人それぞれに意見や信念があることから誰がどうだと断定するのは難しく、また個人の名前を挙げるのはあまり好みでは無いため及び腰ながら一般論として語りますが・・・世の中にはろくでもない政治家が多数居ます。権力を乱用したり、汚職をしたり、悪事を揉み消したりといった悪い人です・・・柔らかく話を進めるつもりが思ったよりも直球の入りとなってしまいました。
専制国家や独裁国家にはろくでもない政治家を排除する仕組みが無いことから、構造上そういった類の政治家がのさばるのはやむを得ないところがあります。
しかし民主主義国家であれば本来そういった類の政治家は排除されて然るべきであり、排除するための自浄作用として機能するのが選挙です。だというのに、民主主義を採用している先進国のどこを見渡しても非民主主義の国と同様にろくでもない政治家が存在し続けています。各国の選挙を見ていると「あんな奴に投票するのはおかしい」という声を何処でも見かけることができるくらいに。
そのような声が世界中の民主主義国家で飛び交っているというのにそれでもなおろくでもない政治家が当選し続けるのは何らかの理由があるはずです。「なぜあんな奴が」と言うだけでなく理由を探ることで、次はその「あんな奴」が当選しないようにする方法が見つかるかもしれません。
民主主義の自浄作用が働かない理由
専制国家や独裁国家と比べて民主主義国家は変革速度や意思決定速度が迂遠です。多数が同意する合意の形成には時間が必要であり、それは時に急速な変化を求める時代や人々の要求を満たさないこともあります。
民主主義が優れているのは速度を犠牲にしてより多くの幸福を追求できる可能性があること、また悪政に対して否を突き付けることができる選挙があることです。最善ではないが最悪を避け得ることが民主政治の利点と言えます。
しかしながらその民主主義の自浄作用が働かず、ろくでもない政治家として衆人に認知されている人物がなお得票を得ることができているのか、それを分類すれば2通りが考えられます。
1つは非合理的選択。すなわち民衆が愚かであり、権力政治家の詐術や策略に篭絡されているために民衆が誤った選択をしているという考えです。
これはメディアや情報を権力者が掌握できていた古典であれば正しいでしょうが、情報化著しい現代社会における投票行動を説明するものとしては弱いでしょう。それこそ過去の僅かな失言であっても記録として残っており即座に掘り起こされる時代です。人々が負の情報を得ておらず愚かであるとする分類はナイーブに過ぎると考えます。
また自浄作用を損ねかねない選挙制度そのものに関しても問題はあるとは考えていますが、しかしどのような国の選挙においても同様の「なぜあんな奴が」という声は出ますので、今回は制度に関する問題を除外して検討を進めます。
もう1つは合理的選択。すなわちどれほどろくでもない政治家であっても、その政治家に投票することが合理的利得であると人々が判断する場合、その政治家は得票を得ることができます。
合理的選択には正負があり、その政治家が当選することにより正の利得を得ることが期待できる場合、もしくはその政治家以外が当選することにより負の損失が発生することが想定される場合、人々はそのろくでもない政治家へ投票することを合理的に選択するでしょう。
前者の代表格はその政治家に群がる利権団体です。しかし有効投票数を考えればそれが支配的とは言えません。特に日本の例で言えば若年層の最大投票先は与党の自民党であり、彼らは直接的に正の利得を得る立場では無いでしょう。
よって投票行動を支配する要因は後者、その政治家以外が当選することを避けるためにろくでもない政治家へ消極的投票を行う、もしくは棄権をしているため、ろくでもない政治家が引き続き当選することになるのだと考えられます。
代替の不在と戦略の提案
消極的投票行動を解消するのは単純な話で、別の投票先があれば良いでしょう。代替となる対立候補が居るならばろくでもない政治家へ消極的に投票する合理的理由は一切存在しなくなります。
つまるところ、厳しいことを言うようですが、ろくでもない政治家をのさばらせているのはそれ以外の政治家の魅力不足が大きな要因です。投票先の選択肢が不足しているがゆえにろくでもない政治家が生き残っているのであり、ろくでもない政治家よりも正の魅力がある政治家が少ないということが民主主義の機能不全を招いています。
以前に「野党に求めていることは与党の代わりになること」「政権運営の受け皿の機能を求めている」という記事を書いたように、求めているのは代替となり得る対立候補です。
これは見方を変えると、「あんな奴に投票するのはおかしい」という言葉だけでは解決できないことが分かります。それでは「じゃあ誰に投票すればいいんだ」と意見がぶつかり合うばかりです。ろくでもない政治家に投票する人々はその人にとっての合理的選択によって投票しているのであり、それを否定しても頑なになるばかりでしょう。
必要なことは「あいつはろくでもない奴だ」と喧伝することだけでなく、「代わりのこいつは良い奴だ」という対立候補を発見し、育てることです。もっと合理的に見て望ましいと思える政治家を見つけて盛り立てることこそが投票行動を変えさせる大きな効果を持ちます。
いえ、まあ、そのような政治家が少ないというのが根本原因ではあります。しかし存在しないわけでは決してありませんので、こればかりは時間を掛けて皆で探し、育て、盛り立てていくしかありません。
まとめ
他の人の選択が非合理で愚かで誤っていると考えず、それがその人にとっては合理的なのだと考えてみましょう。そして、その相手の合理性に従って代替案を用意することができれば、こちらにより望ましい選択肢を争うことなく相手の意思で取らせることが可能になります。
これは選挙に限らず、他のことにも流用できる思考法です。物事を穏便に、しかし確実に前に進めるためには、否定して叩き潰すのではなく相手が自ら納得できる選択肢を用意することが有効です。