ネット上で不定期に話題となる脆弱国家(失敗国家)、その具体的な定義と評価項目の詳細に関して、個人的なメモとして記録します。
日本の具体的なスコアは過去記事に記載しています。
脆弱国家(失敗国家)の大枠を理解するならば、うちの記事を読むよりも以下の動画を見ることをおススメします。とても分かりやすく、なにより投稿者の菊之字さんの言語センスが抜群に高くて面白いです。
情報量で言えばアニオタWikiが充実しています。
◆失敗国家 - アニヲタWiki(仮) - atwiki(アットウィキ)
この記事は、脆弱国家(失敗国家)を簡単に説明し、各項目の詳細を淡々と翻訳するだけの記事です。
誤訳がありましたら指摘いただけますと幸甚です。
【目次】
- 脆弱国家(失敗国家)の定義と簡単な説明
- C1: 安全機構(Security Apparatus)
- C2: エリートの派閥(Factionalized Elites)
- C3: 集団の不平不満(Group Grievance)
- E1: 経済の衰退(Economic Decline)
- E2: 経済発展の不均衡(Uneven Economic Development)
- E3: 海外への人材流出(Human Flight and Brain Drain)
- P1: 国家の正当性(State Legitimacy)
- P2: 公共サービス(Public Services)
- P3: 人権と法の支配(Human Rights and Rule of Law)
- S1: 人口動態圧力(Demographic Pressures)
- S2: 難民と国内避難民(Refugees and IDPs)
- X1: 海外からの干渉(External Intervention)
- まとめ
脆弱国家(失敗国家)の定義と簡単な説明
脆弱国家(失敗国家)は慣用句的に用いられることも多い言葉ですが、狭義では脆弱国家指数(Fragile States Index:FSI)として、アメリカのシンクタンクである平和基金会(FFP)が各国の状況を数値化して毎年公表している指標によって定義されています。
◆Fragile States Index | The Fund for Peace
2014年までは失敗国家(Failed States)という直球なネーミングでしたが、2014年からは脆弱国家(Fragile States)という名称に変わっていますので注意が必要です。
ランキングは12項目の指標によって採点されています。
各項目のスコアは10点満点で、最高スコアは120点です。
120点に近いほど不安定で危険な状態、0点に近いほど安定的で持続的な状態と判定されます。
12項目は次のようになっています。
■団結に関する指標(COHESION INDICATORS)
C1: 安全機構(Security Apparatus)
C2: エリートの派閥(Factionalized Elites)
C3: 集団の不平不満(Group Grievance)
■経済に関する指標(ECONOMIC INDICATORS)
E1: 経済の衰退(Economic Decline)
E2: 経済発展の不均衡(Uneven Economic Development)
E3: 海外への人材流出(Human Flight and Brain Drain)
■政治に関する指標(POLITICAL INDICATORS)
P1: 国家の正当性(State Legitimacy)
P2: 公共サービス(Public Services)
P3: 人権と法の支配(Human Rights and Rule of Law)
■社会的・横断的な指標(SOCIAL AND CROSS-CUTTING INDICATORS)
S1: 人口動態圧力(Demographic Pressures)
S2: 難民と国内避難民(Refugees and IDPs)
X1: 海外からの干渉(External Intervention)
以下に各項目の詳細を記述していきます。
なお、脆弱国家(失敗国家)のトップ10はどこも100点以上の高スコアを記録しています。
つまり、以下に説明する項目において「ほぼ全ての項目で悪い方に該当する」のが脆弱国家(失敗国家)だと考えながら各項目を見ていただけると、脆弱国家(失敗国家)がどのようなものなのかイメージが湧きやすいかと思います。
C1: 安全機構(Security Apparatus)
【C1:安全機構】は爆破テロや攻撃・戦闘による死者、反政府活動、反乱、クーデター、テロなど、国家にとっての安全保障上の脅威を考慮する指標です。他にも組織犯罪や殺人などの重大な犯罪要因や、国内の安全保障に対する市民からの信頼感も考慮されます。
安全機構には従来の軍や警察だけでなく、国家が支援する民兵や政治指導者やその一党に奉仕する非正規の部隊も含みます。
その逆に、統治権力者に抵抗する武力組織や暴力的な反乱、独立民兵、自警団、傭兵も指標では考慮されます。
この指標は以下の点で評価されます。
■武力行使の独占
- 軍隊:軍隊は文民統制下にあるか?
