忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

これぞイギリス、これでこそイギリス

 

 やっぱりイギリスさんの面の皮の厚さは凄い。

 日本も見習わなければ・・・見習うべきか?

 

ODAの減少予測とイギリスの戦略

 イギリスにあるシンクタンクの英国王立国際問題研究所で興味深い研究が発表されていたので読んでいました。

 抄訳しながらコメントしてみます。

 

【世界的な資金削減の時代に英国の援助政策を再考する】

英国は新たな安全保障リスクと地政学的リスクにどう対応できるか

Rethinking UK aid policy in an era of global funding cuts | Summary

 

世界的な対外援助システムの危機は、英国自身の援助戦略の有効性にも悪影響を及ぼしている。英国、そして最も大きな影響をもたらす米国を含む多くのドナーによる支出削減により、紛争予防、平和構築、人道支援、そしてワクチン接種や気候変動対策といった地球規模の公共財の提供への資金が減少するため、2026年までに世界の援助は2023年の水準と比較して約3分の1減少すると予想される。 

本稿は、援助不足という新たな時代における安全保障リスクと地政学的リスクに対し、英国政府がいかに最善の対応をとれるかを検証する。防衛費拠出に伴う財政的制約により、英国の対外援助への追加資金の確保は困難である。援助予算は2027年までに国民総所得の0.3%に削減される。その結果、政府はより少ない予算でより多くの成果を上げ、より選択的かつ戦略的なアプローチをとる必要に迫られるだろう。

 

 世界的な景気悪化に伴うODAの減少は様々な問題を後退させそうです。

 ちなみに、主要なドナー国の援助削減として、下図が主要国のODA追跡結果です。

 

 ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、アイルランド、韓国、スイス、イギリス、アメリカがODAを顕著に減らす予定です。日本はODA額の維持を選択しています。

 本邦でも「ODAに税金を使うな」とした声が右派辺りから気軽に上がることもありますが、ODAの主目的は「開発途上国の経済発展と福祉の促進」すなわち人道であり、削ると思ったよりもストレートに人命へ影響するお金ですので、まあ慎重に判断してもらいたいところです。

 

 わざわざ”ODAの主目的”と書いたのは、もちろんODAがただの奉仕精神で回っているわけではないためです。先に抄訳したように援助は”戦略”であり、ドナー国の安全保障リスクや地政学的リスクと直結しています。

西側諸国の地政学的競争相手であるロシアや中国などの国々は、最近の援助削減によって生じた資金の不足を補うことはないだろうが、これらの政府は、南半球諸国にとって好ましい、そしてより信頼できる安全保障および開発のパートナーとしての地位を確立しようとするだろう。

 ODAとは、良く言えばお友達作り、悪く言えば子分作りです。

 金の切れ目が縁の切れ目、先ず以て自国民の生命財産に責任を持つ政治家が争いの舞台とするアナーキーな国際社会では”お友達料”が必要です。

 お家で例えるならば、近隣の家へ所得を全て分配するようなことは家人が納得しません。しかし困っている人へおすそ分けをしたり地域ボランティアに参加したり町内会費を払ったりすることは妥当な範囲とされるでしょう。そういった付き合いをやらなければ村八分になってしまいます。

 国家もまあ似たようなものです。

 

英国政府は難しいトレードオフに直面しており、更なる援助資金の確保は難しい状況である。かつて国際開発は英国の外交政策において中心的な役割を果たしていた。英国は最近まで、国民総所得(GNI)の0.7%を政府開発援助(ODA)に充てるという国連目標を一貫して達成してきた数少ない国の一つだった。しかし、相次ぐ資金削減、欧州の安全保障に対する新たな脅威、そしてより広範な援助国による資金拠出の縮小により、英国の政策における国際開発の役割は縮小した。これらの要因は、英国が参加する多国間システムにも負担をかけている。しかし、こうした制約下においても、英国は世界的な援助削減がもたらす安全保障上および地政学的な影響に、より適切に対応するための措置を講じることができる。

 

 要約すると、お金はあんまり出せないけど今まで通りの影響力は保持したい、ということです。そんな都合の良い話があるのでしょうか?

