忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

適切な目標設定ができない経営者には存在価値が無い

 本日は珍しく辛口な言葉遣いを用いています。

 

調査報告書が出たようで

 ここ数日、島津製作所の子会社の不適切行為に関してコメントをした過去記事のアクセスがちょっと増えていました。

 なんだろうと思いましたが、どうやら2月10日に外部調査委員会からの調査報告書が発表されたようです。海外出張から帰ってきたゴタゴタで気付きませんでした。

 60ページ弱と少し短い報告書ですが、読んだ結果について述べていきます。

 

目標設定は"極めて"重要

 不適切行為自体については特に追加でコメントすることはありません。

 長期間に渡って行われているうえ隠蔽が容易な手法であることから追跡調査が難しいことは理解できますし、地位の高い人が不適切行為を直々に行っており部下からの内部通報が働きにくかったことも納得です。

 

 本件で最大の問題点は目標設定にあると考えます。

 組織不正の概念に不正のトライアングル(動機・機会・正当化)がありますが、そのうちの『動機』を生み出すものの1つが上層部の無理な目標設定です。

 無茶苦茶で非現実的な目標を設定して、さらにその必達を強引に迫れば下部組織が不正を行う動機になるのは火を見るより明らかです。組織不正を避けて適切な組織運営を行うためには正しい目標設定が不可欠であり、適切な目標設定をすることは経営者の為すべき責務です。

 もっと直截的に言えば、まともな目標設定ができない経営者には存在価値がありません。適当に数字を決めるだけであれば、下っ端社員でも、そこらへんを歩いている中学生でも言えます。

 

前期比・前年比での目標設定は無価値

 今回不適切行為を行った島津メディカルの業績目標は、前期の売上目標やその達成状況等を参考に、数%の加算をした数値として決定されていたようです。

 これはやってはいけない目標設定の典型です。無価値です。設定しないほうがマシです。

 前期比・前年比から数%加算の目標値は、目標設定に必要なフレームワークであるSMARTを満たしていません。そこには具体的(Specific)と現実的(Realistic)が明確に欠けています。

具体的(Specific):改善をするため特定の領域を狙う。
測定可能性(Measurable):数値化できる、または少なくとも進捗の指標を示唆する。
割当可能性(Assignable):誰がそれを行うかを指定する。
現実的(Realistic):利用可能なリソースがあれば現実的にどのような結果を達成できるかを示す。
時間的制約(Time-related):いつまでに結果を達成できるかを明記する。

 

 無理な目標数値を達成するために不正をやらかした類似例にスルガ銀行の不正融資があります。その調査報告書に素晴らしいインタビューが残っていますので引用しましょう。

「何を基にノルマの数字が決められているか分からない。ノルマの問題は、その地域における住宅着工事例や1か月の売買実績等の市況だとか、潜在的な市場がどのくらいある商品なのかといったことを全く考えず、単に数字だけ押し付けられるところ。例えれば、釣り堀に魚が10匹いないのに10匹とってこいといわれる状況。」

 本件はまさしく同様です。誤った目標設定が引き起こす不正の典型例とすら言えます。

 

 目標設定は内外部の状況を広く把握した上で実現可能なことを設定しなければなりません。体重60kgの人に100kg痩せる目標を設定しても達成は無理なのです。その必達を迫られれば数字で嘘をついたり悪事に手を染めなければどうにもなりません。

 つまるところ、組織の目標設定とは、膨大な情報を収集し、分析し、理解し、掌握した上で初めて設定出来る困難な行為であり、安易に数%の上乗せを指示するようなものを目標設定と呼ぶのは烏滸がましいというものです。数%売上アップをただ指示するだけであれば部外者の私にだってできます

 

技術部門の売上をKPIにしてはいけない

 本件ではサービス技術者のKPIが売上で設定されていたようです。その売上目標を達成するために故障していない部品を故障したとして、顧客に費用を請求していました。

 絶望的なまでに論外です理解に苦しむどころか理解ができません

 メンテナンスでどれだけの部品売上が立つかを決めるのは営業部門の販売数と故障数と故障個所などで決まることであり、サービス技術者がコントロールできることではありません。サービス技術者からすれば運否天賦の領域であり、その必達を求められれば不正も止む無しとなるのは当然のことです。

 

 過去記事でも書きましたが、技術部門の売上をKPIに設定するのは無理筋です。

・・・え?技術屋ですよ?設計やコストダウンがお仕事ですよ?なして売上?売上アップに繋がる設計案件が来るかどうかはこちらの努力次第ではなく営業と顧客の都合じゃん?コストダウンは売上には見た目繋がらないから評価されないじゃん?どげんしろと?コストダウン額とか設計した数とかでは何故に駄目なん?

 目標設定は対象部署のコントロールできる項目を設定しなければなりません。サービス技術者であれば「作業時間」「完了数」「顧客満足度」といった本人たちの工夫と努力で改善可能な項目を指標とすべきであり、彼らにとってアンコントローラブルな「売上」を指標にするなんて論外以外の何物でもありません。

 統一した方が分かりやすいからと部署に関係なく同じKPIを用いるのは、ただの経営者の怠慢です。

 

結言

 それはまあ、不適切行為を行った人は確かに悪いです。処罰を受けるのも当然です。

 しかしこんな目標を設定した人こそが不正の真因であり、より責めを負うべきです。

 適切な目標設定ができない経営者には存在価値が無い、もっと言えば存在するだけで不正を産む温床となるのですから。

 

 

余談

 松下幸之助のような天才実業家が述べるように「高い目標を設定してストレッチさせる」方法も確かにあります。しかしそれをやる場合は必達を求めてはいけません。こんなことは常識以前の話です。

 さらに言えば、松下幸之助が適当な目標数値を出しても経営が上手く回っていたのは単純な理由で、”経営者が松下幸之助だったから”です。普通の経営者が松下幸之助と同じようなことを言えば同じような結果を出せると思うなんて、なんとも自信過剰ではないでしょうか。