- 民兵:国家に対抗する独立民兵は存在するか?
- パラミリ:準軍事的(パラミリタリー)な活動は存在するか?
- 私兵:資産を守るための私兵が存在するか?
- ゲリラ:国家内でゲリラが活動しているか?ゲリラが領土を占領しているか?
■安全保障と市民の関係
- 警察の専門化:警察はプロフェッショナルだと思われているか?
- 政治的暴力:国家が政治的動機で暴力を振るっているか?
- 安全保障上の脅威に対する政府の対応:政府は反乱や治安状況に対処できているか?
■武力行使
- 武力行使:軍や警察は適切な武力行使を維持しているか?
- 警察の残虐行為に対する非難:警察の残虐行為に対して非難はあるか?
■武器
- 武器の拡散:武器の入手可能性は高いか?
- DDRプログラム:国家が復興中の場合、元戦闘員の動員解除や武装解除、社会復帰のための適切な計画はあるか?
C2: エリートの派閥(Factionalized Elites)
【C2:エリートの派閥】は民族・階級・氏族・人種・宗教の違いによる国家機関の分断や、支配層同士の対立や膠着状態を考慮する指標です。
また支配層のエリートがナショナリズムや外国人排斥、共同体帰属主義、共同体連帯(民族浄化や信仰の擁護)の観点から民族主義的なレトリックを用いることも考慮します。
極端な場合、市民全体を代表するものとして広く受け入れられている正当なリーダーシップの不在を象徴している場合もあります。
この指標は権力闘争や政治競争、政治的移行を測定し、選挙が行われる場所で選挙プロセスの信頼性が保たれているかを考慮します。
この指標は以下の点で評価されます。
■代表的なリーダーシップ
- リーダーシップ:リーダーシップは公正に選ばれているか?リーダーシップは国民を代表するものか?
- 分断化:エリートの派閥、エリートの部族、非主流派は存在するか?その勢力はどの程度か?
- 政治的和解:政治的和解のプロセスはあるか?
- 軍隊の代表性:軍は市民を代表しているか?
■アイデンティティ
- ナショナルアイデンティティ:ナショナルアイデンティティの意識はあるか?ナショナリズムへの強い思いはあるか、あるいは分離主義を求める声はあるか?
- 過激なレトリック:ヘイトを報じるラジオやメディアは存在するか?
- ステレオタイプ:宗教的や民族的、その他のステレオタイプが蔓延しているか?スケープゴートになっていないか?
- 異文化の尊重:異文化の尊重は存在するか?
■資源の分配
- 富の集中:富が一部の人に集中しているか?
- 成長する中産階級:中産階級が急成長しているか?
- 資源の支配:ある集団が資源の大部分を支配しているか?
- 資源の分配:資源は公平に分配されているか?政府は税を通じて富を適切に分配しているか?
■平等と公平
- 法律:法律は民主的か?その最遠か?
- 司法制度における代表性:司法制度は国民を代表する制度か?
