日頃から読んでいる海外の経済学者のsubstackでは時々ドローン兵器の話をされています。最近もそんな記事を投稿されていました。
ただ、その学者さんのドローン兵器に対する少し強めの過信が気になっています。
経済学の観点から「ドローン兵器は安価で効果的だから国家として生産体制を整えるべきである」と主張するのは非常に妥当な見解です。
ただ、先日は「人間の歩兵の時代は急速に終焉を迎えつつある」とまで書いていたので、それはさすがにドローンのゲームチェンジャー的性質を過信し過ぎていると考えます。ドローンは強力な兵器ですが現時点では現行兵器の延長線であり、そこまでゲームチェンジャーではありません。
今回はミクロな戦術的観点ともう少しマクロな観点の双方からドローン兵器について整理してみましょう。
利点と欠点
ドローン兵器はたしかに戦術・戦法の領域において有力な兵器です。
FPV自爆ドローンは近年充分な飛行距離やペイロードを持つようになり、戦場の主な火力を担っています。
射程距離が安価に伸びたことから後方の補給線や司令部も直接打撃されやすくなっており、心理的な拘束効果・移動抑制効果によって砲撃等の有効性を高めていることも事実です。
観測ドローンが砲撃の命中精度を高めたり隠蔽を見破ったりと間接的な効果も発揮していますし、安価に大量投入できることから攻撃密度を高めることにも役立っています。
とはいえ、ドローンを「万能兵器」と考えて予算を過度に集中させた軍が精強無比になるかと言えば、むしろ戦争に負けやすくなると考えられます。
まず戦略レベルの話として、ドローンは限定的な戦域において精密で低コストの武力行使には向いていますが、領土の占領や治安維持、政治的支配には向いていません。そのため現在のウクライナが陥っているように「戦闘には勝てるが戦争には勝ち切れず長期化する」ことが考えられます。目的が「威嚇」や「限定的報復」ならばドローンは非常に有効ですが、「全面戦争」や「領土奪還」の場合は歩兵が前進して土地を占領しなければならず、どれだけドローンで敵の兵士や装甲車を破壊しても政治目的は達成できないためです。
次に作戦レベルの弱点として、単一技術に偏重して依存した組織は必ず破れます。例えばドローンに依存した軍は電子戦や対ドローン兵器に対して著しく脆弱となります。
もちろんこれはドローンに限った話ではなく、大企業が事業の柱を複数持つのと同じで、技術決定論の罠を避けるためにはどのような組織であっても多角化が必須です。軍隊も予算をドローンに集中するとそれだけリスクが高まるため、今まで通り歩兵・砲兵・工兵・兵站などにも適切に予算を配分する必要があります。
兵站の側面からすれば、ドローンは「消耗品」だとした認識も必要です。大量かつ飽和的に投入するから効果が高い"工業力による消耗戦"であって、潤沢な海外資金や工業国の支援が不可欠となります。イニシャルコストは高くとも何度も使える兵器と単純に価格だけを比較するのは意味がありません。
ここで、分かりやすい思考実験として、自衛隊とドローンについて考えてみましょう。
自衛隊がドローンに偏重した場合、まず基本構想である「専守防衛」の前提が崩れるでしょう。日本の防衛は島嶼奪還を筆頭に「先手は取られることが前提、奪われてから奪い返す」ことが基準であり、土地を奪い返すことに長けていないドローンとは相性が悪いです。もちろん補助的・攻勢時には有効ですが、従来能力もちゃんと維持できている前提でのプラスアルファとなります。
そもそも専守防衛として大きく予算を割いているのはミサイルなどへの迎撃・対空・海上輸送・レーダー装備であり、そちらの予算をドローンで食ってしまっては本末転倒です。
"工業力による消耗戦"用の装備であることもあまり相性が宜しくありません。工場はともかく、特にバッテリー系の資源に懸念があるためです。資源不足の島国が優先して選ぶべき戦略ではないでしょう。
以上より、日本としてはドローンに偏重すると政治目的を達成できないため、対ドローン戦の準備はしっかりと行い、すでに哨戒や偵察などで活用しているUAVのさらなる研究は進めつつ、ドローンに偏り過ぎない構成とすることが妥当かと思われます。
専門家の見解
まあ私の素人意見よりも専門家の見解を見たほうが早いです。
