問題解決における概念、フレームワークの一つに三現主義があります。これは「現場・現物・現実」の三現を重視して物事に当たることを推奨する標語です。
なにも難しい話ではなく、当たり前のことです。ただ頭の中でだけ考えていては机上の空論に陥りかねませんので、実際に現場に赴き、現物を手に取って、現実を見ることはとても大切です。
昨今では五現主義や三直三現主義など三現主義を拡張した標語もありますが、基本は三現主義がベースにあります。
三現主義はどのような業界、どのような仕事においても概ね適用可能です。いかなる理屈やシミュレーションでも現場・現物・現実に勝るものではありません。
ただ、三現主義を過信した言説を時々見かけるため、その戒めを提言したいと考えます。
現場・現物・現実を見れば分かるとは限らない
前述したように、三現主義に勝る現状把握方法はありません。古くから言われるように『百聞は一見に如かず』であり、いくら沈思黙考して頭を捻って考えようが実際の現場現物現実に勝るものではない以上、三現主義は現状把握の手段として望ましい考え方です。
ただし、「三現主義で物事にあたれば必ず現状把握できる」と考えるのは過信です。現場で現物に触れたからといって必ずしも適切な現状把握ができるわけではありません。
三現主義によって現状を正しく把握できる人とは『現場現物現実を見れば分析ができる人』に限られます。分析ができる能力を持った人が三現主義に従うことで”より正しく”現状把握ができるのであり、誰もが三現主義にさえ従っていれば現状把握ができるようになるわけではありません。
簡単なたとえ話をしましょう。
例えば刑事や探偵ではない人を事件現場に連れて行って凶器や目撃証言といった現物を見せれば正しく現状把握をして犯人を捜査するための手がかりを見つけられるでしょうか?
あるいは電車にまったく詳しくない人を電車の事故現場に連れていって、車両や線路といった現物を見せれば事故原因を分析することができるでしょうか?
当然ながら不可能です。それらは専門知識が必要な領域であり、どれだけ三現主義を徹底したとしても土台となる専門知識が無ければ問題解決を図ることはできません。
よって「三現主義で物事にあたれば必ず現状把握できる」は過言かつ過信です。
三現主義とは考え方のフレームワークに過ぎず、できる人がより効率的にこなすためのツールであって、できない人ができるようになるための道具ではありません。
これは三現主義に限らず、他のフレームワークでも同様のことが言えます。
一例として、古典ですが製造業の品質管理手法の一つにQC7つ道具があります。これは品質管理に関する専門的な知識を習熟した人が用いることで効率的な品質管理を実施するためのツールであり、これさえ覚えれば品質管理ができるようになる魔法のツールではありません。それを理解せずに「とにかくまずはQC7つ道具を覚えればいい」と教育しているところが散見されますが、残念ながらそれではあまり意味がありません。
結言
フレームワーク自体を否定しているわけではありません。それらはとても役立つ有用なツールです。
ただ、まずはツールの使い方を教えるのではなく、ツールを用いるための土台となる知識をもった人材を育成することを優先すべきではないかと考えます。
たとえどれだけ優れた道具であっても、その使い方と、使う目的を分かっている人が用いるからこそ役に立ちます。
(同様の話)
つまり「なぜ?」を繰り返して問題の真因を見つけることができるのはその道の専門家・プロフェッショナルだけなのです。そういった専門家が問題の原因を深掘りするために「なぜ?」を繰り返そう、というのがなぜなぜ分析であって、「なぜ?」を繰り返せば誰がやっても真因に辿り着けるというわけではないのです。この誰がやるかということを考えずにただ「なぜ?」を繰り返せばいいと考えるのはなぜなぜ分析を完全に誤解しています。