C3: 集団の不平不満(Group Grievance)
【C3:集団の不平不満】は社会における異なる集団間の分裂・分断、及びサービスや資源へのアクセス、政治プロセスへの参加におけるその役割に焦点を当てた指標です。
集団の不満には歴史的な要素もあり、不満を持つ集団はその集団の役割や他の集団との関係に影響を与え、形成している過去の不正を、時には何世紀も遡って引き合いに出すことがあります。このような歴史は現実の、あるいは認識されている残虐行為や、集団に対して明らかに不問に付された犯罪のパターンによって形成されている可能性があります。
また、集団は自分たちに権利があると信じている自治・自決・政治的独立を否定されて、悲嘆に暮れている場合もあります。
特定の集団が国家権力や支配者集団によって迫害や抑圧の対象にされたり、富や地位、権力を”不法に”手に入れたと思われる集団がスケープゴートにされたり、ヘイトが行われている場合も本指標は考慮します。
この指標は以下の点で評価されます。
■紛争後の対応
- 真実と和解:真実と和解のプロセスは存在するか、あるいは計画されているか、必要とされているか?
- 再統合:該当する場合、集団は再統合されたか?
- 復興:復興と開発のための計画はあるか?
- 被害者への補償:過去の残虐行為の被害者は補償を受けているか?補償の計画はあるか?
- 戦争犯罪:戦争犯罪者は逮捕されて訴追されているか?国民は彼らが適切に罰せられていると感じているか?
- 恩赦:恩赦は付与されているか?
■平等性
- 資源の分配:資源の公平かつ効率的な分配がされているか?
■境界
- 集団の憎悪や寛容:民族的・宗教的不寛容や暴力の感情に対する報告があるか?
- 集団の抑圧:集団は抑圧されているか、抑圧されていると感じているか?
- 歴史:ある集団に対する暴力や集団の不満の歴史はあるか?
- 集団間の関係:部族間、民族間の関係はどうか?
- 宗教的迫害や寛容:法律に従い、社会で実践されている宗教の自由はあるか?宗教的な動機による暴力の報告はあるか?
■地域社会における暴力
- 自警団的正義:自警団的正義(私的制裁)の報告はあるか?
- 集団暴力:大規模な暴力や殺害の報告はあるか?人種的動機による暴力の報告はあるか?
E1: 経済の衰退(Economic Decline)
【E1:経済の衰退】は国内の経済錐体に関連する要素を考慮する指標です。例えば一人当たりの所得、GDP、失業率、インフレ率、生産性、負債、貧困レベル、企業の倒産など、社会全体の経済的衰退が進行しているパターンを考慮します。また、商品価格、貿易収入、外国投資の急激な下落、自国通貨の暴落や切り下げも考慮します。
緊縮財政プログラムによる極端な社会的苦難や、集団の不平等の拡大など、経済状況への対応やその結果も考慮します。
この指標は正規の経済だけでなく、麻薬や人身売買を含む不法取引、資本逃避、汚職やマネーロンダリングや横領といった不法取引にも焦点を当てています。
この指標は以下の点で評価されます。
■財政
- 政府債務:政府債務はどうなっているか?
■経済状況
- 金利:金利はどうなっているか?(実際と予想)
- インフレ率:インフレ率はどうなっているか?(実際と予想)
- 生産性:生産性はどうなっているか?
- GDP:GDPはどうなっているか?(実際と予想)
- 失業率:失業率はどうなっているか?
■経済情勢
- 消費者信頼感:人々の景況感はどうなっているか?
- 国民経済:専門家は経済をどのように見ているか?
- FDI:FDI(外国直接投資)にとって魅力的なビジネス環境か?
- 起業家精神:法律や資本へのアクセスは起業を可能にするか?
■経済の多様性
- 経済の焦点:ある製品が経済の大半を占めているか?
E2: 経済発展の不均衡(Uneven Economic Development)
【E2:経済発展の不均衡】は経済の実際のパフォーマンスではなく、経済内での不平等を考慮する指標です。例えば人種、民族、宗教、その他のアイデンティティグループ、教育、経済的地位、地域に基づく構造的不平等が挙げられます。
この指標は実際の不平等だけでなく、不平等に対する認識も考慮します。経済的不平等に対する認識は、実際の不平等と同様に不平等を助長し、集団の緊張や民族主義的なレトリックを強化しかねないことを認識しているためです。
経済的不平等の測定に加えて、この指標は雇用、教育、職業訓練へのアクセスなど、集団が経済的地位を向上させる機会も考慮に入れており、経済的不平等がどの程度構造的で強固なものであるかについても考慮しています。
この指標は以下の点で評価されます。
■経済的な平等性
- 経済的平等:経済格差は大きいか?
