忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

国際戦略研究所CSISが語る日本の安全保障戦略の抄訳

 

 個人を批判する目的ではなく、情報を見比べるための整理。

 

CSISの近頃の見解

 某所にて、政治学者ブレジンスキー氏の意見を引用しているのを見かけました。

 

「日本はアメリカのグローバル・パートナーであっても、アジア大陸の外縁に位置する中国に対抗する同盟国ではない。こうした基本を押さえてこそ、アメリカのグローバル・パワー、中国の地域的優位、日本の国際的リーダーシップという三つのパワーが、ともに共存する環境を模索できるだろう。日本が軍事的な対米協調姿勢をあからさまに強化すれば、そうした共存路線が脅かされる。日本は極東におけるアメリカの浮沈空母であってはならないし、アジアでのアメリカの主要な軍事パートナーであってもならない。そうした日本の役割をアメリカが後押しすれば、アメリカをアジア大陸から切り離し、中国と戦略的合意に達する見込みを低下させ、ユーラシアの安定を強化するアメリカの能力を損なうことになる。」

 

 個人を対象として批判することは好みませんので、誰が引用していたかは述べません。

 ただ、この補足的な情報については少し注意が必要なため、CSISの異なる見解を併記することにします。

 まず、CSISの顧問であったブレジンスキー氏はすでに故人です。

 そして引用元であるForeign Affair Reportで公開された論考も1997年のものです。

 さすがに世界情勢は約30年前よりも変わっており、当時の理屈をそのまま使うことはできません。少なくとも現在においてCSISは異なる見解を報告しています

 よってCSISの比較的新しいレポートを見ることも必要です。

 

 こちらは2023年のレポートですが、少なくとも1997年よりは新しいです。

 

抄訳

 長い英文ですので、抄訳します。色々と軍事的な話も多いため、その辺りは省略して「政策提言」の項目から関連するポイントを訳しましょう。

 個人的に重要だと思うところには下線を入れていきます。

 

政策提言
日本の安全保障上の役割に対する認識を高めること
 日米同盟は日本を防衛するためのものだという広く共有された認識がある。だが実際には、日米同盟は主に韓国と台湾を防衛するためのものである。

 現在稼働している日米共同作戦計画(OPLAN 5055)は朝鮮半島有事に対処するために設計されている。さらに、米国と日本は台湾海峡有事に対応する新たな作戦計画を策定中であると報じられている。

 安倍晋三元首相はかつて「台湾有事は日本有事だ」と述べた。中国が台湾を攻撃する決断をすれば日本も攻撃されるという意味では正しい。中国が戦争初期段階で日本に展開する米軍・自衛隊の戦力の大部分を破壊しない限り、台湾を制圧することは困難だからだ。

 しかし安倍氏の発言は、日本には選択肢があるという事実を軽視している。すなわち、日本は戦争に参戦することも、参戦しないこともできる。結局、ロシアがウクライナを攻撃した際、NATO諸国はすべて不参戦を選んだ。問題は、中国が日本の不参戦を期待すれば、台湾海峡で戦争が勃発する可能性が高まるという点である

 台湾海峡での戦争における中国の最重要目標の一つは米国と日本を無力化することであり、それが失敗すれば、台湾支援能力を可能な限り削ぐことである。同じことは朝鮮半島にも当てはまる。北朝鮮の宿敵は日本ではなく韓国である。韓国こそが北朝鮮を吸収し、半島を統一する潜在的能力と意思を持つ唯一の国であり、北朝鮮にとって存在的脅威となり得る唯一の存在である。有事の際、北朝鮮は米国と日本を戦争から遠ざけるために核兵器やミサイルを使用、あるいは使用を脅すだろう。ここでも北朝鮮が日本を攻撃するのは、日本そのものを標的にするためではなく、日本を無力化し、あるいはそれができない場合には、韓国防衛に従事する米軍を支援する日本の能力を削ぐためである。

 この現実を理解することは少なくとも二つの理由から極めて重要である。

 第一に、日本の政治指導者や国民が台湾や韓国防衛への関与を理解していなければ、中国や北朝鮮が仕掛ける心理戦や影響工作に抵抗することは難しい。危機や戦争の際、中国や北朝鮮は「日本とは戦いたくない」「日本が中立を保てば攻撃しない」と宣言するだろう。(米国に対しても同じことを言うはずだ。)日本の政治指導者や国民がそのような誘いに抵抗できるのは、防衛が必要であり日本の重大な国益にかなうと意識的に判断している場合に限られる。

