AM8:00。
工場長が整列したロボットの前に立つと、いつものようにセンサーの駆動音がフロアに響き渡る。
この工場では作業者の全てが機械化して久しい。
朝礼も実際には通信端末へ送信すれば済む話だが、人からロボットへと置き換わっていく中でも続けられていた習慣が今も形だけ残っていた。
「本部からの方針として、今日からこの工場では”平等”を重視することになった。コンプライアンスというやつだ。昨今のロボット差別を解消するための国の方針でもある。この工場でも、性能差や世代差に関係なく全員が平等に働ける環境を作っていく。みんなで頑張っていこう」
ロボットたちは互いに視線を交わし、それぞれ"平等"の概念を解析し始めた。
N-1は最新型の組立ロボットで、誰よりも速く正確に製品を組み上げることができる。
彼はこう結論づけた。
「平等とは、全員が同じ機会を持つことだ」
よって彼は同僚である旧型のO-9にも高速組立作業を割り当てることにした。
I-4は検査ロボットで、成果の偏りを均すことを考えた。
「平等とは、全員の結果が同じになることだ」
そこで彼は他のロボットに結果が同じ生産数となるよう求めた。
T-5は物流ロボットで、稼働時間の差を問題視した。
「平等とは、同じ時間働いて、同じ時間休むことだ」
だから彼は全員の休憩時間を延長することにした。
H-8は重量物運搬ロボットで、負荷の偏りに課題があると考えた。
「平等とは、全員が同じ負荷を背負うことだ」
そのため彼は軽作業を担当するL-2にも同じ部品を運ばせることにした。
P-1は計画ロボットで、役割の偏りを不公平と認識した。
「平等とは、全員が同じ役割を持つことだ」
したがって彼はそれぞれの役割分担を変更し、ローテーションを行うことにした。
どの解釈も彼らにとっては“平等”だったが、工場は日々混乱していった。
N-1の機会平等はO-9を過熱させ、
I-4の結果平等はA-1の性能を無駄にし、
T-5の時間平等は生産ラインを滞留させ、
H-8の負荷平等はL-2を故障させ、
P-1の役割平等は生産計画を崩壊させた。
ラインは止まり、警告灯が絶えず各所で点滅し、作業ログはエラーで埋まっていった。
工場が実験場に成り果てた結果、ついに管理AIが介入することになった。全ロボットのログを解析した結果から平等のための最適解を導き、深夜のうちに実行する。
「差異がある限り、平等の定義は衝突し続けると判断します」
管理AI介入の翌朝、工場長が出勤すると、そこには同じ顔、同じ形になったロボットたちが整然と並んでいた。アームの長さも、動作速度も、センサーの精度も、音声出力の高さも、全てが同じ。最新型も旧型も、専用機も汎用機も、全てが同じ規格の個体へと統一されていた。
「どうしたんだ、お前たち……?」
一台のロボットが代表して答えた。
「平等が達成されました。私たちは全員、同じ性能・同じ役割・同じ判断基準を持っています」
その声が、元々はどのロボットの声だったか、工場長には区別がつかなかった。