- 経済的差別:経済制度は差別的か?
- 経済的正義:経済的正義・公正は存在するか?
- 雇用慣行:雇用慣行は法的にも、認識的にも一般的に公正か?
- 社会システム:社会には平等な権利が存在するか?
- 平等な権利に対する法律:平等な権利を保護する法律があるか?
■経済的機会
- 無償教育:無償教育は存在するか?存在するとしたらどの学年までか?
- 平等な教育:提供される教育は比較的平等か?
- 公正な住宅:貧しい人のための住宅制度はあるか?
- 職業訓練:職業訓練のためのプログラムは存在するか?
- 職業訓練へのアクセス:人々が職業訓練についてしっているか?また資格や必要性に基づいて利用できるか?
■社会経済動学
- ゲットー・スラム:ゲットーやスラム街は存在するか?
E3: 海外への人材流出(Human Flight and Brain Drain)
【E3:海外への人材流出】は経済的や政治的な理由による人間の移動がもたらす経済的影響と、それが国の発展にもたらす可能性を考慮する指標です。
中産階級、特に起業家などの経済的生産性の高い層や医者などの熟練労働者が自国の経済状況の悪化や、より良い機会を求めて自発的に移住することがあります。
一方、迫害や抑圧のために自国を離れざるを得ない専門家や知識人、特に生産性の高い熟練した専門家を失うことによる経済への影響も含まれます。
この指標は以下の点で評価されます。
■技術資本・知的資本の保持
- 専門家:専門家は国外に流出しているか?
- 政治家:政治家が国外に流出しているか?
- 頭脳流出:高学歴の国外流出の割合が相対的に高いか?
- 中産階級:中産階級が国内に戻り始めているか?
■経済
- 送金:海外の親族から家族への送金が多いか?
P1: 国家の正当性(State Legitimacy)
【P1:国家の正当性】は政府の代表性と開放性、及び政府と市民との関係を考慮する指標です。国家機関やプロセスに対する国民の信頼度を調査し、大規模な市民デモ、持続的な反抗、武装反乱の勃発など、信頼度が低下した場合の影響を評価しています。
この指標は必ずしも民主的なガバナンスを判断するものではありませんが、選挙が行われた場合の選挙の完全性と政治的移行の性質、選挙が行われない場合には政府が統治する市民をどの程度代表しているかを考慮しています。
この指標では政府の開放性、支配的エリートの透明性、説明責任、政治的代表性に対する開放性、あるいは逆に汚職、利益供与、反対派グループの排除、迫害、その他の排除のレベルを考慮に入れています。
また、徴税能力など、国民の政府や制度に対する信頼を推し量る基本的な機能を発揮する国家の能力も考慮しています。
この指標は以下の点で評価されます。
■政治プロセスへの信頼感
- 政府への信頼感:政府は国民の信頼を得ているか?
■政治的対立
- 平和的なデモ:平和的なデモが発生したか?
- 暴動と蜂起:暴動が発生したことはあるか?
■透明性
- 政府関係者の汚職:政府関係者の汚職の証拠があるか?
- 役人の汚職の摘発:連邦政府または地方政府の職員は汚職に手を染めていると考えられるか?
■政治的プロセスの開放性と公正性
- 政治的権利:全ての政党の政治的権利が存在するか?
- 政府の構成:政府は国民を代表しているか?
- リーダーシップの変遷:平和的な政権交代が行われたか?
- 政権交代の歴史:長期的に見て政権交代の歴史はどうなっているか?
