日本の輸出管理厳格化が解除されて韓国がグループA(優遇国)に復帰した際、韓国の産業構造が少し気になったので知識をアップデートするために調べていました。
せっかくなのでブログに書こうと思っていたのですが、書くのを忘れていました。
韓国の企業とは仕事で多少のやり取りをしていて色々と大変そうな内情を聞いてはいますが、それはさておき、今回はそういった実体的な部分ではなくもっと俯瞰的な産業構造について見ていきましょう。
優秀な産業構造
ある国家の産業構造の特徴や国家の生産力を図る指標の一つに経済複雑性指標(ECI:Economic Complexity Index)があります。
(過去の紹介記事)
経済複雑性指標は輸出品目の多様性と複雑性に基づいて国をランキングしたものである。複雑性の高い国は高度で専門化した様々な能力を備えており、高度に多様化した複雑な製品群を生産することが出来る。
一国の経済的な複雑さを決定するのはその国の生産的知識だけではない。その国がどれだけの能力を有しているかはその国が作る製品の絶対数だけでなく、その製品の偏在性や他国の高度化・多様性も含まれる。
経済複雑性指標は国家の輸出品目の多様さと偏在性によって評価をする指標です。
つまり輸出品目が多岐に渡っていて、さらに他国では生産できない高度で特異な製品を輸出している国はこの指標で高得点を得ることができます。
本指標は日本が20年以上1位を独占していますが、実は韓国も侮れず、現在では日本、スイス、ドイツに次いで4位にまで上り詰めています。
以前の韓国は世界の組立工場の側面が強く、今もその傾向は無きにしもあらずではありますが、日本が戦後歩んできた道のりと同様に現在は高度で多様な製品を輸出できるようになっています。
2020年のツリーマップ比較
具体的に内訳を見てみましょう。データセットは2020年が最新のため、2020年のデータを用います。
データ元:The Atlas of Economic Complexity
【韓国】
この内訳について、日本と比較しつつ見ていきます。
【日本】
また、石油・原油(Petroleum oils, crude)に大きく依存しているアンゴラのツリーマップも参考として提示します。
【アンゴラ】
まず、日本と韓国で輸出品目の大枠には大差ありません。どちらも資源が少なく工業に力を入れている国であり、サービス(Service)、電子機器(Electronics)、乗り物(Vehicles)、化学(Chemicals)、機械(Machinery)が輸出の主軸です。細かく言えば韓国は電子機器に少し偏重しています。
各分野の内訳から比率トップ5をピックアップしてみます。
サービス分野ではさほど語るほどの違いはありません。
個人的に気になるのは観光・旅行への力の入れ方です。2008年に観光庁が発足した際には「工業立国を諦めて観光に頼るなんてもう日本はおしまいだ」と一部で言われていたのを覚えていますが、グローバルシェアを見ても分かるように他の先進国も観光・旅行には力を入れています。
【観光・旅行のシェア】
むしろ日本は観光・旅行のシェアがまだまだ低く、伸びしろがある分野です。韓国や他国を見習ってもっと力を入れてもいいかと思います。
電子機器では傾向の差があり、世間で言われているように日本は部品が多く韓国は完成品の比率が高くなっています。また韓国の集積回路への依存度は意外と高く、電子機器のうち50%を越えています。半導体関連の世界的な動きに対して韓国が過敏になるのは必然かもしれません。
乗り物では韓国が自動車と造船業に力を入れていることが分かる比率となっています。ただし好調な自動車業界に対して造船業は収益の面で厳しい事情があることから、今後の動向に注目です。
化学分野は各国で得意なものが異なるため、トップ5も大きく異なります。唯一、美容用品だけは両国とも主力の輸出品目です。
韓国は免疫血清やワクチンを多く輸出しています。新薬創出の面ではまだ他国に及びませんが、他の業界と同様に既存製品の生産技術・量産に長けていることが理由だと考えられます。
(参考)
売れる新薬を創出する国はアメリカ、スイス、日本、イギリス、ドイツなどです。
◆世界売上高上位医薬品の創出企業国籍調査を振り返る | 政策研ニュース | 医薬産業政策研究所
機械は化学と同様に各国で得意分野が異なるため、トップ5の様相も異なります。電子機器とは逆に、日本はどちらかと言えば完成品、韓国は部品を多く輸出しているようです。
各種機械部品(HSコード8473)は幅が広く一言でまとめるのは難しいのですが、計算機やオフィス機器を構成する部品を指します。
結言
他にも各産業の変遷や実際のグロバールシェアの度合い、輸出入先の違いなど無数の切り口で比較することができますが、いくら紙幅があっても足りませんので今回は一例のみを提示して終わりとします。
総合して、韓国は日本よりも輸出品目の比率に偏りはあるものの、それでも経済複雑性指標では4位に位置付けていることから高度で偏在した製品を選ぶ「選択と集中」に長けた国であることが分かります。逆に日本は基幹技術の幅が広く様々な品目を輸出できるものの、選択と集中は不得手と言えるかもしれません。持続性やイノベーションの面で言えば裾野が広い日本の方が優れているでしょうが、韓国は「選択と集中」によって強みを発揮できることから分野や物品によっては決して侮れない国であることを留意する必要があるでしょう。