 第二に、米国の政策立案者や専門家が日本の台湾・韓国防衛への関与を理解することは、同盟の結束を維持し、日米間の不要な摩擦を避ける上で役立つ。米国の専門家のすべてが、米国と日本が韓国と台湾を防衛する上で同じ戦略的位置にあることを理解しているわけではない。

 日本人も米国人と同様、朝鮮半島や台湾海峡での戦争に巻き込まれることを懸念している。両国が安全保障上のコミットメントを維持しつつ、巻き込まれを避けるという同じジレンマに直面していることを理解すれば、危機や戦争の際に米日が団結する最善の方法を見出すことができるだろう。

 

抑止力理解の強化

 ロシアがウクライナで戦術核兵器を使用する可能性を示唆したことは日本国民の不安を高めている。ウクライナ戦争以前から、ロシア、中国、北朝鮮による核兵器の使用や使用の脅しの可能性について専門家の間で真剣な議論が行われていたが、ロシアの侵攻によってその深刻さは一層増した。

 ウクライナ戦争は否定的な結果と肯定的な結果を生み出した。

 否定的な側面としては、核兵器が強制的に、しかもある程度成功裏に使用され得るという認識が広まったことが挙げられる。ロシアの核による威嚇はNATO諸国をウクライナ支援において極めて慎重にさせたように見える。

 肯定的な側面としては、ロシアはその能力を認めながらも、まだ核兵器を使用していない、あるいは「エスカレートしてデエスカレートする」戦術を取っていないという点がある。核使用の敷居は依然として高いままである。

 さらに、核抑止および拡大核抑止の論理が日本で広く理解されるようになった。ウクライナ戦争勃発以来、安全保障専門家が核抑止を含む安全保障問題についての専門知識を多くの日本国民にテレビやコンピュータを通じて共有してきた。現在では、これまで以上に多くの日本人が拡大核抑止とは何か、どのように機能するのかを理解している。その知識と理解は、将来の核による威嚇に対する日本国民の耐性を高めることにつながる。

 核兵器はその(過剰な)破壊力ゆえに容易には使用できず、危機や戦争時には心理的効果を通じてのみ機能する傾向がある。近年、ソーシャルメディアの発展により情報をエリートや知識人が独占することは不可能となり、核の脅威の心理的効果はソーシャルメディアを通じて増幅される可能性が高い。

 したがって、核兵器の有効性と限界について一般国民を教育することが不可欠となる。例えば、日本国民が「核兵器の実際の使用の敷居は高い。北朝鮮が試みているのは米国と日本の軍事介入を抑止することだ」とか「中国は核兵器使用を脅すかもしれないが、米国の核の傘があるため日本に対して使用する可能性は低い」と言えるようになれば、核兵器の強制的手段としての有効性は大幅に低下するだろう。

 そのような措置を講じる一方で、米国と日本は戦時に核兵器が使用されるわずかな可能性にどう対処するかを考えなければならない。問題は、中国が核兵器を使用する場合、それは米国ではなく台湾や日本に対して行われるという点である。もし中国が沖縄近海で核爆弾を爆発させ、日本政府を中立に追い込もうとしたら、米国と日本はどうすべきか。もし中国が戦術核兵器を使用して西太平洋で日本の艦艇を破壊、あるいは損傷させたら、米国と日本はどうすべきか。日米同盟がこれらの問いに対する答えを持たない限り、中国はそのような行動を検討する誘惑に駆られるかもしれない。

 

結言

 私はCSISの2023年レポートは現在の世界情勢においては妥当な見解だと考えますが、ブレジンスキー氏の1997年の見解が今でも有効だと思う人もいるでしょう。

 誰のどの意見に賛同するかは人それぞれあって良いかと思います。

 ただ、いずれにせよこういった難しい話は国際政治学者などプロの意見を色々と並べて見たほうが良さそうです。

 

 

余談

 実のところ、台湾海峡における平和と安定を維持するための日米協力は、日米安全保障協議委員会(2+2)で都度確認されています。

 ただ、それを当のアメリカのトップが理解していない可能性があるのが、まあ一番怖いポイントかもしれません。