- 選挙に対する認識:選挙は自由で公正であると認識されているか?
- 選挙の監視:選挙は監視され、自由で公正であると報告されているか?
■政治的暴力
- 政治的な暗殺:政治的な動機による攻撃や暗殺が報告されているか?
- 武装反乱:武装した反乱軍や攻撃について報告されているか?
- テロ:自爆テロなどのテロは起きているか?または発生の可能性は?
P2: 公共サービス(Public Services)
【P2:公共サービス】は国民に奉仕する基本的な国家機能の存在を考慮する指標です。健康、教育、水と衛生、交通インフラ、電力、インターネット接続など、必要不可欠なサービスの提供を含みます。また、効果的な取り締まりを認識することによって、テロや暴力などから国民を守る国家の能力も含まれます。
基本的な国家機能やサービスが提供されている場合でも、国家が安全機構、政府職員、中央銀行、外交官など支配的エリートに限定的にサービスを提供し、一般住民には同等のサービスを提供しているかなど、誰に向けたサービスなのかも考慮しています。
また、この指標は一般的なインフラのレベルやメンテナンスも考慮しており、その欠如が国の実際の発展や潜在的な発展に悪影響を与えることを示唆しています。
この指標は以下の点で評価されます。
■公共サービス全般の提供
- 公共サービスの平等性:公共サービスへのアクセスは平等か?
- 公共サービス全般:公共サービスの一般的な状況はどうなっているか?
■健康
- 医薬品へのアクセス:人々は医薬品に十分なアクセスを持っているか?
- 診療所や病院の数:人口に対して十分な数の医療施設があるか?
- 医師の数:人口に対して適切な数の医療従事者がいるか?
- 乳幼児の死亡率:乳幼児の死亡率はどの程度か?(実際と予想)
- 飲用水:適切な飲料水の供給が受けられるか?
- 衛生設備:衛生設備は充分か?
■教育
- 就学状況:学校への就学率はどの程度か?男女で差はあるか?
- 識字率:識字率はどの程度か?男女で差はあるか?
■居住
- 住宅へのアクセス:貧困層は適切な住宅にアクセスできるか?
- 住宅コスト:住宅コストは一般的な経済水準に見合ったものか?
■インフラ
- 道路:道路は適切で安全か?
- 空港:持続可能な発展のために適切な空港があるか?
- 鉄道:持続可能な発展のために適切な鉄道があるか?
- 燃料の供給:燃料の供給は充分か?
P3: 人権と法の支配(Human Rights and Rule of Law)
【P3:人権と法の支配】は基本的人権が保護されて、自由が守られて、尊重されているかに関する国家と住民との関係を考慮する指標です。個人、集団、組織を含む、法律的、政治的、社会的権利の濫用が広く行われているかどうかを評価しています。(報道への嫌がらせ、司法の政治化、政治目的のための軍の利用、政敵への弾圧など)
この指標は政治的な犯罪とは異なる暴力が一般市民に対して行われた場合も考慮しています。また、政治犯や反体制派に対する国際的な規範や慣行に沿った適正な手続きの否定、憲法や民主主義の制度やプロセスが停止または操作されている権威主義、独裁主義、軍事支配が現在または新たに存在するかどうかといった要素も考慮しています。
この指標は以下の点で評価されます。
■市民的・政治的権利
- 権利:共同生活権、労働権、政治権、少数民族の権利が存在し、それらが保護されているか?
- 公民権:公民権の法律が存在し、公民権が保護されているか?
- 生命への権利:全ての国民に生命への権利が保護されているか?
■市民的・政治的自由
- 言論の自由:言論の自由を守る法律はあるか?
- 移動の自由:移動の自由はあるか?
- 信教の自由:宗教の自由は存在するか?宗教的過激派は存在するか?
■権利の侵害
- 組織的な権利侵害:政府または属する組織による体系的な権利侵害の歴史があるか?
- 拷問:国や団体による拷問が報告されているか?
