忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

ただの日記

 

 特別なことが無い日でも日記は書いていいと思う。

 

ゴールデンウィーク初日

 午前中は引っ越しの準備を進め、ていたつもりだがあまり片付かなかった。気が付いたら椅子で寝てしまっていたので、恐らく疲労が蓄積されているのだろう。4月から通勤時間が大幅に伸びたことが恐らく原因だと思う。あとしばらくの辛抱とはいえ早々に引っ越しを済ませて通勤時間を改善したい。

 

 午後は正式に賃貸契約を結ぶため東京へ赴いた。

 なんとも気が重い。出掛けることや契約そのものではなく、もっとろくでもない理由で足が進まない。

 ただただ、署名をすることが嫌だという、実にくだらない理由だ。

 両親の献身的な教育にも関わらず私は字がとてもヘタである。人様にお見せできるような真っ当な字を書くことができない。性根が歪んでいるせいか、ただの不器用なのか、どうにも線がひずむ。書き慣れた己の名ですら不安定だ。そのため書いた字を人に見られることが恥ずかしい。

 IT化やDXが謳われる昨今のご時世においても不動産業界では古式ゆかしい伝統的な紙のプロセスが継続されているため、否応なしに直筆サインを求められる。残念ながら不動産業界は私の味方ではなさそうだ。なんとも我儘な話ではあるが勘弁してほしい。

 「字が汚いからあんまり署名したくないんですよね」と初対面の不動産営業マンへ話しかける程度には恥じらいと縁遠い私ではあるが、「大丈夫です、充分読めますよ」といった親切なフォローにはさすがに赤面した。

 

 そんなこんなで生息地へ帰ってきたのは夕方過ぎ。

 車から電車にライフスタイルが変わったことで移動ルートが大幅に変更されたため、ここ最近は引っ越し前の思い出作りがてら今まで行ったことのない駅周辺の飲食店へあちこち赴いている。車で移動していた時は郊外の商業施設に赴くことが多く、駐車に困る駅近場の店には行かなかったので新しい店との出会いは意外と多い。

 今日は気紛れでバスに乗らず、歩いて帰っている途中に見かけた、駅から少し遠い居酒屋の引き戸を開くことにした。

 この手の小さな居酒屋は若者にとっては少し入りにくいだろうが、私もいい歳のおっさんであり気後れするようなことはない。

 そもそも大学時代に東北の片田舎で酒を覚えた身としては、若者が好むようなチェーン店やうら若い女性が居るような店よりは、おじいちゃんがやっている居酒屋やおばあちゃんがやっているスナックのほうが行き慣れている。こじんまりとした居酒屋はむしろ私の原風景の1つであり、己のフィールドだとすら言える。

 住宅街にあるその店は繁盛しており、まだ夕暮れがようやく本日の役目を終えたばかりだからか子連れのファミリー顧客が多数入っていた。

 退屈そうに歩き回る子どもにぶつからないよう回避しつつカウンターに座る。メニューを見ると予想通り、住宅街にある居酒屋らしくランチタイムでなくとも定食が揃っているようだ。

 席に座って早々に、適当に定食を1つと、まあアルコールを頼まないのも不自然かと思いビールを頼んだ。呑みたいわけではなかったが、居酒屋に入った以上は郷に従おう。

 繁盛していたためか定食はなかなか出てこない。ビールとお通しが無くなって手持無沙汰だったので熱燗を追加で一本頼む。熱燗を持ってきた店員は待たせちゃってごめんなさいねと謝るが、大丈夫ですよと答えた。家族経営の居酒屋にスピードを求めるような野暮は言わないのが大人というものだ。早く飯を食いたいのであればチェーン店にでも行けばいい。

 熱燗が半分ほど胃に収まった頃、ホッケの定食がついに届いた。

 居酒屋で食べるホッケは大好物だ。勝手知ったる間柄で呑む時には取り分けを拒むために私一人用のホッケを頼むことがあるくらいに。もちろん普段はそんな卑しいことはしないが、知った仲からは「お前好きだもんな」と受け入れられている。

 

 ホッケの定食を食べた後に残っていた熱燗を流し込み、会計を済ませて店から出る。入店時よりも夜闇が少し深まり肌寒さを感じるが身体は充分に温まっている。途中でバスに乗ってもいいが、まあせっかく温まったのだから歩いて帰ろう。この道を歩く機会はもうさほど無いのだから。