素朴に、救える命は救ったほうがいいと思いますが、それはそれとして利も説いてみます。
ODA削減の影響に関するニュース報道
本邦でも「ODAに税金を使うな」とした声が右派辺りから気軽に上がることもありますが、ODAの主目的は「開発途上国の経済発展と福祉の促進」すなわち人道であり、削ると思ったよりもストレートに人命へ影響するお金ですので、まあ慎重に判断してもらいたいところです。
なんて、ODAに関するブログ記事を投稿したまさにその日、スペインのバルセロナ世界保健研究所(ISGLOBAL)がODAの削減に伴う悪影響の研究結果を発表したことが報道されました。
The Impact of Two Decades of Humanitarian and Development Assistance and the Projected Mortality Consequences of Current Defunding to 2030: Retrospective Evaluation and Forecasting Analysis
20年間の人道・開発支援の影響と、現在進行中の資金削減が2030年までにもたらす推定死亡率への影響:回顧的評価と予測分析
◆https://www.isglobal.org/documents/d/guest/manuscript_oda_impact_lastversion
報道によると、主要援助国による開発援助の急激な削減により、2030年までに開発途上国で5歳未満の子ども540万人を含む最大2260万人が新たに死亡する可能性があるとされています。
ODAは削ると思ったよりもストレートに人命へ影響するお金であることが分かるでしょう。
死者が増える原因
このニュース報道に対して、次のような意見を見かけました。
- 開発援助が無ければ人が死ぬのは歪んでいる。援助が無ければ保てない国家は構造的に破綻しており、そういった国家を援助することは悪を助長しかねない。
- ODAによる食糧支援が無ければ生存できないのは問題で、援助依存症に陥ってはいないか。
これはODAを誤解しているか、研究報告を誤読している可能性があります。
ODAの資金レベルが高いほど途上国での全死因死亡率は明確に低下しますが、特に主要な感染症で顕著な死亡率減少がみられます。それは例えばエイズやマラリア、結核や下痢性疾患、呼吸器感染症などです。
すなわち、ODAが減少した場合に増加するのは感染症や疫病による死亡です。ISGLOBALが今回発表した研究でも、死亡者が増えるのは感染症や疫病の再燃が主因と報告されています。
現代の先進国に住む人々はつい忘れがちですが、近代以前の歴史を紐解けば分かるように、多くの人は感染症や疫病で亡くなります。国民の健康に気を使える程度の高度な公衆衛生を整えられるのは先進国の特権です。それこそ日本でも近代まで結核やサナトリウムをテーマとした文学が流行していたように、感染症や疫病は身近なものでした。
そして良好な公衆衛生の整備は国家の自助努力だけでは膨大な時間が掛かるものであり、国際的な知識と制度の共有と協力が必須です。現代の高度な公衆衛生を自国のみで築き上げた国は存在しません。
言うまでもなく、感染症や疫病は国境を気にしません。人やモノの移動が活発な現代社会において途上国での感染症流行は他人事ではなく、ODAによって予防措置をとることは先進国自身の健康・経済安定・安全保障にも繋がっています。
結言
要するに「情けは人の為ならず」であり、巡り巡って自分のためにもなります。
とりあえず私としては、日本が諸外国を見習ってODAの減額に踏み切らなかったことは評価してもいいのではないかと思います。
日本の慣性力、一度決まったことはなかなか変えられないところは悪い側面ももちろん多々ありますが、迂闊に変えちゃいけないところを変えずに済む機能があると考えれば、一長一短です。