私は年金をもらうにはまだまだ遠い年齢ですし、お金が関わる話をするのはどうにも苦手です。
ただなんというか、煽りめいた記事がトレンド入りしているのを見ると、なんとなく一言居士めいた気分が沸々と。良くないのですけどね、こういうのは。
別に現政権を擁護する気持ちは特にありませんし、むしろビシビシ責めていいと思っていますけど、この記事のような煽り方は攻め口が悪いのではないかと思うのです。
急に言い出したわけでも無し
年金の支給額については少なくとも5年に一度見直して調整すると決まっていますので、2024年の改正に向けて年金支給額の調整案が出ること自体は過去に決めたルール通りです。
また今回話題となっているマクロ経済スライド終了時期の統一に関しては、そもそも2020年の時点で厚生労働省が試算して、2021年には日本総研が評価レポートを提出していますので、現政権が急に言い出したわけでもありません。
もちろん支給額を減らすことがたとえ予定通りだとしても、いざ減額が目の前に迫ってくれば反発してしまうのが人の情というものです。金の問題は人間の情を強く刺激しますので、行政は国民の同意を得られるよう積極的な情報発信を行うべきだとは思います。
ただ、「現政権が悪いんだー!」というのはちょっと焦点がズレてしまいます。この辺りは2004年の小泉政権による年金改革が根源ですので、責めるのであれば「現与党が悪いんだー!」としたほうがいいような気がします。もしくは年金制度を考えた昔の人です。
計算条件が一面的では?
今回のマクロ経済スライド終了時期統一は、基礎年金を2046年としていたものを2033年に短縮、厚生年金を2025年としていたものを2033年に延期という案です。その結果、減額期間が延びる厚生年金は減って基礎年金は増えるということになります。
日本総研さんの図が見やすいので引用させてもらいます。
出典:日本総研 「マクロ経済スライド終了時期統一および基礎年金45年加入案の評価と課題」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/viewpoint/pdf/12543.pdf
このマクロ経済スライド終了時期を2033年に統一することでサラリーマンの年金がカットされるというのがマネーポストWEBさんの記事です。
記事で示されていた図を引用させてもらいます。
出典:マネーポストWEB 「国民年金を厚生年金で穴埋め 岸田政権が進める「令和の年金大改悪」の姑息なトリック」
https://www.moneypost.jp/955438/3/
この表は2033年の統一時点での支給減額分を示しています。
ただ、終了時期の統一による支給減を比較するのであれば、2046年までの総額で見なければ意味が無いのでは?
つまり、元々の終了時期では2046年まで基礎年金部分は減額していくところ、統一すれば2033年までで減額が止まります。片方は延長して片方は短縮している以上、2033年単独ではなく期間全体での増減額を評価しなければ意味が無いように思います。
もちろん時間の差があるので現時点での年齢によっては支給額が下がるパターンはありますが、2033年単独での比較はちょっとセンセーショナルさを追い求めすぎではないかと。
ソフトランディングとハードランディング
年金問題はとても難しい問題です。すでに年金をもらっている世代や年金を見越した人生設計をしてきた世代と、まだ人生設計の修正が可能な若者世代ではまったく視点が異なるため、全体での合意を得にくい問題と言えます。
よって安易な結論を出すことは決してできないのですが、ただ1点、年金制度が限界であることは衆目の見解が一致するかと思います。
限界を迎えた年金制度を徐々に細らせてソフトランディングさせるか、無理矢理にでも支給額を維持してハードランディングさせるかとなれば、私はソフトランディングを目指すべきだと考える次第です。
若者世代からすれば正直どちらでもいい話です。なにせまだ人生設計の修正が可能ですし、すでに年金制度での損は確定しているので今更な話です。
むしろ積み立て型になったほうが若者には望ましいくらいで、さっさと制度にクラッシュしてもらったほうがいいと思う人もいるでしょう。
ただ、年金制度は積立金を基にして運用されています。可能な限り支給額を維持しようとすればその元手部分を食い潰す他なく、それが枯渇してのハードランディングとなると支給額は一挙に大幅カットされることになります。
出典:日本総研 「マクロ経済スライド終了時期統一および基礎年金45年加入案の評価と課題」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/viewpoint/pdf/12543.pdf
このような事態が発生しては年金を基に生活している人や年金を見込んで人生設計をしていた人の中には生活すらままならなくなる人が出る可能性があります。
そのため、将来のクラッシュを防ぎ人命を救うためにも損は覚悟でソフトランディングを目指していくのが穏当な方向性かと考えます。
最期に、日本総研の評価レポートから引用させてもらいます。
出典:日本総研 「マクロ経済スライド終了時期統一および基礎年金45年加入案の評価と課題」
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/viewpoint/pdf/12543.pdf