忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

『努力目標』という信用できない言葉

(期首)「これは努力目標だ!達成できないかもしれないが、皆で一丸となって頑張ろう!」

(期末)「目標数値に届いていないじゃないか!何やってるんだ!死に物狂いで達成しろ!」

 

 努力目標がいつの間にか必達目標にすり替わる、世の中ではよくある話です。よくあってたまるかという話でもありますが。信用できない言葉ランキングがあれば『努力目標』はそこそこ上位を獲得できることでしょう。

 

努力目標という言葉が悪いよ

 努力目標とは、達成できる可能性が低いものの努力して達成を目指すべき到達点のことです。努力の度合いによってストレッチ目標やらチャレンジ目標やらの様々な別名を持ちます。対義語は達成目標必達目標です。

 努力目標と銘打たれてはいますが、目標は一般的にSMARTを満たすことが必要であり、努力目標は目標に必要な枠組み(フレーム)を満たしていません

 SMARTは組織やコンサルによっていくつかの定型がありますので、ここではSMARTを提唱したGeorge T. Doranのパターンを引用しましょう。

How to write objectives

The critical question then becomes, "how do you write meaningful objective?" - that is, frame a statement of results to be achieved.
Managers are confused by all the verbiage from seminars, books, magazines, consultants, and so on.
Let me suggest, therefore, that when it comes to writing effective objectives, cooperate officers, managers, and supervisors just have to think of the acronym SMART.
Ideally speaking, each corporate, department, and section objective should be:
Specific- target a specific area for improvement.
Measurable- quantify or at least suggest an indicator of progress.
Assignable- specify who will do it.
Realistic- state what results can realistically be achieved, given available resources.
Time-related- specify when the results can be achieved.

  引用元:George T. Doran 『There's S.M.A.R.T. way to write management's goals and objectives』

(大まかに翻訳)

「目標の書き方」

重要なのは「意味のある目標はどう書けばいいのか?」つまり達成すべき結果を記述する枠組みです。セミナー、書籍、雑誌、コンサルタントなどによってさまざまな表現があり、管理者は混乱しています。

そこで、執行役員や管理者は効果的な目標を書くためにSMARTというアクロニム(頭字語)を思い浮かべればよいのです。
理想を言えば、企業・部・課のそれぞれの目標は、次のようなものでなければなりません。
具体的(Specific):改善をするため特定の領域を狙う。
測定可能性(Measurable):数値化できる、または少なくとも進捗の指標を示唆する。
割当可能性(Assignable):誰がそれを行うかを指定する。
現実的(Realistic):利用可能なリソースがあれば現実的にどのような結果を達成できるかを示す。
時間的制約(Time-related):いつまでに結果を達成できるかを明記する。

 このSMARTに当てはめると、努力目標には具体的(Specific)と測定可能性(Measurable)と現実的(Realistic)が明確に欠けています。努力すれば達成できるかもしれないとはいいますが、どういった努力がどの程度必要かが不透明で曖昧であり、その努力に必要なリソースも、現実的に実現できるかどうかの具体性も、努力目標には皆無です。

 目標にはSMARTが不可欠であり、そもそも『努力』という測定不可能な基準を用いている時点で努力目標は目標と名乗っているだけの願望に過ぎません。

 

 もっと言えば、ビジネス関連で目標を英語で語る時はObjectiveやEnd、Goalを使うのが一般的です。SMARTの提唱者も目標のことはObjectiveと記述しています。

 Objectiveは政治やビジネスで使われる少し固い表現で、『具体的ですぐに達成可能な目標』を意味します。それよりも長期の目標はEndやGoalが使われます。対して『具体性が無く達成可能かどうか分からない願望』はObjectです。

 つまり努力目標は具体性も達成可能性も不明である以上、フォーマルな状況で用いる『目標(objective)』足り得ない、ただの願望です。辛辣な表現を用いますが、要求する努力の度合いによっては妄言戯言の類だとすら言ってもいいでしょう。

 

 もちろん物事において努力は必要ですし、そのために高い位置へ狙いを付けたいという気持ちは分かります。それでモチベーションが上がるのであれば個人が高い目標を立てるのは個人の自由です。

 しかし組織が願望や妄言に基づいて構成員へ強制するような状態は健全とは言えません。よって安易な努力目標の乱用は戒められるべきものだと考えます。ましてや努力目標を必達目標にすり替えるなんて常軌を逸した狂気の沙汰に他なりません。

 

 

余談

 長期的な目標におけるEndとGoalの違いに関する余談。

 Endは具体的な終着点を意味しており、長期的な未来に絶対到達しなければならない目標ですので『必達目標』の訳語が当てられます。

 それに対してGoalはEndほど具体性や実現可能性があるわけではなく、努力や苦難を伴うもののチーム皆で向かうべき目標を意味します。状況によってはGoalも『努力目標』という訳語が当てられるでしょう。

 これはサッカーやバスケットボールの『ゴール』をイメージすると分かりやすいかと思います。あのゴールは必ずしも到達できるとも限らないものであり、しかし皆で頑張って狙うべきターゲットです。あれがまさにGoalです。

 

 ちなみにここ数年世間で話題となっているSDGs、日本語では『持続可能な開発目標』と訳されていますが、元の英語はSustainable Development Goalsです。

 Goalですので、「大変だけど皆でここに向かっていこうな!頑張ろう!達成できなかったとしてもドンマイ!次頑張ればいいさ!」という『努力目標』なのですが、さて、どの程度の人がSDGsを『必達目標』だと誤解しているか、少し気になるところです。