のための措置を採択した場合には修正される可能性がある。

38. 紛争の被害者に対する人道的援助は、たとえそれが交戦国の一方の利益となる場合であっても、中立性の違反とはならない。

39. 伝統的な中立法は、中立国による違法な援助と、中立国に属する私人または私企業による援助とを区別していた。しかし、国家実務はこの旧来の条約規則(1907年ハーグ陸戦条約第5条第7条)を修正し、国家が管理する兵器輸出については、それを許可すること自体が非中立的行為と見なされるようになった

40. 現代において国家と民間兵器産業の分離はもはや実態に即しておらず、政治的現実とも一致しない。現在の慣習国際法の下では、国家が兵器供給を許可することは非中立的行為と見なされるのが正しい見解である。

41. ここで二つの追加的な問題が生じる。第一に、国家は兵器輸出を防止するためにどの程度の努力をすべきか。第二に、どのような物資が「兵器」に該当するのか。この点については国際慣行が十分に蓄積されておらず、法的確信を形成するには至っていない。

42. 紛争当事者に供給してはならない「兵器」の定義については、「禁制品」の定義とは区別されるべきである。現時点では、供給禁止が「兵器」そのもの、すなわち敵兵を殺傷したり敵財産を破壊したりする能力を持つ物資を超えて適用されるという国家実務は見られない。不拡散体制は通常、関連物資(技術、設計図など)も対象とする。

43. 輸入企業に対してサブライセンスの許可を与えることや、再輸出を防止しないことが、輸出許可と同等と見なされるかどうかも未解決の問題である。兵器輸出は紛争を誘発する可能性がある。

44. 中立国の軍隊は戦争行為に参加してはならないが、自国民が自発的かつ自己責任で交戦国の軍務に就くことを防ぐ義務はなく、また防ぐこともできない。ただし、この私人と政府の援助の区別は悪用される可能性がある。国家がいわゆる義勇兵部隊の設立を黙認する場合、それは非中立的行為に該当する。交戦国の軍事努力を助ける中立国のすべての行為および不作為は禁止されている。

45. さらなる防止義務は、1989年の「傭兵の募集、使用、資金供与および訓練の禁止に関する国際条約」によっても生じる。

46. 国連安全保障理事会が侵略国へのいかなる支援も控える義務を課した場合には、私人による支援の防止義務が追加的に生じる可能性がある。これは、一般的な中立法や傭兵条約の下では存在しない義務である。

 

 以上です。

 当たり前の話なのですが、中立とは「自国がそう宣言したか」ではなく「他国がそれを同意・承認したか」で決まりますので、日本が中立的な立場を取ると宣言したとしても、他国が中立として認めてくれなければ一切の権利が得られません。

 そして、まあ読んでいただけば分かるかと思いますが、在日米軍が日本に居る以上、日本が中立を言い張るのは無理かと思います。むしろ中立を騙って攻撃の助力をしている卑怯者ととられかねません。

 台湾有事に備えて日本が本気で中立を目指すのであれば、まずは在日米軍を追い出すことから始める必要があり、それはなかなかに難しい道ではないかと愚考するばかりです。

 

結言

 日本は中立的な立場を取るべきだとした意見自体には理も利もあるとは思うのですが、それが実現可能かと言うと、なんとも言い難いです。

 中立とは、誰とも敵対しないことであるのと同時に、誰の味方でもないことを示さなければなりませんので。