忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

失敗国家/脆弱国家ランキング(2022年度)と日本のスコア:Fragile States Index 2022

 先日、脆弱国家ランキング(旧称:失敗国家ランキング):Fragile States Indexが2022年度版に更新されたため、その内容を見ていきましょう。

(2021年はこちら)

(失敗国家/脆弱国家ランキングの詳細はこちら)

 

脆弱国家ランキングとは?

 脆弱国家ランキング(Fragile States Index:FSI)とは、アメリカのシンクタンクである平和基金会(FFP)が各国の状況を数値化して毎年ランキングとして公表している指標です。2014年までは失敗国家という直球なネーミングでしたが、2014年からは脆弱国家という表現に変わっています。

fragilestatesindex.org

 ランキングは12項目の指標によって採点されています。それぞれのスコアは10点満点で、最高点数は120点です。120点に近いほど不安定で危険な状態、0点に近いほど安定的で持続的な状態と判定されます

 FSIではスコアによって区分がされており、目安としては以下のような印象です。

~30点:持続的(どこにも大きな問題を抱えていない国)

~60点:安定(一つ二つ大きな問題を抱えている国)

~90点:要注意(複数の項目で大きな問題を抱えている国)

~120点:警戒態勢(全ての項目が致命的に悪い国)

 2022年度の1位(最も不安定な国家)はイエメンの111.7点です。2019年度の113.5点から徐々に改善の傾向は見えますが、これで4年連続首位となります。2位のソマリアは110.5点と僅差ではありますが、ソマリアはここ10年で1位か2位しか取っていない常連国であるのに対して、イエメンはアラブの春前後やその後の内戦の影響で年々順位を落としての1位定着のため、状況の悪化が見て取れます。

 2022年度の179位(最も安定的な国家)はフィンランドの15.1点です。フィンランドは10年以上最下位を独占しており、世界的に最も安定した国家として評価されています。また、FSIで最下位を取ったことがある国はフィンランドとノルウェーのみです。

 2022年度の日本は161位で31点です。昨年度のスコアは32.2点だったため若干の改善はあるものの、順位は変わらず161位のままです。30点未満が持続可能という評価であるため日本はそこに届かず安定的という評価ですが、179か国中で19番目の低スコアですので充分に良い状態だと言えます。

 スコアの傾向としても、2012年度の発表では東日本大震災によって大きくスコアを落としていますが、それ以降は安定的に改善傾向を示しています。

 

日本のスコア

 具体的に日本のスコア内訳を見ていきましょう。スコアに大きな変動が無く順位も無難な位置にいることから、残念ながら例年の分析レポートでは日本のスコアに対する詳細情報が公開されていません。よってスコアの基準のみを説明することになります。

 全体として改善傾向、もしくは変化無しとなっています。悪化した項目は2つ、経済発展の不均衡人口動態圧力です。

 経済発展の不均衡は経済そのものではなく経済圏での不均衡を数値化している項目です。評価の大項目は[経済的平等/経済的機会]で、具体的には[経済格差/制度の平等/経済的公平性/雇用慣行/社会制度の権利/男女同権/無償教育の存在/教育の平等性/住宅の公平性/職業訓練の存在/職業訓練へのアクセス性]が評価の基準です。

 今回の日本の評価でどの項目が減点対象となったかは不明ですが、単年度で大きく変動するとなれば制度的な問題ではなく、経済格差の拡大が大きくなっていることが重視されたのだと推定します。

 スコア2.4自体は十分に低スコアであり、同点数にはドイツがいます。とはいえ昨年の1.9は世界的に見ても上位であり、スコアが2.4になったことで10国ほどに追い抜かれているため、やはり改善は必要です。

 人口動態圧力は人口構成による社会全体への歪みだけでなく、環境や資源に関しても含まれる項目です。評価の大項目は[人口推移/公衆衛生/食料と栄養/環境/資源]で、具体的には[人口増加率/人口分布/人口密度/乳児死亡率/孤児の人口/病気の制御/疫病の流行/HIVの増加率/食料供給/干ばつ/飢餓/栄養失調/環境政策/自然災害/自然災害の影響/森林伐採/資源競争/土地競争/水の供給]が評価の基準です。

 日本は元々この項目が常に悪く、合計スコアの足を引っ張っています。公衆衛生以外で日本が優位である項目は少なく、特に環境は如何ともしがたいものです。2012年度の評価では東日本大震災が発生したことにより8.3点まで悪化したこともあります。

 また慢性的にスコアが高いのは人口推移の影響が大きいことも事実でしょう。現状の少子高齢化が続く限り、人口動態圧力のスコアが改善する見込みは無いと考えます。

 

結言

 順位は変わらず179か国中161位であったものの、全体として日本のスコアは改善されており決して悪くはない評価です。

 悪化した項目の中でも経済発展の不均衡に関してはまだ国際的に十分上位であり、致命的な課題とは言えません。

 但し人口動態圧力は6.2と高いスコアになっており、過去17年のFSIデータから見ても2012年度の東日本大震災による8.3に続く2番目に高いスコアです。自然災害や資源問題は土地柄上やむを得ないものとしても、人口推移は改善しなければならない日本の宿痾と言えそうです。