忘れん坊の外部記憶域

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マーケットインが出来ない政治家は勝てない

 マーケティングの用語に「プロダクトアウト」「マーケットイン」という言葉があります。

 これらは厳密な定義のある言葉ではなく、また人によって異なる捉え方を持っている和製英語でもあるため安易に取り扱いにくいのではありますが、本記事では大雑把に次のような定義で用います。

 

プロダクトアウト:製品の提供側からの発想で開発や販売を行う活動

マーケットイン:購買者からの発想で開発や販売を行う活動

 

 これ以外にも「自社のシーズに基づいて製品開発を行うのがプロダクトアウト、市場のニーズに合わせて製品開発を行うのがマーケットインである」という解釈もありますし、そもそも市場のニーズに合わせて活動するのはどちらも同じであって二元対立構造ではないという意見もあります。

 ようするに「何を作れば売れるか」という思考のアプローチを説明するための言葉であって、それを知っている人は世界中にほとんど居ない以上、曖昧にならざるを得ない言葉というわけです。

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 ビジネスにおいてプロダクトアウトとマーケットインのどちらが良いかは状況によるとしか言えません。顧客のニーズを考慮せず自社の都合によるプロダクトアウトのみで製品開発をすればほとんどの場合で顧客には見向きもされませんし、顧客が自身のニーズをちゃんと把握しているわけでもない以上、マーケットインに傾注したからといって売れるわけでもありません。

 大変な話ではありますが、自社の強みと市場の要求、プロダクトアウトとマーケットイン、双方を天秤にかけてバランスを取りながら製品を開発して上市するしかないという当然の結論になります。売れることがビジネスにおける正義である以上、そのためには様々な手段を用いて努力すべしということです。

 

 「こういう製品を売れば誰もが買ってくれる」というのが事前に分かるのであれば楽な話なのですが、そんなことは不可能なのでやむを得ない話です。

 

民主主義の政治においても同様

 ビジネスではプロダクトアウトとマーケットインのどちらが有効かは不明瞭であり、時々に合わせてどちらも用いるべきです。

 そしてこれは民主主義における政治家にも同じことが言えます

 政治におけるプロダクトアウトとマーケットインを例示するのであれば、次のような表現が適切でしょうか。

 

【プロダクトアウト】

 政治家「我々はこのような政治を行うことを望んでいる。それに同意して付いてきて欲しい」

【マーケットイン】

 政治家「我々は皆さんが望むような政治を行いたい。何か要求があれば伝えて欲しい」

 

 残念ながら政治家の多くはプロダクトアウトに比重を置き過ぎていると思っています。

 確かに信念や筋の点ではプロダクトアウトのほうが望ましいことは間違いありません。「どのような政治を行いたいか」というプロダクトアウトの信念を持たないのであれば政治の世界に足を踏み入れるべきではないでしょう。

 しかしビジネスにおいて売れることが正義であるのと同様、民主主義国家の政治において重要なのは多数派を形成することに他なりません。

 これは信念や筋に必ずしも同意しない人からの賛同を集めることも不可欠ということです。同じ信念を持つ人のみで多数派が形成されるような集団を人は全体主義と言います。民主主義や自由主義の国はそうではなく、異なる信念を持つ人々が集団を形成している以上、信念や筋に同意する支持者だけを集めていては多数派を形成することは決してできません。

 

 何も信念や筋を捨ててマーケットインに傾注しろと言っているわけではありません。それはただのポピュリズムに過ぎませんし、信義に悖るような行いはそれだけで支持を失うことでしょう。

 そうではなく、プロダクトアウトを求める支持者とマーケットインを求める賛同者、双方の支持を得るよう努力すべしという話です。立派な信念というプロダクトアウト1本で戦うのではなく、マーケットインという武器の活用、すなわち支持者以外の意見も取り入れて賛同者を増やすような戦い方をして欲しいのです。

 

 世の中にはプロダクトアウトによる信念に殉じる活動家が大勢居ます。むしろ活動家というのはそういった生き様を粋としていますし、それが活動家の仕事であり正義です。

 しかし政治家は人々のために世の中をより良くすることが仕事であり、現実に物事を調整して変えるのが仕事です。そのためにはあらゆる手を尽くして現実を改変しなければならず、信念に殉じるのは政治家の仕事ではありません。

 大変厳しい表現となりますが、「今回は負けてしまい何も出来ていないが、我々は信念を保ち筋を貫き通している」というような政治家なんて仕事をしていないのと同じです。

 

 

余談

 まあ、「我々は信念を曲げ、筋を通さず、忖度と妥協に従う」というような政治家も当然ながら論外なのが難しいところです。ビジネスと同様、プロダクトアウトとマーケットインのバランスをどう保つかは常に課題となります。