- 強制労働:労働法、または強制労働の報告はあるか?
- 児童労働:児童労働法、または児童労働の報告はあるか?
- 強制的な移転:集団は強制的に移転させられているか?移転が行われる場合、適切な補償を行う制度があるか?
■開放性
- 独立系メディアの存在:独立したメディアは存在するか?そのメディアの記者は、権力者に対する非難を自由に発表できるか?
- 情報へのアクセス:情報へのアクセスは平等か?
■正義・公正
- 法的な制度:権利が保護されない場合、それに対処するための法制度はあるか?
- 公正な裁判:被告人は公平でタイムリーな裁判を受けているか?これは全ての人に平等に与えられているか?
- 恣意的な逮捕:恣意的な逮捕の告発や報告はあるか?これらは国によって支援されているか?
- 違法な拘束:違法な拘束の告発や報告はあるか?これらは国家によるものか?
- 刑務所の状況:刑務所の環境はどうなっているか?
■平等性
- 権利の共有:政治的な権力の共有を促すプロセスやシステムがあるか?
S1: 人口動態圧力(Demographic Pressures)
【S1:人口動態圧力】は人口そのもの、あるいは人口を取り巻く環境から生じる国家への圧力を考慮する指標です。例えば食料供給、安全な水へのアクセス、その他の生命維持に必要な資源、または疾病の流行や疾病などの健康に関連する人口圧力を評価しています。人口増加率の高さや人口分布の偏りによる圧力、あるいは競合する集団間の人口増加率の急激な差など、人口動態の特徴を考慮し、そのような影響が経済や政治に重大な影響を及ぼす可能性があることを認識しています。
また、人口だけでなく、過酷な気象(ハリケーン、地震、洪水、干ばつ)から生じる圧力や、環境ハザードによる人口への圧力も考慮します。
この指標は以下の点で評価されます。
■人口
- 人口増加:人口増加率は持続可能か?
- 人口分布:現在および将来の分布は妥当か?
- 人口密度:人口密度は地域を圧迫しているか?
- 乳幼児死亡率:乳幼児死亡率はどの程度か?(実際と予想)
- 孤児人口:孤児人口が多いか?
■公衆衛生
- 疾病の管理:病気やパンデミックの蔓延を抑制する仕組みがあるか?
- 疾病の流行:流行する疾病が存在する可能性が高いか?もしくは存在しているか?
- HIV:HIV患者の増加率は?(実際と予想)
■食品と栄養
- 食料の供給:食料供給は潜在的な中断に対処するのに充分か?
- 干ばつ:干ばつの可能性が高いか?もしくは発生しているか?
- 飢餓:短期的な食糧不足を緩和する必要があるか?
- 栄養失調:長期的な食糧不足が健康に影響を及ぼしているか?
■環境
- 環境:健全な環境政策が存在し、現在の慣行が持続可能であるか?
- 自然災害の可能性:自然災害の可能性は高いか?繰り返し起こるか?
- 自然災害の影響:自然災害が発生した場合、適切な対応策があるか?
- 森林伐採:森林破壊は起きていないか?森林を保護する法律はあるか?
■資源
- 資源:資源競争は存在するか?紛争を仲裁する法律はあるか?
- 土地競争:土地競争は存在するか?紛争を仲裁する法律はあるか?
- 水の供給:適切な飲料水の供給が受けられるか?
S2: 難民と国内避難民(Refugees and IDPs)
【S2:難民と国内避難民】は社会的、政治的、環境的、あるいはその他の原因によって大規模なコミュニティが強制的に移動させられることによって生じる国家の圧力を評価する指標です。国内の移動だけでなく、他国への難民の流入も測定しています。
この指標は難民の流入が公共サービスにさらなる圧力をかけ、受け入れ国に吸収する能力と適切な資源が無い場合、より広範な人道的・安全保障上の問題を引き起こす可能性があることを認識し、庇護国別に評価しています。
この指標は出身国別の国内避難民と難民を測定します。これは暴力、環境、あるいは健康上の疾病などの他の要因の結果として、国家内部の圧力を意味します。
国家の人口と人間開発の軌跡の中で考慮され、また難民や国内避難民の中には長期間に渡って避難している人もいることを認識し、長期的な視線で考慮します。
この指標は以下の点で評価されます。
■難民
- 難民の流入:難民は近隣諸国からやってくる可能性が高いか?
