忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

主語が大きいと少し悲しくなる:日本メーカーの品質に関して

 私は製造業に勤める技術屋ですので、他社の品質不正や偽装、不具合情報をチマチマとチェックしています。特に第三者委員会や特別調査委員会が発行する調査報告書はなるべく目を通します。半分くらいは趣味ですが、自社で同じようなことがあったら困りますので役立つ情報があれば横展開する、まあケーススタディの一環です。

 

日野自動車は凄い(ある意味)

 今月は日野自動車の調査報告書が少しネット上で話題になっていましたが、あれもちゃんと読んでいます。

 内容については・・・不正のレベルが論外だったのでコメントしにくいところです。

 

 いや、まあ、ある種のクリエイティビティを感じはしましたけども。そこらの凡百な企業がやるような「数値書き換え」なんて低レベルな次元だけではなく、まさか「耐久試験中の部品交換」や「測定機器の校正値に誤魔化しを施す」なんてそう思い付く方法じゃないですからね。実に独創性に優れていて驚きです。

 そもそも設計評価に関する考え方も独特で、「ギリギリでも認証試験時に基準を満たせばよい」という発想は凄いです。

 並の設計者やメーカーであれば、

「チャンピオンデータをそのまま使うのは有り得ない」

「量産時でも諸元値を満たせるようにいじわる試験や過酷試験をして、結果のバラつきを分析して確率的に問題ないことを評価する」

というような安全率を考慮した臆病な設計評価をするのが普通ですので、認証時さえ通ればいいなんて勇気のある決断はとてもとてもできません。

 

 と、大変に皮肉めいた意見を述べたくなってしまうためブログでも取り上げませんでしたが、8月22日に追加の不正が発覚したため、まあ、もういいでしょう。

 何よりも「検査を省くためにズルをした」とかそういうレベルではなく、設計が基準を満たせていないのにそれを隠すため不正をしたという、技術レベルでも品質管理レベルでも論外などうしようもない話であり、これは世間から技術力やガバナンスを問われるのも止む無しです。ハッキリ言ってやたらと厳しいトヨタグループで起きた不正とはとても思えません。

 

主語の大きさは悲しみの大きさ

 とまあ、同じ製造業に居る人間としてその信頼性を貶めるような所業に愚痴を吐きつつも、少しだけ製造業側の一意見を述べます。

 この手の偽装や不正が報道されると決まって目にするのが「日本の製造業は駄目だ!」という声です。各社が次々と不正行為を発表していますのでそう言いたくなる気持ちも分からなくはないのですが、じゃあ他国では不正が起きていないかと言えばそういうわけでもありません。海外の自動車メーカーだってリコールをポコポコ出していますし、その他のメーカーも同様です。ただ日本では報道されていないだけです。

 ですので、「日本の製造業は駄目だ!」と主語を大きくされてしまうと製造業に勤める人間としては少し悲しい気持ちになります。

 ゼネラルモーターズやテスラがリコールを出しても「アメリカの製造業は駄目だ!」とは言わないように、フォルクスワーゲンが燃費不正をしても「ドイツの製造業は駄目だ!」とは言わないように、日本で一部のメーカーが不正をしても「日本の製造業は駄目だ!」とまでは言わなくてもいいのではないかな、と。

 もちろんやらかしたメーカー自体を批判するのはいいのですが・・・業界全体を連帯責任的に批判されても困ってしまいますし、悲しいです。

 

30代技術屋の言い分

 少しカッコ悪い言い分を述べます。

 昨今報道されている各社の不正、その多くは10年20年30年と昔から続いていたものが近年のコンプライアンス意識の高まりによって表面化したものがほとんどです。

 つまりバブル崩壊後の不景気による業績悪化や環境悪化を取り繕うために偽装や不正に手を染めたものがほとんどであり、やらかしたのは「今現在前線で働いている若者」ではありません。言い方はとても悪いですが、今は管理職や重役の椅子に座っている人、もしくはすでに定年した方々が過去にやらかした問題が顕在化している状況です。

 そのため、製造業の前線で今汗をかいて働いている人々が悪いかのように報道されると、少し悲しい気持ちになります。

 言ってはなんですが、このような問題が内部告発によって顕在化しているということはコンプライアンス意識をしっかり持った若手・中堅が頑張っている証拠であり、このような爆弾を制作して放置してきたベテランの尻拭いをしているようなものです。そういう真っ当で真面目な人々まで十把一絡げにまとめて批判されてしまうのはなんとも・・・

 

職人気質が失われた企業

 「この刀は納得がいかねえから駄目だ、作り直すぞ」という刀匠のような、今でも古い会社には居る職人気質のおっちゃん。

 それは確かに古臭く泥臭い感覚ではありますが、しかしそこには「良いものだけを顧客に提供する」という美点がありました。そのような行動を継続していては現代の企業競争に勝てないのは事実ではありますが、しかしその姿勢までも捨ててしまうのはもったいないと思うような事例が昨今は相次いでいると、そう思っています。

 確かに不正をしたメーカーは大きく報道されるので目立っていますが、新しい方法を取り入れつつも古き良き価値観を保っている日本メーカーは、今でもたくさん残っているのです。

 

 

余談

 新人の頃、工場長に言われた言葉を思い出します。

「お前、これで本当に顧客が買いたいと思うか?」

「身内に売ってもいいと思えるモノを作れ」