今回は一つ、政治学者であり安全保障の専門家の意見を抄訳します。
(抄訳)
結論
ドローンをめぐる議論全体を総合すると、ドローン技術は、紛争の種類、紛争における政治的目的、そして使用される技術の種類によっては、ゲームチェンジャーとなり得るだけでなく、保有者にとっての「魔法の弾丸」となり、場合によっては国家の命運すら左右し得ることが示唆される。一方で、ドローンが他の紛争の結果に対して独立した決定的効果をもたらせない場合もあることが分かった。
もっとも、これらの知見は、意図された通り一定の留保をもって受け止める必要がある。ここで扱われているのは非常に限定的な状況や文脈である。しかしそれでも、将来の紛争におけるドローンの潜在的影響を判断するために、研究者や政策立案者が問うべき一連の問いを提示している。どのような種類の紛争なのか。目的は何か。どのようなドローン技術が存在し、誰がそれを保有しているのか。これらの問いに対する答えによって、ドローン運用の有効性は異なってくる。
また本稿では、戦争において技術が果たす役割を強調する一方で、戦争を技術中心に捉えすぎることへの警鐘も鳴らしてきた。やや皮肉なことに、この点を最も簡潔に表現しているのはマーティン・ファン・クレフェルトであり、彼は「戦争とは本質的に技術の問題であり、技術的優位を獲得・維持することで勝利を追求すべきだという考えは、自明でも、必ずしも正しいわけでも、さらには決して古くから存在する考えでもない」と指摘している。
もし私たちが、単一の技術が普遍的に戦争を変えると考えるなら、その考えは確実に誤りであることが証明されるだろう。もし単一の技術が常に保有者に有利に働く、あるいは最も高い能力を持つ主体がその技術を最も効果的に運用できると考えるなら、それは近視眼的であることが明らかになるだろう。むしろ、本研究の根底にある前提は、このような問いを考える際には、紛争のより深層にある政治的文脈へ目を向けるべきだという点にある。
ここで述べられているように、「単一の技術が普遍的に戦争を変えると考えるなら、その考えは確実に誤り」です。戦争の勝敗を決めるのは政治目的・組織・兵站・人間の意思であり、技術は道具に過ぎません。
結言
ドローンに限らず、私が時々軍事の話をするのは次の2つを真理と考えているためです。
- 政治、経済、軍事は不可分であり、どれかを理解するためには全てを学ぶ必要がある
- 直視し理解して学ばなければ避けられない、医者が病気を学ぶように、警備会社が泥棒のやり方を学ぶように、平和を求める者は軍事や戦争を学ぶべき
私は技術屋であり、品質不良や市場トラブルをこの上なく恐れています。
「品質不良はイヤだ、品質不良は避けるべきだ、品質不良の話は聞きたくもない」と念仏を唱えることで避けられるのであればそうしますが、現実はそうではない以上、不良も戦争も同様に、どうしてそれが発生し、どうすれば対策できるか頭を使って考える必要があると考える次第です。
余談
ちなみに、ドローン兵器については個人的に少し悲観的だったりします。
(抄訳)
「誤解のないように言えば、遠隔革命(remote revolution)は、ドローンが戦争を防ぐことを意味するものではない」とリン=グリーンバーグは書いている。実際、彼が強調する問題の一つは、指導者たちがドローンを“より低コストな手段”と見なすことで生じる「モラルハザード」であり、それによって軍事的衝突がかえって増加する可能性があるという点である。
How drones are altering contemporary warfare | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
有人機と無人機の攻撃は”攻撃”という事象自体は同じですが、文化的・心理的には意味合いの異なるものです。無人機の場合、送った側はそれが迎撃されても味方の人命が失われないことから報復をエスカレートさせませんし、攻撃をされた側も無人の攻撃を有人の攻撃よりも低強度だと心理的に判断します。
つまり無人機が主流になればなるほど戦争のエスカレーション自体は控えめになり、しかし軍事的衝突はハードルが下がって頻発するようになり、トータルとして世界各地でドンパチが起こる頻度が増えるのではないかと私は考えます。