 

そのため、本稿では以下の提言を行う。
英国は、世界の安定と安全保障という共通の利益を推進する上で、南半球諸国の重要性をより明確に認識すべきである。これらの国々、特に過去約25年間に低所得国から低中所得国または高中所得国へと移行した39カ国は、過去に比べて援助への依存度がはるかに低いものの、世界的な援助削減、米国の新たな関税、そして保健安全保障といった国際課題への対応における多国間体制の弱体化といった相乗効果によって、悪影響を受けるであろう。英国は、貿易、安全保障、そして援助以外の優先事項に関するより広範なパートナーシップを求める南半球諸国に対し、より明確で統合された提案を行うために、欧州の同盟国と協力できる分野を検討すべきである。

米国の動向がますます予測不可能になる中で、英国にはオーストラリア、カナダ、欧州の同盟国、日本など他の中堅国と協力し、援助の断片化への対処など、世界的な課題の管理に不可欠な多国間システムの制度や部分を優先、簡素化、強化する余地がある。
英国は、外務・英連邦・開発省(FCDO)における専門能力と知識のさらなる喪失を防ぐべきである。特に、政府は、援助予算の削減によって貧困国や紛争の影響下にある国が顧みられないリスクを管理するため、紛争予防と対応に関する専門知識の維持を優先すべきである。

援助を犠牲にして増大してきた国防費は、適切に精査される必要がある。適切であり、英国の国家安全保障との関連性が明確な場合、レジリエンス重視の国防費は、紛争予防と紛争対応とより意図的に連携させることができる。
最後に、英国政府は、残りの援助支出とより広範な多国間行動が、世界の安定と安全保障、ひいては英国の国益にどのように貢献するのかについて、国民に対しより説得力のある説明を行うべきである。広報活動には、メディアへの働きかけ、閣僚声明、演説、そしてより広範な広報活動が含まれる。

 

英国は、自国の援助削減と世界のODA減少がもたらす安全保障上および地政学的影響に対処するため、他のパートナーと協力する必要がある。資金が回復する可能性は低いため、分断された国際システムの中で舵取りをしていくためには、ミドルパワーや発展途上国との継続的な関与が必要となる。


 要約すると、「俺たちはノウハウを持っている」「金はオーストラリアやカナダなどの同盟国や日本のような中堅国などに出させよう」「それによるイギリスの手柄を大々的に宣伝しよう」です。

 

優先すべきは、スリム化され、より効果的な国際システムであるべきだが、同時に英国が影響力を持ち、その強みを生かせるシステムでなければならない。

 出す金は減らすが影響力を維持するために他所の国を巻き込んで都合よく使おうとする面の皮の厚さ、これこそが外交力です。

 「景気が悪くてお金があんまり出せないから影響力が小さくなっても仕方がない」なんて縮こまった発想ではないこの図々しさはさすがイギリスと言わざるを得ません。

 

 半分くらいは皮肉ですが、残り半分は結構本気で見習うべきだと思っています。

 世界的な市場規模の構造転換に伴う先進国のシェア率低下は今後も伸長していく一方であり、それでもトップランナーであり続けるためには物理的な金銭の競争ではなく技術と外交で戦っていく必要があります。

 かつて大英帝国を築き上げた超大国がその隆盛の鳴りを潜めつつも未だ世界で上位を保っている理由はこの外交力にあると言っても過言ではありません。

 日本も同じ道を辿っていく以上、先達から学ばない理由はないでしょう。

 もちろんイギリス紳士とまったく同じことをすればいいわけでもなく、私たちは私たちなりの品性と品格を保つべきだとは思いますが。

 

結言

 今回の英国王立国際問題研究所の研究報告は、なんというか、実にイギリスっぽい感じで分かりやすいです。これぞイギリス、これでこそイギリスです。

 舌の枚数をただ増やせばいいわけではありませんが、日本は日本で影響力を維持するための施策を講じていく必要があります。