忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

教えたがらない人の是非:属人性の功罪

 先日は「教えたがり」に関して記事を書きましたが、世の中にはその真逆である「教えたがらない人」もいます。個人的には過剰な「教えたがり」と同程度に「教えたがらない」人も問題ではないかと考えているため、少し語っていきます。

 

属人化

 仕事の代替性が無い状態のことを「属人性がある」と言います。属人とは人に属する、すなわち仕事に対して人が割り当てられている状態ではなく、人に対して仕事が存在する状態です。

 また、その人が居なければその仕事が回らないという状態になることを属人化と言います。その人が休職したり不慮の事故に遭遇して出勤できなくなったりと不測の事態が発生した場合、属人化した仕事は回らなくなります。

 属人化には正の面も存在しますが、とはいえ事業継続性を高めるためにも組織としては仕事が属人化することを嫌う傾向にあるのは道理というものです。

 

 しかし、どの職場でも少し探せば見つかるかと思いますが、自身がどのような仕事をしているかを人に開示せず、業務マニュアルや手順書の作成もせず、チームによる協業ではなく個人で仕事を抱え込み仕事を属人化してしまう人がいます。

 そもそもその仕事に対して一人しかアサインされていないという場合はやむを得ない事態ですが、そうではなくチームで業務を分担している場合の話です。

 

属人化が発生する理由

 人それぞれ教えたがらない理由は様々でしょうが、属人化が発生する状況についていくつか例を挙げていきましょう。

 

 まず、難易度が高く根本的に代替性が無い場合は否応なしに業務が属人化します。極めて優れた人材でなければ為せない仕事をこなしている場合はそもそも人に教えようがないからです。

 これは属人性の正の側面で、その人でなければできない仕事をビジネスの核にすることは一つの戦略です。これが上手くハマれば競合他社との価格競争で疲弊したり類似製品と市場で争うことなく群を抜いた業績を期待できます。何せその人でなければできない仕事である以上、他社は真似しようがありません。シリコンバレーや北京が高度な人材を多額の報酬によって世界中からかき集めているのはこういったビジネス戦略があるためです。

 もちろんこの戦略は大組織では採用が難しく事業継続上のリスクを抱えるものですが、逆に言えば身軽なベンチャーが積極的に採用すべき戦略とも言えます。まずは事業を軌道に乗せてシェアを確保することが優先であり、安定性はその後でも問題ないのですから。

 

 前述の理由とは反対に、能力が低い人も教えたがらず仕事を属人化する傾向があります。これは自らの人的価値を高めることが目的です。仕事を属人化してしまえば追い出されず使い続けてもらえるという打算と自己保身であり、決してポジティブな人的価値の高め方とは言えません。自らの保身のために組織を構成する人々全員の生活を人質に取っているようなものであり、言ってしまえば属人性の負の側面です。

 これは新しい技能を身につける自信が無かったり仕事の能力に自信が無い人が行いがちな愚策です。自らの持っている仕事を誰かに引き継いだ結果、自分が役に立たない存在になることを恐れるがゆえに仕事を属人化してしまいます。

 確かにどのような些細で単純で簡単で容易な仕事であろうとも、それを他者に共有せず他者が人が手を出せない状態を作ることは可能です。そうすればその人が居なくなっては困るという事態になることでしょう。

 しかしそれは決して業績や成果に寄与するものではありません。特に日本企業は年齢に応じて給与が変動する組織も多く、歳を取って給料は上がっているがやっている仕事は給料に見合っていない低レベルなものとなり、組織としては損失に他なりません。

 

 前者の属人性はであり、後者の属人性はであると私は考えます。

 

負の属人性を避けるには

 負の属人性を避けるためには多少非合理であろうとも活発な人事異動をすること、もしくは属人性の除去を人事考課の評価対象とすることが有効です。

 仕事に自信が持てないのは単純な能力だけでなく適正や人間関係の問題もあります。人事異動を活発に行うことは適材適所に人を配置できる確率が高まりますし、嫌でも仕事を手放すので属人化することが回避できるでしょう。

 また仕事の属人性を排除するということは業務マニュアルや手順書を作成して他者に教示するということです。これは組織の新陳代謝に不可欠な行いであり、技術伝承を適切に評価することは仕事を手放すことへの恐怖心の払拭となります。

 

 いずれにしても属人化が発生するのは自然なことと心する必要があります。「恐怖を感じるな」というような強制は無意味です。よって仕組みによって属人化が起きないような方策を取らなければなりません。

 

 

余談

 私は極端なまでの属人性大嫌い人間です。私が明日死んでも後任が仕事できるようマニュアルなり計算書なりを手あたり次第作成するのが趣味です。効率的な仕事のやり方だって職場で全部公開していますし、良いやり方があればどんどん教えてもらいます。

 何も会社のためとかそんな気持ちはこれっぽちもなく、本当にただの趣味だったりします。

 私は同じ仕事を二度以上やりたくないのです

 ワガママ極まりない話ですが、だって、同じことを何度もやるのは退屈じゃないですか。私ができるようになった仕事はとっとと他の若手にでも任せて、私はもっとハイレベルで面白い仕事をやりたいわけで。仕事を抱え込んでいたら新しい仕事にチャレンジする手が空かないのですから、さっと若手に投げつけたいという自己中心的な発想です。

 一応ちゃんと手順をパッケージして放り出すのは、まあ、最低限の礼節というか礼儀というか詫びというか、そういった気持ちなだけです。若手は若手でまたその下に仕事を流してもらえれば組織の新陳代謝が進むので理想的だと考えています。