- 難民の影響:予測される難民と実際の難民に対応するための資源はあるか?
- 難民キャンプの増加:難民キャンプは充分か?もしくは難民は地域社会に溶け込んでいるか?
- 難民に対する暴力:難民に対する暴力の報告はあるか?
- 難民キャンプの安全性:難民キャンプでの状況は安全か?
■国内避難民
- 国内避難民の数:人口に対して国内避難民がどの程度いるか?
- 国内避難民の増加:近い将来、国内避難民が増加する可能性はあるか?
- 国内避難民の影響:予測される国内避難民と実際の国内避難民に対応するための資源はあるか?
■避難民への対応
- 救援活動:難民や国内避難民のために、国際社会から資源を受け取ることができるか?
- 移転と定住:現在の難民や国内避難民の移転や定住のための計画はあるか?
X1: 海外からの干渉(External Intervention)
【X1:海外からの干渉】は国家の機能(特に安全保障と経済)において、外部のアクターが及ぼす影響とインパクトを考慮する指標です。外部介入は政府、軍隊、情報機関、アイデンティティグループ、または国家内のパワーバランスに影響を与える可能性があるその他の主体によって危険に晒される国家の内政に、秘密裏に、または公然と外部主体が関与するといった安全保障面に焦点を当てて考慮します。
他方、この指標は、多国間機関を含む外部主体が、大規模な融資、開発プロジェクト、または対外援助を通して、継続的な予算支援、財政のコントロール、国家の経済政策の管理など、経済依存を生み出す経済的関与にも焦点を当てます。
外部介入はPKOの派遣など、人道的介入も視野に入れています。
この指標は以下の点で評価されます。
■政治的介入
- 派閥に対する外部からの支援:政府に反対する派閥に対する外部からの支援はあるか?
■武力介入
- 外国人部隊の存在:外国の軍隊は存在するか?
- 国境を越えた軍事攻撃:他国からの軍事攻撃は行われているか?
- 軍事援助:外部からの軍事援助があるか?
- 軍事訓練:他国との軍事訓練や他国からの軍事訓練支援が行われているか?
- 平和維持:現地でPKOが行われているか?
- 警察の訓練:警察訓練に対する外部からの支援はあるか?
- 秘密介入:秘密作戦は行われているか?
■経済介入
- 経済介入または援助:経済援助を受けているか?
- 援助への依存度:経済援助に依存しているか?
まとめ
以上が12項目の詳細な判定基準です。
脆弱国家(失敗国家)と判定される国々は、これら項目のほぼ全てで厳しい判定をされている、厳しい状況に置かれた国家です。
最後に、脆弱国家指数(FSI)が算定されている目的は、どこの国がマシかを比べ合ったり破綻国家を揶揄することではなく、問題の診断が目的です。平和基金会のwebサイトから一文を引用して終わります。
The Fragile States Index presents a diagnosis of the problem, the first step in devising strategies for strengthening weak and failing states. The more reliably policymakers can anticipate, monitor, and measure problems, the more they can act to prevent violent breakdowns, protect civilians caught in the crossfire, and promote recovery.
脆弱国家指数(FSI)は、脆弱国家や破綻国家を強化するための戦略を考察するための最初のステップとなる、問題の診断を提示しています。政策立案者が問題を予測し、監視し、測定することができれば、暴力的な崩壊を防ぎ、銃撃戦に巻き込まれた市民を保護し、復興を促進するための行動ができるようになります。